表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極度の人見知りが男女比1:20の世界に転生した  作者: ウルセ
暑い夏休み
69/78

家出5

フロントガラスの上からぬっと手が出てきた。

それに続いて次は目玉が出てきて、中を覗き込むように見ている。

目玉は車内を見渡し、僕と目が合った。


も、もしかして車がぶつかった時に死んでしまった人が、化けて出てきたんじゃないか?


目が合った事による恐怖で、勝手に金縛りにあっていると、今度はさらにもう片方の手を出てきた。

そしてその手に持っている何かを、フロントガラスに叩き付ける。


その叩き付ける様からは、なんとしても殺してやる。

そんな全く嬉しくない意気込みを感じた。


ただボーッと何度もバンバンという音が車内に響く所を見ていた。

軍事用ヘリは今は側面から火花を散らす事はなく、ただ僕達の前を飛び照らし続けているだけ。


お姉さんも何も言わず、ただ爆走している車を運転しているだけのようだ。


もしかしたらお姉さんも、今起きている事象に恐怖し、心の中で懺悔しているのかもしれない。


ていうかそうだよ。僕は巻き込まれたんだ。

誰がジェットエンジン搭載の車で、迎えに来ると思うのか。


だからお願いします。

なにか呪いを掛けるなら、是非ともお姉さんに。


「フフフ、美月! 飛ぶから身構えといて! 」


やけに弾んだ声でお姉さんは叫んだ。


……飛ぶ? 飛ぶって何だっけ?


未だにフロントガラスを叩きつけている手を、僕は虚無の瞳で見つめながら、あどけない脳みそで考える。


飛ぶ…… fly…… あの夏の夜空を?


首を上に動かし、銃痕の僅かな間から輝く星を見つめる。

目の前を飛ぶ軍事用ヘリからのライトに負けず、その星は逞しく輝いていた。


あの星に僕は近ずく事ができるのか。

それなら飛ぶ事もありかも……


「いや、飛ぶってなんですか!?」


「言葉の通り! 」


色を戻した瞳で前を見ると、軍事用ヘリは居なくなり、どこか屋内を走っていた。


僕を襲う、エレベーターに乗っている時に起こる、フワフワとした感覚。


一瞬だけ、幾つもの車が並んでいるのが見えた。

どうやら駐車場のようだ。


「行くよ〜!」


お姉さんが発した声からは、どこかワクワクしているように感じられた。


なにが楽しいんだ!?


そして次の瞬間、ボカンと何かにぶつかった音ともに、先程とはレベルが違う程の浮遊感。


恐怖によって自然と閉じられた目を開けると、フロントガラスから見える景色は夏の夜空へと変わっていた。


「と、飛んでる!? 」


広がる絶景に興じる前に、とんでもない現実に卒倒しそうになる。

散々フロントガラスを叩いていた人も、流石に撤退したらしい。


あのバンバンという音が懐かしい。

ああ、あの頃に戻りたいな…… 地に足付けていた時に。


「あの、お姉さん……」


とにかくこれからどうするのかをお姉さんに聞こうと、横を向いた。


当たり前のようにその質問に答えてくれると思って。

だけど現実は違った。


「おやすみ」


お姉さんは突然僕の口にハンカチを当てた。

頬を緩め、僕を見つめる瞳からは慈しみを感じた。


だけど言ってる事とやっている事が、かけ離れている。

その矛盾は僕の人生の中で、感じたことのない恐怖。


「んぐ!?」


驚いた拍子にハンカチの中で呼吸をしてしまう。


なにか言おうと思ったけれど、それすら身体は許してくれなかった。


とたんに視界は揺れ始め、脳が強制的にシャットダウンされる感覚に陥った。


「あうあ…… 」


ようやく僕の口から言葉を発することができても、一切呂律が回らない。


「フフ…… 」


お姉さんは穏やかに笑いながら、座席から崩れ落ちる僕の身体を抱きとめる。


そして頭を撫でられた事が最後の一押しだった。


僕はお姉さんの胸の中で目を閉じた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ