修羅場へ
「凪先輩なにしてるんですか?」
とりあえず凪先輩に声をかけてみる。
「…… 」
しかし声をかけてみたはいいものの、ただ視線を生徒から僕に移しただけで口は開かなかった。
そういえばこの人なにも言わないんだった。
すると生徒が変わりに事情を説明してくれた。
「いや、突然私の前に来てそのまま何も言わず棒立ちでさっきから困ってたんだけど…… 」
怖いな。それ時間が時間だったら『学校七不思議』になってるかもしれない。
そして件の凪先輩は相変わらず口を開かず、ただ僕と生徒を交互に見ている。
だが夏休みを返上して学校に登校し、生徒会で働いていた僕は既に対応策は持っていた。
僕は懐からサッとスマホを取り出すと、メモのアプリを起動し渡す。
「凪先輩、これ」
するとそっと僕のスマホを手に取り、すごい速さで指を動かすと生徒に見せる。
「ああ、忘れてた! すぐに提出する! 」
生徒は廊下を走って消えていった。
ふと凪先輩を見ると生徒が走り去った方向にスマホを見せている。
気になって見てみると『廊下を走ってはいけない』 と画面に記されていた。
いや、それで止まると思ったの?
まぁいいや、とりあえずなんとかなった様なので副会長から頼まれた資料回収に向かおう。
すると凪先輩がまたすごい速さで指を動かすと、画面を見せてくる。
『助かった。スマホを生徒会室に忘れてきた』
「ああ、なるほど。お役に立てれて良かったです」
『その子は? 』
凪先輩は僕の後ろに立っていた音夢を見つめる。
ああ、そうか。この二人は初対面だな。
「えーっと…… 同い年でボデ」
後ろから手が伸びてきて口を塞がれる。ちょっ、抱き着いてる形になって後頭部に柔らかい感触が!
「私が勝手についてきてるだけ(私がボディーガードってあんまり言わないで)」
あ、そういえばそんな事前に片岡さんが言ってたな。
すっかり忘れてた。
ただ耳元で囁かないでほしい。
童貞+人見知りになかなかそれはヤバい。致死性を秘めている。
『そうなの? 』
「あ、え、あーっと…… 一応そうですね。 仲良いので」
ちょっと動揺して口がまわらない。
目が回るってこういう事なのか……
『そう。助けてくれてありがとう』
凪先輩はそう言ってスマホを僕に返すと、立ち去ろうと横を通り過ぎる。
「…… 昔テレビに出てたりしてた? 」
突然音夢が突拍子のないことを言い出した。
すると遠のいていた足音がピタリと止まる。
そして逆にどんどんと足音が近づいてくると、服が擦れる音が聞こえた。
疑問に思い後ろを振り向くと、音夢の襟を握しめる凪先輩の姿があった。
凪先輩も音夢もどちらも変わらず無表情でお互いをじっと見つめている。
片岡さんが僕の前に腕を差し出し後ろに下がる。
そして……
「なにしてんの?」
声が聞こえてきた方向には凪先輩の姉、目を吊り上げている澪先輩がいた。




