入学式
「杙凪先生もですか?そ、そうですか…」
驚きを隠せない。正直イメージが全く湧かないけど…
「驚くのもわかりますよ。まぁ、普段の杙凪からはイメージが湧きませんからね…」
そもそも気配を探る術をなんで持っていのだろう?
「なんでお二人共気配を探る術を持っているのですか?」
「え?そうでした、説明していませんでしたね。警備員とボディーガードをやっています。ボディーガードの仕事が入らないので警備員をしている感じですね。ちなみに杙凪もボディーガードですが同じ理由で保健医をしています」
凄いな…もしかして二人とも凄いエリートなんじゃないか?ボディーガードの資格を獲るのはかなり難しいらしいし。
「そうなんですね…お二人共エリートだったんですね」
「ええ。まぁ、私達がボディーガードの資格を取得したタイミングで男性の引きこもり問題が起きたためボディーガードが必要とされなったから警備員なんてやっていますけどね。いい出会いがあると思ったんですが…」
片岡さんは苦笑いをした。少し恥ずかしくなったのか警備帽子を少し下げて目を隠していた。
「そろそろ入学式が始まりますね…」
片岡さんは少し小さい声で言った。丁度よく入学式が始まるアナウンスが流れる。
『只今より入学式を始めます。まず…』
□□□
入学式はつつがなく進む。来賓の人の紹介が終わり次は校長先生の話だ。
『校長からのご挨拶。校長先生よろしくお願いします。』
校長先生は檀上に上がってくる。その光景を僕は舞台裏から見ていた。校長先生は一礼して話始める。
「皆さんご入学おめでとうございます。さてまず最初に説明しておく事があります。美月くんこっちにおいで。」
校長先生は僕を見つめていた手招きをした。突然の事に理解が追いつかない…
慌てて片岡さんを見ると片岡さんもこちらを見ていた。少し怖くなり目線を外してしまう。
片岡さんは慌てた僕を落ち着かせるように優しい声で言った。
「大丈夫です美月さん。この為に美月さんを舞台裏に連れてきたのでしょう。それに変な事はしないはずです。仮に変な事をしようとしても私が止めるので安心して行ってきてください」
片岡さんに言われて少し安心したが問題はそこじゃない。人見知りを人の目が集まる檀上に呼ぶ事が問題なのだ。無理無理…急に緊張による腹痛が始まる。
「ほら、変な空気になっています…頑張って行ってきてください」
片岡さんに背中を押され舞台裏から出る。その時一斉に人の目が集まったのを感じた。
『え、あれって…』
『嘘でしょ!男性!?』
『や、やった!奇跡だよ!』
人の目と聞こえてくる声で足がすくんで校長先生の近くまで行けない。そんな僕を見かねて校長先生はマイクを持ち僕の近くまで来た。
「静粛に。彼をここに呼んだのは君達に釘をさしておくためだ。彼はこれからこの学校に通う。君達に言っておく事は一つだけだ、常識を逸する事はするな」
校長先生は緊張感のある雰囲気を出しながら言った。そんな校長先生の雰囲気によって体育館に張り詰めた空気が満たす。
「仮に常識を逸する行為だと彼と学校側が認めた場合、問答無用で退学だ。いいか?もう一度言うぞ。問答無用で退学だ」
校長先生から『退学』というワードが出た時、いくつもの鋭い目付きが校長先生を刺していた。その目は『どういうつもりだ』と校長先生に問う視線だった。
「ただ君達も生殺しはとても辛いだろう。なので何らかの対処はするつもりだ」
その途端、雰囲気がふっと和らぎ鋭い目付きもなくなった。
「私からは以上だ。美月くんありがとう。戻っていいぞ」
校長先生は一礼して席に戻って行く。僕もつられて一礼して逃げ足で席に戻る。僕が一礼した時、拍手が一弾と大きくなった。立っていただけだが少し嬉しい。
「お疲れ様でした」
舞台裏のポツンと置かれた席に戻ったら片岡さんがふっと微笑みながら言ってくれた。
「あ、ありかとうございます。何もしていないですけどね…」
「それでも人が苦手なようなのにあれだけ人の目が集まる場所に行けたのはすごいですよ?」
「え、僕人見知りって言いましたっけ?」
「おっしゃらずともあれだけ人を避けて歩いていたらイヤでも気付きますよ」
片岡さんは笑いながら言った。そりゃそうか。気付かないわけないか…
□□□
校長先生の挨拶からはスムーズに入学式は進んでいる。次は生徒会長の挨拶だ。
『生徒会長の谷川さん、よろしくお願いします』
生徒会長が檀上に上がってきた。あれ?あの人に見覚えがあるな…それにすごいこっちを見てるし…あ!あの人は僕を電車で捕まえた人だ。改めて見ると艶やかな黒髪で髪型はポニーテールだ。嫌な予感がするな…
「新入生の皆さんご入学おめでとうございます…」
そこからは保護者と来賓の人への挨拶をしていた。
「さて、新入生の皆さん。この高校では生徒は等しくライバルであり仲間です。これから一緒に一喜一憂して素晴らしい高校生活にしましょう!」
素晴らしいスピーチだった。嫌な予感なんてスピーチが終わった時に消し去っていた。見事に良い意味で期待を裏切ってくれた生徒会長に拍手を送る。
「…ここで終わるつもりでしたがここから先は私のアドリブです」
嫌な予感が戻ってくる。僕の手は止まり彼女の言葉に耳を傾けていた。体育館に響いていた拍手も自然と止まった。
「今回は新しく男性が入ってきました。国が男子学生を女性の目になるべく触れないようにしてからは、男性の制服姿など宝くじ並の確率でしかお目にかかれなくなってしまい、世の女性達は阿鼻叫喚しました」
「しかし私達はどうでしょう?男子高校生と一緒に高校生活を楽しめる…もうこれは天文学的な確率になります。なので彼の情報を流すのはやめてください!私達だけで独占しましょう!」
『ウォォォォォォォォォォォ!』
体育館が沸き立ち皆一斉に手を挙げている。来賓の人達も手を挙げて立ち上がる。片岡さんも少し手を挙げてそうになっていた。
嫌な予感は当たった。もう登校するのやめたい…母さんと香奈に相談しようかな…
「ちなみに…仮に情報が流れた場合、犯人は学校からの処分と私達からの粛清が待っている事になりますので気をつけて…ありがとうございました」
粛清って何するの?あんな暗い雰囲気を出しながら言われたら何するか気になるよ?ほら雄叫びが止まっているじゃん。みんな『オッ…オォォォ』ってなってるけど…
そんな微妙な雰囲気を気にも止めず生徒会長はポニーテールを揺らしながら檀上から出た。
司会の人も微妙な顔をしていたがプロなのだろうか?すぐに笑顔に戻して司会を進行する。
『新入生の皆さんは各自、受付で貰った用紙に記載していますクラスと教室を確認してください。確認しましたら記載されている教室に向かって下さい。保護者の皆様は新入生が全員教室に向かってからご案内します。その間、お子様のクラスを確認してください。』
え?そんなの貰ってないんだけど…受付に貰いに行くの?行きたくないな…緊張する…はぁ。
「美月さん、これがクラスと教室の記載されたプリントです。窃盗される危険性があったので私が預かっていました」
片岡さんがプリントを渡してくる。そこには『Aー2、教室二』と記載されていた。
「あ、ありがとうございます!」
受付に貰いに行く必要がなくなってよかった…一安心だ。
Aー2で多分だけど一年過ごす事になる。
クラスメイトが静かなクラスでありますように!担任の先生が優しい人でありますように!
あ、あともう一つだけオネダリをしようかな?
前の世界で、できなかった青春が出来ますように!
『人見知りを克服しろ』
…ですよね〜。克服したいな…
神様へのオネダリも済んだので片岡さんと一緒に教室二に向かった。
ここが読みずらい!などありましたら些細な事でもご連絡ください!お願いします!
読んで下さりありがとうございます。
 




