ボディーガードを雇おうと心に誓った。
「へ…美月くん起きてたんですか…?」
体をワナワナと震わせながら杙凪先生が聞いてきた。
「あ、はい。そうです。起きて聞いていました…」
そう言うと杙凪先生はイスに座り顔を手で覆った。耳は真っ赤に染っている。ひたすら『ヤバイ』を繰り返し言っている。声の音程も低くなり誰かに呪いをかけているように見えた。
そんな杙凪先生の様子を見て呆れている警備員さんに話しかけようとしたけど人見知りが発動して無理だった。情けない…すると警備員さんが声を掛けてくれた。
「そういえば私の名前を言っていませんでしたね。私の名前は片岡 秋奈と言います。あのイスに座っているバカとは腐れ縁で子供の時からの付き合いです…この高校の警備員をしております。よろしくお願いします。」
「あ、ご丁寧にすみません。僕は今年からこの高校に通う、中野 美月と言います。こ、こちらこそよろしくお願いします。あとさっき助けてくれてありがとえございましゅ…す」
はいやった!やらかした!テンパリすぎて噛んでしまった。僕の顔がドンドン熱くなっていく。片岡さんが僕の事を驚愕の視線で見ている。その視線から逃れるように僕は俯いた。
「かわいい…」
「…え?」
可愛いって言われた。正直微妙だがそれよりも気になるのが片岡さんがかわいいと言った瞬間にギュルン!と伏せていた顔を片岡さんの方に向け今現在も睨みつけている杙凪先生の方が気になる。独り言もヤバイからクソにランクアップしたようだ。
睨みつけられている片岡さんは視線には気付いているようだが素知らぬ顔でこちらを見ていた。対応が手馴れている。何度も経験した事があるようだ。
「アイツのあの目には子供の頃から経験しているので慣れているんですよ。最初の数回は恐ろしかったですが何百回も睨まれるとさすがに慣れますよ…」
尊敬した目で片岡さんを見ていると、そんな目線に気付いたようで話しかけて来た。子供の頃からあの目付きなのか?どんな子供だよ…
「それよりも美月さんはボディーガードを雇ったりしないのですか?」
「え?」
片岡さんは真剣な目でこちらを見つめていた。嘘を付く必要もないので正直に答えた。
「や、雇ってないですけど…」
すると片岡さんは呆れたように僕に言った。
「あのですね…はぁ。ボディーガードを雇わずに外に出るって危機管理が無さすぎるでしょう!男性が外にでない問題は知っていますよね!?なので男性を外で見かけるのはおろか、ましてや貴方は学生です!この地域では見かけないはずの男の子ですよ!?失礼ですが、バカですよね!?異論は認めませんよ!」
「す、すみません…」
ものすごい剣幕の片岡さんの怒濤のラッシュで僕の心は打ち砕かれた。
「はぁ…いいですか!一週間以内にボディーガードを付けてください!今、私達も理性をギリギリ保っている状態なのです!これが一ヶ月も続けばこの学校…いやこの地域が大混乱に陥ります!なのでしつこいようですが早急にボディーガード雇ってください!わかりましたね!」
「は、はい…すみません。」
僕の心はひたすらにボディーガードを雇おうと言う事と片岡さんを絶対に怒らせないを繰り返していた。
そんな僕の心はさらに打ち砕く言霊が発射された。
「あ、そうだ美月くん。元気そうだから入学式に出席できそうだね!よかった!」
杙凪先生の何気ない一言は僕の心を傷付けた。
□□□
美月の心が打ち砕かれた頃、美月の母親の美香と校長の美那乃は話し合いをしていた。
「美月くんは大丈夫でしたか?」
「あの様子だと大丈夫だと思います…それで男子トイレがまだ完成していないという件ですが…」
「ああ、すみません。理由を説明致します。まず本校は今年度から共学になりました。本校としても共学にしたからと言っていきなり男性が入学するのは想定外でした。それにほとんどの男性が通う学校はこの県にはありませんからね…完全に想定外でして男子トイレを建設するのを後回しにしておりました。大変申し訳ありません。」
美那乃は美香に頭を下げた。
「頭を上げてください校長先生。とりあえず今は対策をとりましょう…」
美月が安全に学校生活ができるように二人は話し合っていく…
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