ヒロインが何やら言いたいことがあるようです
勢いで書きました。頭を空っぽにしてご覧ください。
「あ"ーもぅっ!」
どこまでも続く白の空間。一人の少女が髪を振り乱し雄叫びを上げた。
「レラ、落ち着いて。ほら、ハーブティ」
それに優しそうな青年が宥めるように応える。
「うぅ…もう嫌ァ…」
レラと呼ばれた少女は涙目になりつつ差し出されたカップを手に取った。
青年が指をパチンと鳴らすと、どこからともなく椅子とテーブルが現れた。
「ロー、そのカッコつけるのやめたら?そんなことしなくたって出来るのに」
「別にいいでしょ、こっちの方がカッコいい」
青年はレラの八つ当たりめいた指摘など何処吹く風といったように自らも椅子に座り、優雅にティータイムを楽しんでいる。
「あ、レラとロー!お疲れ〜、可愛かったしカッコよかったよぉ〜」
ふにゃっとした笑顔が小動物のような印象を受ける青年が二人を見とめ、駆けてこようとし…転んだ。
「ふあぁ、いったーい!」
「何やってんのよ、ワープしてくればいいじゃない」
「あ、そっかー」
次の瞬間、クルッとターンして二人の前に現れた青年を見て、レラは呆れたとばかりにため息をついた。
「今回のさ、えーと…ソフィアとジルフリートだっけ?すっごい良かったよ〜。僕、ホントに二人が幸せになれるのかドキドキしちゃった!」
頬を少し上気させ語る彼をレラは半目で見る。
「エネは良いわね、毎回楽しめて。純粋って素敵なことだわー」
「?ありがとぉ〜」
「レラ、エネをからかうのはおしまい。エネ、ハーブティいる?」
「いる〜」
レラはハーブティとともに自分で出したクッキーをぱくつきながら、ブツブツと愚痴を言い始めた。
「大体、主人公が虐げられすぎなのよ!そんでもって我儘な妹居すぎ!汚ったない部屋はもう飽きたし家事もあと十年はやりたくないっ!」
そう言ってダンッ、と拳を打ち付ける。
「まあまあ、下克上確定なんだからいいじゃない」
「確定だからよりつまらないの!しかも大体自力じゃなくて『なぜか権力者に愛される』んだから!そこは自力で這い上がれよ!躊躇うな!パワーこそ力よ、殺せ殺せェ!!」
少女にあるまじきセリフを堂々と言い切るレラ。
「これは大分荒れてるねぇ…」
「ヒロインなんて疲れるだけよ…私もモブやりたい、平穏に暮らしたい…」
そう、先程から荒れているこの少女こそ、異世界恋愛系物語の世界でヒロインを担当する少女なのだ。名前はシンデレラからとってレラ。
そしてローはそのお相手役。ヒーローからとってロー。
エネはエネミーから。つまりは敵役だ。裏ではフワフワとした彼も、物語では愚鈍な王子とかを完璧に演じきる。
レラはここ最近、虐げられていたヒロインが下克上する系の物語に連続で当たってしまい、大変ご立腹なのだ。そもそも彼女は基本的に人の下に立つことが嫌いだ。いくら序盤といえど、毎回のようにこき使われるのにも飽きたらしい。
「優しいお母さん、なんでみんな死んじゃうの…なんで後妻はみんな意地悪なの…」
「イフさんも意地悪な継母やり過ぎて心が死んできたからって猫飼いはじめたしねぇ〜」
「あと妹ォ!実妹でも義妹でもどっちでもさぁ、10人いたら10人私より可愛がられて、私のものとってくのかなぁ!?」
「シスちゃんが舞台裏で毎回自己嫌悪に陥ってるの可哀想だよね…」
「もうね、私ザマァも飽きたのよ。そりゃ初めてとか最初のうちはスッキリしてたし、いいぞもっとやれとか思ったけど、もーーーお腹いっぱい!心が1ミリたりとも動かないわ!」
「うん、僕もそれは同意。簡単にザマァされるような奴らを野放しにしとく割に、国王は大体人格者なのおかしくないかな?」
「ええぇ、僕は面白いと思うよっ!たしかに、最初は可哀想だけど、最後はスッキリだし、今まで愛されなかったヒロインが素敵な人に愛されてすっごい良いと思う!」
「…その心を失わないでね、エネ」
「君って本当に素敵な人だね」
「??ありがとぉ〜」
ひとしきり愚痴ったレラが突如、名案とばかりに膝を打った。
「そうだ!私たちで物語をやろう!」
「き、急にどうしたの、レラ…」
「テンプレばっかやってると『もっとこうすれば』とか『ここはこうしたい』とか思ってくるのよ。せっかくだから自主的にやっといたらいいと思うの」
「言っていることがよく分からないけど、それでレラが満足するなら付き合うよ」
「ぼ、僕もやりたいっ!」
***
「私はレラ。男爵家の令嬢だけど意地悪な継母と無関心なお父様と我儘な義妹に虐げられてるの。でももう我慢ならないわ!アイツらを殺して私も死ぬ!」
「いきなり物騒な…」
「着々と計画を進めているときに突然王子殿下が!愛の告白をようわからんけどしてきたから利用してやりましょう!よく切れる刃物が手に入ったわ!」
「たった三文でここまでツッコミどころが多いのは逆にすごいね…」
いきなり連れてこられたシスちゃん「お、お姉さまのものは私のものよ!そのドレスを差し出しなさい!」
「覚悟ォ!!!!ぐさっ!」
「きゃあああああああ!」
「フッ、あっけないものだな…」
「やだなこんなヒロイン…」
何が何だかよくわかっていないイフさん「レラのくせに生意気よ!」
「覚悟ォ!!!!ドスっ!」
「きゃあああああ!」
「人の命とは…儚い…」
「いや自分で刺しといて何言ってるの?」
ちょっと引いているノブルさん「助けて[ピー]!!」
「覚悟ォ!!!!ばきゃっ!」
「ぎゃああああああ!」
「終わった、か…」
「こうして見事男爵家の悪を皆殺しにしたレラは〜、イケメン王子の手綱を握りぃ、幸せに暮らしましたぁ!」
***
満足げなレラと未だに理解が及んでいない顔で立ち尽くす3人。セリフを噛まずに言えて嬉しげなエネ。
ローは思わず頭を抱えた。
「君、恋愛もの向いてないよ…」
「え?」