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009 思いを馳せる


「俺が居て助かったなァ。マーキュリー」


「うるさい」


「魔界の住人でも、さすがに心臓はキツいもんなァ。俺ならそもそも、そんなダメージもらわねぇが」


「ぶっ飛ばすわよ」


 煉の家、そのリビングにて、マーキュリーはシュバルツからの治療を受けていた。


「ヴェァ……」


「ありがとうね。アンタ()()、ちゃんと感謝してるわ」


 正確には、シュバルツが自身の魔法でつくり出した鳥のような生物がマーキュリーの右肩にとまって治療をおこなっていた。


()()ってなんだよ! 俺にも感謝すべきだろうが!!」


「それは嫌」


「……テメェ」


「ま、まぁまぁまぁ! 落ち着いてシュバルツさん! ね! 一旦一旦!」


 一連のやり取りを見ていた煉が、流石にと思い喧嘩に発展しそうだった2人の間に入り、今にも拳を振りかざさんとする勢いのシュバルツをなだめる。


「……これがシュバルツさんの能力だったんですね」


 そのまま話題を変えようと、煉はシュバルツの鳥たちについてふれた。


「…………ああ、《思いを馳せる(ハートフル・フレンズ)》つってな。コイツらを最大10体までつくり出し、使役することができる。基本的には偵察とかがメインではあるんだが、つくり出す際に3種類の力の中からどれかを付与することも可能でな」


 シュバルツは、説明を続けながら2体の鳥を呼びだす。新たに出された鳥たちは、彼の頭上をくるくると3周ほどしたあと、その両肩へと脚をつけた。


「まずひとつが、今マーキュリーを治療してやってるヒーラー。対象に触れていることで、そいつを回復してやれる。そんで、この右肩に乗ってんのがボマー。ここでは見せてやれねぇが、コイツ自身が爆発する」


「そして、左肩のがテレポーターじゃったかの! こやつがいるところにシュバルツが瞬間移動できるんじゃよ」


 いつのまにかリビングに来ていたブランが、シュバルツの魔法について何故か自慢げに解説を始める。


「すごいんじゃぞ! こう……バッ! バッ! とな!」


 さらには謎の反復横跳びである。


 それを眺める3人。……と3羽。


 突然、ピタリと止まる。


「さらにじゃ。ここだけの話じゃぞ? こやつらの羽根1枚にそれぞれの力を移すこともできるんじゃよ。その代わり、瞬間移動以外は効果が弱まるし、そやつ自身は与えられた力を使えなくなるがの」


「……いや待て、なんでお前が俺の魔法の説明してんだよ!?」


「む!! ……すまぬ、思わず出てきてしまった。じゃが、本当にシュバルツの魔法は面白いし、すごいんじゃよ。なによりもシュバルツ自身のセンスの良さもあるしの。なんだかんだ言っても今までで一番楽しかったのじゃ。おぬしとの戦いが」


「…………」


 ブランのその言葉を聞いたシュバルツの口元が、一瞬だけ緩む。気づかれないぐらいの些細なものであったが、治療のことで散々小言を耳に流し込まれたマーキュリーがそれを見逃すはずがなく、ここぞとばかりに笑顔で指摘する。


「なぁに? アンタもしかして照れてんの? よかったわね〜、褒めてもらえて」


「あぁ!? 別に嬉しかねぇが!?」


「ふ〜ん? 嬉しかったんだ?」


「!!! だぁぁぁぁッ!! よし、完治したみたいだな!! よかったよかった!! じゃッ、ちょいと散歩に行ってくる!!」


 そう言いながら勢いよく立ち上がったかと思えば、それを殺さずにそのままリビングから出ていき、あっという間に玄関から声が聞こえてきた。驚きつつも、煉が返事をする。


「え!? あ、はい! いってらっしゃい! 気をつけてくださいね!」


「おう!!」





 通る車は多くなく、柔らかな風が体を過ぎていく。遠くには緑豊かな山が見え、辺りを鷹が気持ちよさそうに飛び回っている。まっすぐと一本道が続く。


 ここは、シュバルツが今最も気に入っている散歩コースである。人間界にやってきた次の日には、煉の家の近辺を散策しまくり、最終的にこのコースへと辿り着いた。歩くことはもとよりシュバルツの趣味のようなものであり、魔界にいたときにもよくこうしていたのである。


「……ったく、マーキュリーの奴め。変なところを気をつけて見てやがる」


 ぶつくさ言いながら歩いていると、目の前で一人の女性が

立ち止まった。


「……あの、すみません。ちょっといいですか?」


「? 俺か?」


「はい。さっきそこでフードを被った人に声をかけられて。大柄な銀髪の男が通ったら、約束どおり忘れずにファミレスに来てくれって、伝えてほしいって言われて」


「約束? そんなのした覚えがねぇが……」


「いえ、あなたで間違いないと思います。そのファミレスはすぐそこなので」


 女性が指を向けた先に、それらしき建物があった。この道をそのまま進んだ所である。


 しかし、依然として納得がいかないシュバルツは違うと言おうとしたが、女性はすでに目の前にはいなかった。振り向いてうしろを確認するが、そこにも姿は見当たらない。


「なんだってんだ、いったい」


 少しばかり考えたあと、シュバルツはひとまず店の中に入ってみることにした。


 ドアを開け、中に入り前に進む。その次のドアが自動で動く。シュバルツは、また歩を進める。


 店内を見渡していると、異様な視線を感じた。そちらの方へと目を向けると、正面の奥のテーブル席、その端に座っている男が、じっとこっちを見てきていた。


 それが気になり、何か用かと一言かけようかとした矢先、


「いらっしゃいませ。一名様ですか?」


 店員に声をかけられた。


「あーっとだな。待ち合わせなんだ。相手はフードとやらを被ってたらしいんだが」


「でしたら先ほど入られてきましたよ。あちらの席にご案内いたしました」


 店員が顔を向けたのは、窓際に並んだいくつかのテーブル席のひとつであった。


「わかった。ありがとう」


 教えられた席に向かいながらも、もう一度さっきの席へと視線を移す。しかし、そこに男はもういなかった。


「すみません。これ、落としましたよ」


 突然、うしろから声をかけられる。振り向くと、そこには髪の長い女性がハンカチを持って立っていた。背後には気怠げな男がついている。しかし、差し出されたハンカチには見覚えなどはなかった。


「いや、それは俺のではねぇな」


「ポケットから落ちるのを見てました。絶対にあなたのだと思いますよ」


 女性は、シュバルツの手を取るやいなや、半ば無理矢理にハンカチを握らせた。


「おい……」


「もういいから、早く席に着こうぜ。お腹すいちゃったよ俺」


「あ、ごめんね。行こっか。……では」


 言いかけたシュバルツを連れの男が遮り、2人は自分たちへの席へと行ってしまった。2人が座った場所は、奇しくもシュバルツが案内された所の隣である。


「フードの奴、いねぇじゃねぇか。トイレか?」


 席には誰もおらず、テーブルの通路側にお冷が置いてあり、椅子にはフードつきの上着がかけられていた。それを確認したシュバルツは、窓側の席に腰をかけることにする。


 その時、店員がトレーにお冷を3つのせて歩いてきた。しかし、テーブルまでもう少しというところで、店員がつまずく。のっていた水たちは、宙を舞い、シュバルツの顔へと直撃した。


「うぶぁッ」


「す、すみません!! 大丈夫ですか!?」


「……ああ、問題ない」


「大丈夫じゃねぇよバカ! 俺の手にもかかったじゃねぇか!」


 どうやら水は隣の男へもかかったらしく、大きな声で激怒していた。


「ちくしょう。あー、もう、最悪……だ……が……ぎゃ、あぎゃ?」


 男の様子がおかしくなり、苦しそうに両手で胸を抑え始める。


「え? な、なに? 大丈夫?」


「ぐぎゅぁ……!! ご、ごが……! がががぁあぐ! ……ごぶゅ!!!」


 心配する女性の声をよそに、突如男が血を吐き出す。よく見れば、目や鼻からも赤いものが滲んできていた。


「キャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「《思いを馳せる(ハートフル・フレンズ)》」


 シュバルツがヒーラーを与えた鳥を一羽呼び出し、すぐさま男へと止まらせる。


 少しばかり落ち着いたように見えるが、口から出る血は溢れる一方である。


「これは……おそらく毒だな。間違いねぇ。例の二世神とやらの部下が仕掛けてきやがったか。だが、まさかこんなところで堂々と……」


「ご……が……」


「んだこりゃあ? 蝕むスピードが尋常じゃねぇ。ヒーラーの力が間に合わねぇ!! ……!?」


 ヒーラーの効果が満足に発揮できず焦るシュバルツ。その鼻から真っ赤な血が垂れ流れてきていた。



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