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008 仰せのままに



「マーキュリーさんの、能力……」


「そう。《仰せのままに(スーパー・ハッピー)》って言うのだけれど。まぁ、見ててちょうだい」


 そう言うとマーキュリーは、三人組の一人に視線を向けた。


「ごめんなさいね。そんなに熱心に誘われても、アタシ達ついていく気は微塵もないの。『もと来た道を戻りなさい』」


「いやいや、だから。そんなこと言わずに……お? おお?」


 突然、男達の一人が後ずさる。

 一歩、また一歩とうしろに進む自分に男は困惑し始めた。他の2人も疑問に思い、声をかける。


「? どうした?」


「や、なんか、足が勝手に!」


 男の後ろ歩きが止まることはなく、どんどん煉達から遠ざかっていく。


「だだだ、誰か、誰か止めてくれぇぇぇ……」


「お、おい! どこ行くんだよ!?」


 仲間の男達もそれを追いかけ始め、結果、その場にはブラン一行のみが残ることとなった。



「はい、おしまい」


「……えっと、今のが?」


 満面のドヤを決めていたマーキュリーに、煉が話しかける。


「ええ。アタシの《仰せのままに(スーパー・ハッピー)》。周囲の無機物をアタシの支配下に置くことができるの」


 自分の魔法について語るマーキュリーは、誇らしげであった。


「無機物を支配下に?」


「さっきの場合じゃと、あの男の靴あたりにでも『帰れ』と命令したんじゃろうな」


 ブランから出た、幼馴染がどのように魔法を使ったのかについての厚い考察。

 それをマーキュリーが聞き逃すわけなどない。


「大正解!!! そう! そうなの! 流石アタシのブラン! 嬉しい!」


「う、うむ」


 突然抱きつかれ、スリスリと体を擦り付けられ始めたブランは、若干引いていた。

 

「凄い力ですね! 無機物はマーキュリーさんに絶対服従! みたいな」


「まぁ、それは過言だけれども、便利なモノであるのは間違いないわね」


「で、じゃ。余は神隠しの原因と戦いたいのじゃが、どうすれば会えるのかの」


 なんとか、マーキュリーの手から逃れられたブランが、ここぞとばかりに話を本題へと戻す。


「あ、そのことなんだけどね。私からひとつ提案があって」


 煉はそう言いながら、ポケットからスマホを取り出し、この周辺の地図を検索して2人に見せた。


 そのまま指差して、説明をし始める。


「ここが、今私達がいるところ。それで、この神隠しは現在4ヶ所で発生してるって話だったよね」


「全て同じ地域で起こったことのようじゃな」


「うん。で、私気づいたんだけど、神隠しが起きてるところを地図上に線で結ぶと……」


「これは……正方形ね」


「偶然にしては、綺麗にできすぎてると思うんです」


「つまり、意図的なものを感じるということじゃな」


「ここからは、私の推測なんだけど。もしかしたら、この怪奇現象は4ヶ所を順番にぐるぐる巡るつもりだったんじゃないのかなって」


「なるほど。じゃあ、次に誰かが襲われるのだとすれば、1件目の場所の可能性が高いってわけね」


 煉は、頷きながらスマホをポケットへとしまう。


「だから、そこで待ち伏せすれば」


「神隠しの正体と戦えるんじゃな!」


 言い終わる前に、ブランが口を挟む。ワクワクしているのが、側から見ても感じられる。


「確証はないんだけどね……」


「構わぬ構わぬ! 最終的に会えればそれで良しじゃ!」


 そして、今晩そこに向かうこととなったのであった。





 夜。真っ暗で人気のいないその場所に、3人は立っていた。


「いよいよじゃ……。いよいよじゃぞ!」


「アタシ、楽しそうなブランが見れて今とっても幸せ……」


「ブラン、あんまり騒いじゃダメだよ? 近くには住宅街もあるみたいだし」


「任せろ!! 煉!! 今回は静かにぶっ飛ばすんじゃ!!!!」


「さっきより声が大きいんだけど……」


「声が大きいブランもカッコいい。好き」


 あまりにも緊張感がない空気に、煉は困惑する。が。


「よし、では先へ進むぞ!」


 ブランの一声により、事も次へと進む。


 建物と建物の間。奥の闇。命が失われた場所。禍々しいものを感じずにはいられない。


「ブラン、慎重にね」


「うむ」









「あれ? マーキュリーさんは?」



「あら? 二人とも?」


 気がつくとマーキュリーは、暗闇の中で一人きりになっていた。


 突然、ゾワリとしたものを感じる。


「これは……魔力、かしら?」


「オマエ、ガ、イチバン、ウマソウダなァ……」


 前から声が聞こえてくる。暗くて、姿を捉えることはできないが、おそらくはこの声の主が、今回の事件の原因だろう。


「ふーん……。アタシをご指名ってわけ? ブランが戦うとこを見れないのは残念だけれど、いいわ。相手してあげる」


 その言葉と共に、ドタドタと何かがマーキュリーへと向かってくる。


(さっそく来たわね。とはいえ、ここは狭すぎる。まずは広い場所へと誘い出してみようかしら)


 マーキュリーは後ずさりながら、入り口へと向かう。


「ドコに、イク」


 それが合図かのように、下がったはずのマーキュリーが、いつのまにか元の場所へと戻っていた。


(!? 引き戻された!?)


「イタダキマス」


 気配がすぐそこまで迫って来ているのを感じる。


(まぁ、狭いなら狭いでやりようはあるのよね)


 マーキュリーは、懐から短剣を取り出すと、それを目の前の気配に向かって素早く投げた。


 怪奇な存在は、その短剣をぐねりと避け、これでもかと口を開く。


(躱したかしら? でも……)


「『追いかけなさい』」


 マーキュリーの命令により、短剣は再びその先を敵へと向け、勢いよく体を貫いた。


「!」


「アンタの能力は、おそらく場所から場所への移動。四つの拠点を行き来したり、対象を移したりってとこかしら。アタシにしたみたいに、拠点内での場所変えもできるようだけど、自分には使えないっぽいし、大したことなかっ」


 話を遮るかのように、マーキュリーの口から血が溢れ出す。


「ゴフッ……ガフッ……こ、これは……!?」


 同時に、胸に急な痛みを感じる。視線を向けると、そこには深い刺し傷ができていた。


「こん……な傷、い、いつの間に……」


「ハハハハハハ……。オレ、ハ、ヘイキ」


 やっと夜目に慣れ始めたマーキュリーは、奥の方に杭のような物が打ち付けてあるのに気づいた。それと同時に怪奇現象の姿が見えだす。太長い手足に、細長い胴体、ぎょろぎょろとした眼。膨らんだ大きなお腹。しかし、その体に先程つけたはずの傷は見当たらない。


「ま、まさか……」


(自分が受けた怪我……ダメージをアタシに移動させたってこと……!?)


「ハハハハハハ……」


「……まったく……。そういう、余計なことはできるのね……」


 そんなことを言っている間にも、ドクドクと傷口から血が流れ続ける。


 しかし、マーキュリーの表情は勝ちを確信しているかのようだった。


「……あえて、言い直すけれど。……やっぱりアンタは、大したことないわ」


「アト、ハ、クワレル、ダケの、クセに」


「『消え失せろ』」


「!?!?」


 その言葉に怪奇現象は、一瞬顔をこわばらせるが、何も起きなかったことに気づいたあと、安堵の表情を見せた。


「……ハハハ……。オマエに、ソレ、ハ、デキナイ!」


「そうね。たしかにアタシの能力で、そんなことはできない。でも……」


「!」


 マーキュリーが投げつけた二本目の短剣が、またしても怪奇現象を傷つけた。


「こうやってアンタを貫くことなら、何回だってできるわ」


「ハハハハ、バカ、メ……マタ、オマエに、ウツシテ……!?」


 その時、初めて怪奇現象は冷や汗を垂らした。傷が消えない。何度やっても相手に移らない。


「そんなことできない、でしょ?」


「な! なンデ! ドウシテ!」


「アタシは『消え失せろ』だなんて、アンタには一言も命令してない」


「!?」


「一か八かの賭けだったけれど、アンタの能力の要は拠点。じゃあ、その拠点は一体どうやって作り出すのか? アタシはこう考えたの。マーキングなんじゃないかって。そしてそれは、さっきまでそこにぶっ刺さってた杭の可能性が高い」


「ア、アア……」


 怪奇現象の体が震え始める。


「だからアタシは、そのマーキングに、杭に言ってあげたの。『消え失せろ』。結果は大成功。ここはもうアンタの拠点じゃない」


「アアアアア……」


 マーキュリーは、三本目、四本目と短剣を取り出していく。


「さて、アタシ言ったわよね?」



「アンタを貫くことなら、何回だってできるって」


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」



 次から次へと絶え間なく短剣に刺され続けた怪奇現象は、断末魔と共に消え去った。



「ゲフッ……。うぇ、また吐血しちゃったわ……最悪……」


 マーキュリーは、二人を探しにフラフラと歩き始めたのだった。

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