007 前魔王と幼馴染2人
退院の許しが出た煉は、ブランと雪乃と共に自宅へと戻って来た。
しかし、玄関を前にして煉はある異変に気がついた。
「あれ? 鍵が開いてる……?」
「なんじゃと? これは、もしかするかもしれぬな……。おそらく、余の幼馴染の一人、マーキュリーの仕業じゃろう。もう来ておったようじゃな」
そう言いながらブランは、ドアを開けて中へと入っていく。
「おぬしら〜、余は今帰ったぞ〜」
ブランのその言葉とほぼ同時に、廊下の奥からドタドタと何人かがこちらに来る音が聞こえる。
「ブラン!!!」
赤髪ロングの女性がそう叫ぶ。
「やっと会えたな!!!」
黒髪ショートの女性がそう続く。
「リベンジだぁッ!!!」
銀髪ツーブロックの男性がそう言って拳を振りかざす。
「死ねオラァッ!」
「む。前より速いな」
勢いよく放たれたその拳は、当たるすんでのところで、ブランの右手によって掴まれた。
「じゃが、止められぬほどではない」
「ぐぬぬぬぬ…………。まだ勝てねぇか……ちくしょうが…………」
銀髪の男はそう呟くと、その場に倒れこんだ。
「え、ええ……?」
困惑する雪乃に、マーキュリーなる女性が言う。
「ああ、大丈夫。気にしないで。コイツのいつもの癖なのよ。勝てなかったのがショックで気絶してんの」
「ええ……?」
しかしそれは、さらなる困惑を呼び寄せたのであった。
少しの沈黙ののち、廊下からリビングに場を移した一行。銀髪の男は、煉達によってソファへと運ばれたが、その直後に目を覚まし、先程とは真逆の落ち着いた雰囲気を醸し出していた。
マーキュリー、黒髪ショート、銀髪の男と座ったソファの向かい側にテーブルを挟んで置いてあるもう一つのソファ。そこに煉とブランと雪乃が座っている。
「で、じゃ。こやつらの紹介をせねばならぬな。おぬしら、頼む」
「あら。結局まる投げなのね。いいわよ。アタシ、そういうところも好きだから」
ブランに対し、そう返しながら、マーキュリーは言葉を続けた。
「アタシの名前は、マーキュリー・C・ノヴァ。ブランの幼馴染で親友だったりするわ。ラブラブ。マーキュリーって呼んでちょうだい。魔法についてはまた今度。はい次」
「その雑なパスが己の愚かさを体現していると何故気づかないのか」
「なんですって……?」
「喧嘩は後にしてくれんかの」
「……ナーバス・S・ドライブだ。この赤髪と同じくブランの幼馴染であり、将来のパートナーでもある。よろしく頼む」
その言葉に、煉が疑問を持つ。
「将来のパートナーって、許嫁ってことだよね。でも、ナーバスさんって女性でしょ? どっちがお嫁さんなの?」
「煉よ……ナーバスの言うことを鵜呑みにしないでくれ。余とこやつはそのような関係ではない。それとついでじゃが、ナーバスは男じゃ」
「…………えぇ!?」
長いまつ毛。きめ細やかな肌。潤った唇。何をとっても女性的なその趣に『本当に!?』と雪乃は心の中でも驚愕した。
「……最後は俺だな。シュバルツだ。ブランが魔王になる前の魔王。いわば、前魔王ってやつだ。世話になる」
そのあとに、ブランによるマーキュリー達への煉と雪乃の紹介があったのだが、ここで煉はあることに気づく。
「あれ……? もしかして、3人とも私の家に住み着く感じ……?」
「ええ」
「ああ」
「おう」
言葉は違えど、3人の返事は一様にその通りだと示していた。
◉
男は、夜道を歩いていた。
風貌からして、おそらくはサラリーマンであろう。
そんな彼は、もう素面ではないのか、顔を赤くしたままフラフラと前へと進んでいた。
「ったく、やってられねぇよなァ!! 残業、残業ってよォッ!!」
大声を出しながら、裏路地への入り口を通り過ぎようとしたとき、男はなにかを踏んでしまった。
「ん……? なんだァ……?」
それは、人の手だった。
「!? こ、これは腕か!? 人間の! なんで!?」
「……ウメェなァ……ヤッパリ、ウメェ……にンゲンの……にク、ハ、ヨォ……ハハハハハ……」
裏路地の奥から声が聞こえてくる。
おどろおどろしい声。
その声の主は、グッチャグチャとなにかを貪り食っていた。
落ちていた手。人間。肉。それらが男の脳裏をよぎり、恐怖を煽る。
「う、うわあァァァァァァっ!!!!」
咄嗟に走り出す。逃げる。とにかく安全なところへ。
「ドコに……イク……?」
そこは、先程と同じ裏路地への入り口だった。奥には奴がいる。
「あ、ああ!? なんで!? どうして!? 俺は確かに走り出したはずなのに!」
「オマエ、モ、ウマソウダなァ……」
ゆっくりと、男の方へとむかっていく。
「や、やめろ! くるな! くるなァァァァァァッ!!」
残念ながら、男の願いが聞き入れられることはなかった。
「あああああああああああッ!!!!」
◉
ブランの仲間たちが煉の家に来てから数日後。
ブランは、煉とマーキュリーを連れて噂の裏路地付近へと来ていた。
「ふむ。ここが例の場所かの?」
「うん。そうみたい。叫び声みたいなのが聞こえたって、近所の人達も言ってたし。多分、ここが最後だと思う」
「たしかに。ちょっと魔力の様なものを感じるわね。その二世神だかって男が本当に動き出したってことかしら」
ブラン達が調べていたのは、ここ数日で起きている神隠しについてのことであった。夜な夜な人が消えてしまうというのだ。
この噂を聞いたブランと煉は、二世神が言っていたことからもしやと思い、その周辺へと駆けつけた。
マーキュリーとナーバスは、それについて行くと言い出したが、
「ならば、どちらか一人じゃ」
という、このブランの一言によって、煉によるじゃんけん対決が執り行われ、お互いに初めてのポイ! をした結果、
「それで、これからどうするのかしら?」
ご覧の通り、マーキュリーが勝利したのである。グーだった。
「お姉さん達、なにしてるの?」
突然、3人に声がかかる。
「よかったら、これから俺達とお茶しない?」
そこには、3人の若い男がいた。
「ごめんなさい。私達、これからちょっと用事があるので」
「え〜? そんなこと言わずにさ! なんだったら、その用事にも付き合うよ?」
きっぱり断った煉だが、男達が諦めてくれることはなかった。
「少しだけ! 本当に少しだけでいいからさ!」
「うーん……めんどくさい……」
あまりにもしつこい男達の誘いに、煉がおもわず呆れる。
そこに、マーキュリーが言葉を発した。
「まぁ、実力行使よね。こういうときは」
「マーキュリーさん?」
「安心してちょうだい。手荒なマネはしないから。丁度いいからアナタに見せてあげようかと思って」
マーキュリーが自分の髪を搔き上げる。
「アタシの能力を……ね」




