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005 突然ですが、こんばんは



 首なしとの戦いから数日が経った、ある日曜日の夕方。


 煉は、昨日までと同じように、自宅でブランと雪乃の2人と共に過ごしていた。

 というのも、ブランは、しばらくの間こちら側に滞在するらしく、煉の家に居候することになり、雪乃は、今回の件を経て煉との絆が益々深まり、ブランの事情を知ったこととも相まって以前よりも煉の家に訪れるようになったからである。


 ここ数日は、特になにもなく、平穏な日々だった。しかし、だからこそブランは、ひとつの不満を抱いていた。


「…………暇じゃ」


 偏に、暇すぎた。

 怪奇現象、いわば、強者との戦いが目的で人間界に来たのにも関わらず、それがここ数日は全くなにもないことが不満で仕方がなかった。できれば毎日戦いたい。それがブランの願望だった。


「れ〜ん〜! 暇じゃ、暇じゃ、ひ、ま、じゃあ〜! 余は暇じゃあ〜!」


 ついには駄々である。


「うーん、そうだなぁ……じゃあ、廃墟かどこかに行ってみたりする?」


「それなら、学校の近くの建物とかどうかな? 最近、幽霊が出るって噂だし。わ、私は、怖いからついてはいけないんだけど……」


「あ、それいいかも! ナイスだよ雪乃! どうするブラン、今から2人で行く?」


 煉が、ブランの方を向いてそう聞くと、そこにはもうブランはおらず、


「出発じゃ!!!」


 玄関から声がした。





 煉とブランは、学校近くの廃墟へとやって来た。時刻は19時を過ぎており、もうすでに夜である。


 中に入ると、2人の足音が響く。


「私から離れないでね、ブラン。懐中電灯、これしかなかったから」


「わかっておる、わかっておる。辺りが暗くては、余も動きづらいからの」


 そして、2人は廃墟内を詮索し始めた。



 少しして。廊下の壁に付けられている鏡の前を通ったときのことである。


「ねぇ、ブラン。この感じ、わかる?」


「むむ? なにかがおるのかの? 余は気づかなかったが」


「うん、近くにいるみたい。突然襲ってくるかもだし、用心した方がいいかも」


「ほう! やはりここには、そういうのがおるのじゃな! わくわくじゃぞコレは!」





「ケケケケケ…………」



 2人が話していると、前方の暗闇から不気味な笑い声が聞こえてきた。


「早速お出ましみたいだね」


 煉が懐中電灯を向けると、そこには人の顔をした大きなトカゲが佇んでいた。


「ケケケケケ…………」


 人面トカゲは再び不気味に笑うと、口を開き、


「ケッ!!!」


 そこからエネルギー弾のようなものを放ってきた。


「煉! しゃがむのじゃ!!」


 2人は、しゃがんでエネルギー弾を避ける。目の前に当たるものがなくなったそれは、廊下の奥へと消えていき、直後に轟音と共に建物が揺れた。


「凄まじい攻撃じゃな! 直撃してしまえば、余でも耐えれるかわからん威力じゃ。じゃが……」


 人面トカゲは、もう一度エネルギー弾を放とうとしている。


「その攻撃は、もうやらぬ方がよいじゃろうな。余は自信をもってそう忠告しよう。薦めはせぬ」


「…………ケケケ…………ケッ!!!」


 ブランの言葉に、人面トカゲは少し考える素振りを見せたが、ハッタリだと判断したのか、結局は攻撃をおこなった。


「最後まで己を信じ抜いたか。それもまたよいじゃろう」


 攻撃が放たれたと同時に、ブランはそれに向かって真っ直ぐに勢いよく走り出した。


 エネルギー弾とぶつかり合う寸前で、ブランは体を左に逸らして見事に躱す。


「ケッ!?」


 ブランは、そのまま人面トカゲに向かって進み、そのうしろへと回り込んだ。そして右手で指を鳴らす。


「場数を踏むという意味では、自分自身の攻撃を体験してみるのもいいのかもしれぬな。余は遠慮しておくが」


「ゲッ!?」


 ブランによって引き寄せられたエネルギー弾は、ブランの前にいる人面トカゲの方へと戻っていく。


「ゲ、ゲェーーーッ!!!」


 急なできごと。避けることは叶わず、攻撃は人面トカゲ自身に命中し、瞬く間に焼け焦げ、そのまま消滅したのだった。




「……うむ。体も温まってきたことじゃし、あと2、3戦してから帰ろうではないか!」


「ブランって、本当に戦いが好きなんだね」


「煉よ、褒めたって余はなにも出せはせぬ…………」


 突然、ブランの言葉が止まる。


「ブラン? どうかしたの?」


「…………この廊下の突き当たりの部屋から妙な気配を感じるのじゃ。とてつもなく強大な、魔力に近い気配じゃ」


「魔力に近い気配……。それって、雪乃の家で感じたって言ってたのと同じ?」


「うむ、全く同じではないが、少しばかり似ておる。じゃが、今回のは前のとは比べものにならんぞ」


「つまり、ブランが望んでいるような強者が、この先にいるってこと?」


「そう考えていいようじゃな。面白いではないか。行くぞ、煉!」



 2人が廊下を進み、その部屋のドアを開けると、そこには白衣姿の男性が中央に置いた椅子に座って、足組みをしていた。


 途端に、煉が所持していた懐中電灯の明かりが消える。


「あれ? 電池は大丈夫だったはずだけど……」


 そのため、段々と夜目に慣れはしたが、男の顔をはっきりと確認することはできなかった。


「はじめまして。僕の名前は、二世神片々(にせがみかたかた)。みんなからは博士って呼ばれてる。人工的に怪奇現象などを生み出している者、といえばいいのかな。君達が前に倒したのも僕の作品のひとつなんだよね」



 あまりの急展開に、ブランと煉は困惑した。


「人工的に怪奇現象を……? もしかして、さっきのトカゲもあなたが?」


「ああ、違うよ。アレはいわゆる天然のやつさ。僕のはまだ実験体の段階でね。まぁ、君達に邪魔されたわけだけど」


「…………で、じゃ。そんなおぬしがここになにをしに来ておったのじゃ?」


「待っていたのさ。2人をね。別に、僕は邪魔されたことを恨んだりしてるわけじゃないんだ。むしろ、そういうのを待ち望んでいたんだよ。だから、挨拶をしておこうと思ってさ」


 二世神と名乗った男は、唐突に椅子から立ち上がり、両手を広げた。


「褐色の君は、魔界の住人だろ? 雰囲気でわかる。さあ、戦ってみようじゃないか。好戦的なんだろう? 僕を殴ってごらんよ」


 その言葉に、ブランは少しの驚きを感じた。どうして、この男の口から魔界の住人というワードが出てきたのかと。


「…………わからぬことだらけじゃが、よいじゃろう。受けて立つ」


 ブランは、その男と戦うために前に出ようとしたが、それは何故か叶わなかった。


「…………ブラン?」


「……足が動かん。どういうことじゃこれは……」


「そうだ。言い忘れてたんだけれど、実は僕も魔法とやらが使えるんだ。そして、それはもうすでに発動してしまっているのさ。《何にも無い、何か(サプライズ・バマー)》っていう能力名だってことだけは教えておこうかな。それと、もう一言」


 二世神は、わざとらしく間を開けると、得意げにこう言い放った。


「この《何にも無い、何か(サプライズ・バマー)》に、攻略法は存在し得ない」

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