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004 人間界での初戦、決着



 ブランの右腕が宙を舞った。


 切断されたのである。


 断面から血が溢れ、地面を赤く染める。


 ブランは、高く飛び上がると、首なしの頭上を通り越して、うしろへと着地した。背後には、煉と雪乃が立っている。


「ふむ。掴んだものを切断する能力、といったところじゃろうな。腕を落とされたのはいつぶりじゃろうか! 余は昂ぶってきたぞ! 人間界に来たのはやはり正解じゃったな!」


「ブラン、腕! 大丈夫?」


「煉よ、心配はいらぬ。この程度、くっつければすぐに元どおりじゃ。魔界の住人の治癒能力は人間より高いからの」


 ブランは、煉と会話しながらも首なしから視線を外そうとはしなかった。


 再び、首なしの断面から言葉が紡がれる。


「くびぃ……! くびくびくびくびくびくびくびくびいぃいいぃッ! くびちょうだいよぉぉおぉぉッ!」


「くるぞ! おぬし達はここから逃げるのじゃ! 奴は、余がもう一度引き止める!」


「! いらないのに!! だめ!!」


 ブランが指を鳴らしたのと同時に、右腕の断面から突然異様なほど綺麗な手が生え、ブランの首を目掛けて勢いよく伸びてきた。


「なぬッ!?」


 驚いたブランは、咄嗟に自身の首の前に左腕を構える。

 

 首の代わりに掴まれたその腕は、右と同様に切り離された。


「くびじゃない!! でも、よかった! あなた、これでじゃまできない! さっきのも、むだ!」


 首なしの声は、喜びに満ちていた。しかし、それはブランも同じであったのだ。



「…………そうじゃな。じゃが、これで余もやっとおぬしを攻撃できるというわけじゃ」


「??? それはどういイぃッ!?」


 それはどういうこと。首なしの言葉は、突然の背中の痛みにより最後まで続くことはなかった。

 複数のガラスの破片が同時に突き刺さってきたのだ。無理もない。


「余が先ほど引き寄せようとしたのは、おぬしではない。おぬしの後ろで散らばっておるそのガラスじゃ。残念ながら不発ではなかったようじゃな」


「いた! いたい! いたいぃいぃぃいぃぃぃッ!」


 背中の破片を取ろうと左手を使っている首なしの目の前に、素早くブランが移動する。


「隙を見せたな」


 そのとき発せられた雰囲気に、首なしは思わず畏怖の念を覚えた。初めての震えに、体が言うことを聞かない。


「両手が使えずとも! 余にはこの脚がある!」


 踏ん張った左足が地面をかち割る。


「人間界での初めての戦い、新鮮で素晴らしく、とても有意義なものじゃった! これは余からの礼である。存分に受け取るがよい!」


「ぃいい……い……!?」


 首なしには、自分が次の瞬間どうなるかの想像がついた。だが、それを防ぐことはもうできない。




「ぐぅうゔぅぅぅゔゔゔゔゔぁあああアァァァああアァァぁああァァァああァァァああああああアァァッ!!!」


 ブランの右脚による渾身の蹴りが、首なしの胴体へと撃ち込まれる。


「これで!!!! 決着じゃ!!!!」


 メギメギと嫌な音を辺りへと盛大に響かせ、振り抜くと共に、首なしが夜空へと飛んでいく。 


「ゔ、ギャああァァァァァァッ!」


 勢いよく飛ばされた首なしは、おぞましい叫び声をあげながらそのまま庭に落下し、地面にクレーターを作り上げると、パラパラと塵のような状態になり、そのまま消滅したのであった。



 こうして、人間界に来てからの初戦、首なしとの戦闘は、ブランの勝利で幕を閉じた。





「本ッッッッッッ当に!! ごめんなさい!!!!」


「れれれれれ、煉ちゃん!? どうしたの突然!?」


 戦いが終わったあと、煉は雪乃に土下座を決め込んでいた。


「ガラス割っちゃったり、庭デッコンボッコンにしちゃったり! 色々申し訳ないなと……」


「顔をあげてよ、煉ちゃん。気にしなくて大丈夫。だって、あのままだったら私死んじゃってたかもしれないんだよ? 今、こうやって生きていられるだけでもう満足」


「雪乃の優しさが心にしみる……」


「もう、煉ちゃんたら。大げさだよ」


 そして雪乃は、それよりも……と言葉をつなげた。


「ブランさん……ツノ、頭から生えてるよね……」


 首なしとの戦いの最中、フードは外れ、隠したかったツノは無事に雪乃に目撃されてしまった。


「生えて……ますね……」


 こうなってしまっては、もう誤魔化しようがない。そもそも、一度とれた腕がくっついて元通りになるところも見られていたのである。故に、煉は雪乃に全てを説明することにした。


「実はね……」





「…………博士、いらっしゃいますか」


 暗闇に支配された空間。とある研究施設の一室なのだが、そこで研究員らしき男が部屋の奥へむかって話しかけていた。


「ああ、僕はここにいるよ。すまないね、いつもそうやって確認させてしまって。でもね、明るい場所はどうも落ち着かないんだ。許してくれるかな」


 暗闇の中にいるため、博士と呼ばれていた人物の姿ははっきりとは見えない。


「お気になさらずに。もう慣れましたので」


「そうかい。ありがとう。……そろそろ本題に入ろうか。なにか伝えなきゃならないことができて、ここに来たのだろう?」


「はい。単刀直入に申し上げます。野に放っていた人工怪奇現象、実験体5号の反応が、先ほど消滅しました」




「…………それは本当かい?」


 博士の声のトーンが少し低くなる。


「はい。事実です」


「なるほど。原因は……撃退かな?」


「そこまではまだ。しかし、自滅の可能性はほぼないかと」



「うーん、最近単調だと思っていたんだ。実にちょうどいいね。楽しくなってきた。相手は一線を越えて化け物に成り果てた人間か、それとも……」


「魔界の住人……ですか」


「だとしたら願ったり叶ったりだね」


 博士はよほど機嫌がいいのだろう。デスクをトントンとリズミカルに指で叩く音が聞こえてくる。


「なんにしても、もっと詳細が知りたいね。是非ともよろしく頼むよ」


「わかりました。判明次第、すぐに報告いたします」


「ありがとう。いや、本当にありがとう。なるべく早くね。……場合によっては…………」







「僕が直々に会いに行こう」

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