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003 魔王、人間界での初戦



 煉は、その日の放課後、ブランに引っ張られる前に、雪乃と学校近くの喫茶店で落ち合う約束をしていた。


 ドアを開いて中へ入ると、正面から見て奥の席に雪乃の姿が確認できた。


「ごめん、雪乃! 待った?」


「ううん、大丈夫。私もさっき部活が終わって、今きたとこだったから」


 煉が向かい側の席に座ると、雪乃はあることについて尋ねてきた。


「え、えっと……煉ちゃん? その人は……誰?」


 雪乃が言ったのは、煉の隣にいるフードを被った女性のことであった。


「あ、あー……そうだよね、やっぱり気になるよね……」


 煉は考えた。この女性、ブランのことをなんと説明しようかと。角を隠すために自分の服を着せたのはいいのだが、馬鹿正直に魔界から来た魔王で〜などと話すわけにもいかない。それは混乱を招くだけだろう。

 ただでさえも今の雪乃は意気消沈しているのだ。それは避けたい。

 煉は、そう判断した。


「う、うーんとね、そうそう! 知り合い! 知り合いのその手のプロを呼んできたの! 力になってくれると思って。ブランさんっていうの。海外の方」

 

「うむ。ブランじゃ……デス。…………よろしく頼む」


 じゃ、と言ったあと、ブランは煉に言葉遣いも念のため気をつけるようにと言われたことを思い出し、無理矢理誤魔化したものの、もはや癖になってしまった話し方をすぐさま変えるのは、やはり容易なことではなかった。

 しかし、それに対して雪乃は特に気にすることもなかった。


「そっか……なんかごめんね。私のためにここまでしてくれて……」


「もう、雪乃ったら……謝らなくていいって! 友達が困ってたら助ける。それが私の性分なの」


「煉ちゃん……ありがとうね」


 泣きそうなのを堪えているのか、雪乃は下唇を軽く噛んでいた。





 喫茶店で少しの会話を終えたあと、3人は雪乃の家へとやってきた。


「まぁ、待て」


 ドアノブに手をかけようとしていた煉を止めたのは、ブランであった。


「2人はここまででよい。中にはもう例の奴がおるかもしれんし、余の、いや……私の戦いの邪魔になられても困る」


「うーん……たしかにその通りかもしれないね。私もブラン……さんの足を引っ張ることになるのは嫌だし」


「じゃ、じゃあ、煉ちゃんは私と一緒に庭の方に行こう? 庭なら、掃き出し窓からリビングの様子も確認できるし」


「あ! いいね! そうしようか」


「話はまとまったようじゃし、余は行くぞ」


 2人がどうするかを聞いたあと、ブランは家の中へと入っていった。


「さてと、私達も行こうか」


 そう言いながら、煉は震えていた雪乃の手をそっと握った。




 ブランはリビングに到着すると、庭へと視線を送り、掃き出し窓の向こうにいる煉と雪乃を確認した。


「気配は…………まだ感じぬな。しかしこれは……残留している魔力か? 人間界に魔法は存在しないはずじゃが」


 なにかが妙だ。ブランがそう思ったときだった。



 プルルルルルル…………



 電話が鳴った。


「む。これが電話とやらか。話を聞いたときから思っておったが、やはり魔界にある、離れた者とも連絡が取り合えるあの魔具と似ておるな。この取っ手のようなのを外せばよいのか?」


 ブランは、受話器を取ると、それを耳へと当てた。








『あなたのくびは、いらないの』



 そして、通話は終わった。ツーッツーッと受話器から音がする。


「なんじゃ? それだけかの?」


 ブランは、つまらなそうに呟いた。




 庭からは、そんなブランの様子もちゃんと見えていた。


「電話は鳴ったみたいだけど、なにか起きそうな感じはまだないね」


「うん。そうだね……」


 そんなやりとりをしていると、雪乃のポケットの中でスマホがバイブレーションを始めた。

 それに気づいた雪乃は、スマホを取り出し、画面を確認する。


「あ、お母さんからだ……。なにか買って置いてほしい物でもできたのかな」


 雪乃は、通話ボタンを押そうとしていた。


 しかし、煉は違和感を感じていた。このような場面は何度か見たことがある。放課後、雪乃が母親から頼みごとをされる場面だ。数えられる程度なのだが、煉は見たことがある。

 目の前の光景も、それとほとんど同じだった。



 それが電話だということ以外は。


 今まで見たことがあるそのやりとりは、すべてメールでのやりとりだったのだ。電話ではない。


 電話でのやりとりではない。


 そう思った途端、煉は鳥肌が立つのを感じた。もしかしたら、自分がたまたま初めて見ただけで、雪乃にとっては今までも何回かあったことなのかもしれない。本当はメールだけではなかったのかもしれない。


 それでも、嫌な予感がした。




 そして、その予感は当たった。




 雪乃が通話ボタンを押した瞬間、受話口から青白くて綺麗な手が伸びてきた。


 突然の出来事。しかし、その手に触れてはいけないことは、雰囲気で理解できる。


「雪乃! スマホを投げて!」


 叫んだはいいが、あまりにも距離が近すぎた。遅い。もう間に合わない。


 なにか他にできることはないか。煉が思考を巡らせたのと同時に、ガラスの割れる音がした。


「その腕を、引き寄せる」


 ブランが、掃き出し窓を突き破ってリビングから出てきたのだ。


 指を鳴らすやいなや、ブランは雪乃の首に伸びかけている腕を、自身の元へと引き寄せた。


 腕は、ブランの方をむき、そちら側に伸びていく。すると、腕が引っ張られたことによって、芋づる式にその先も受話口からズルズルと正体を現したのであった。


 綺麗な手から、なんとなく察せてはいたのだが、出てきたのは女性だ。


 スタイルはよく、可愛らしい柄の洋服を身にまとっている。


 しかし、首から上が存在していないという事実が、それらを全てどうでもいいことにしていた。


「あなたのくび!!!! いらないっていったのに!!!!」


 首の断面から怒りの声が出てくる。


「まずは一発殴る」


 自分のところへ引き寄せた、人ならざるものにパンチを叩き込むため、ブランは拳を握りしめたが、その腕は目の前の怪異、首なしに掴まれた。



 瞬間。




「ブラン!!」



 彼女の右腕が、宙を舞った。


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