49. 刻聖樹
それから、俺と始聖と衛兵は、楽しく会話を交わした。
始聖は誰にでもフレンドリーに接して、とても居心地が良かった。
「そろそろ、お開きにしようか」
「そうですね!話が止まらなくて、夜も更けてしまいましたし」
「そうだ!今夜はここに泊まるといいよ、ここは客室が用意されてるし、聖王のところにも戻りづらいでしょ」
「…何から何まで、ありがとうございます!」
オリバーは始聖に連れられ、美しいけれど生活感もあるような、温かみのある客室に連れられた。
月の光が丸い窓から溢れているのを、まじまじと眺めていると、綺麗な笛の音色が聞こえて来た。
昼間はおとなしく、揺れるだけの草木は、音色と月光を感じ、動物のように遊びまわり楽しそうにし、それを優しい色を放つ月が眺め、微笑みかけているかのような気がした。
「この笛の音は、どこから聞こえるんだろう…」
オリバーは、光が差し込んでいる、まるい窓からふわっと飛び降りた。
しばらく、小道を歩いていると、小川の畔で、ことっと座りながらフルートのような笛で歌っている女性を見つけた。
嘯風弄月とはこのような事を言うのだろう。
「あ、あの…」
「…」
笛の音が止んだ時に、オリバーは声をかけた。
月光により麗しく、輝いた銀色の長い髪を、ファッと揺らめかせる。
振り向いた瞳は、屋根の上で日向ぼっこをしている子猫のように閑々としていて、その額には「✾」みたいなマークがあった。
「…」
ただ彼女はこちらを、じーっと眺めるだけである。
美しい人だけど相当無口な人だなぁ…。フィアでも、もうちょっと喋るよね…笑。
目を凝らして見ているようだけど、もしかして俺のことが見えてないのかな…?
「あの…?」
「…」
そう話しかけると、突然、視界がゆら〜と蜃気楼のように揺れ始めた。
な、なんだ…?ボヤける…うう…。
ピヨピヨと鳴く鳥の声でオリバーは、はっ…と寝床の上で起き上がった。
「…なんだ、夢か」
「コンコン…、オリバーくんよく眠れたかな〜?」
始聖はいつもの輝かしい笑顔を浮かべ、指を床と平行に持って来た。
すると、その指に先ほどまで鳴いていた鳥が、パタパタと飛んできて乗った。
「なんだ…イケメンは動物にも愛されるのか…笑」
オリバーは”嫌味”を覚えた。
**********
オリバーと始聖は、エルフ達が生活している下町に遊びにきた。
聖王の機嫌治しとエルフの里を案内してくれるそうだ。
それにしても、あの情景は本当に夢だったのかな…?物凄くリアルだったんだけどな…。
「…オリバーくん、ここが刻聖樹の根元だよ」
「はえー、間近で見ると、とことん大きいですね!」
刻聖樹は直径11mと、貴族のみが入ることのできる王宮図書館の書物に書いてあった。
転移の禁書もその時に見せてもらったのだった。その時に色々発見したことがあったのだが、その話は、今度話すこととしよう。
直接、この巨木を見てみると色々分かったことがある。
「始聖さま、この樹よくみると”門”みたいに見えますね!」
「おー!よく気づいたね、そうなんだよこの聖なる樹には、ある言い伝えがあってね。
「言い伝え…」
「うん……と言っても、僕のお母さんから聞いた話なんだけどね。
…お母さんによると、この門から、神様が姿を現すんだってー…」
「神様が…?」
神様って、ポスカトリの事かな?でも、神力を使う以外の直接的関与はできないはずだけど…。
地球でも神社の鳥居から、神力を流すことはできたけど、姿を晒すなんてことはできなかった。
今度、ポスカトリにでも聞いてみるか!神殿で瞑想でもすれば、聖域に連れてってくれるだろ。
「そうなんだ、僕のお母さんはここで神様を何千年と待ち続けているんだって。すごいよね!」
「そうなんですね…、って今思ったんですけど、始聖さまのお母様もかなりな長寿ですよね!?」
「ははっ、そうだね。直接会ってみるとびっくりすると思うよ!」
「あはは…。と言うことは、お父様もご健在で?」
「僕のお父さんは…」
始聖は悲しそうな笑顔を浮かべた。
「僕のお父さんは…随分と前に亡くなったよ。お父さんは普通の人間だったからね…」
始聖は悲しそうな笑顔を浮かべたが、満足そうでもあった。父との別れに悔いがないほど、良い思い出を二人で作ったのだろう。
「なんか、すみません」
「いいんだよ、随分と昔の話だからね。…さて、下町の商店にでも行こうか!」
「…そうですね!色々みて周りたいです!」
それにしても、この樹はすごい大きいなぁ…。
目を凝らしてみると、8つぐらい片手で持てるほどの玉が埋め込まれている気がする。それについても、今度ポスカトリに聞いてみるか!
そう思いながら、下町の商店街へ向かっていると…。
「…あっ!!」
ばーっとこちらに走ってくる人が見えた。
「オリバぁぁー!!!」
「…!?っ…ドサーっ!」
オリバーは猛突進して来た何かに、思いっきり抱きつかれた。
「…イッター、…誰だー?」
「お主はオリバーじゃな???」
「…あ、姫様??」
目の前にはいつかと同じように、オリバーに覆いかぶさったお姫様がいた。
「生きておったのじゃな!!心配したのじゃぞぉぉぉ!!」
「…あはは、そんなに泣きながら話さなくても…笑」
「のじゃぁ…、お主が連れて行かれた隣の部屋にいたのじゃが、お父上の怒号が聞こえたから、お主の首が落とされたと思ったのじゃぁぁ…」
「…そ、そうなんですか笑」
「よがっだのじゃぁぁ…。妾、一晩中泣いたのじゃぞぉぉ…うわーんん!!」
あはは…笑。参ったな、側からみると、まるで俺がエルフの姫様を、泣かせたみたいじゃないか…笑。
それにしても、これほど懐かれる様なこと俺したっけな?
きっとエルフの心って、人間の心よりも、もっと複雑なんだろうな!(絶対違う!)
「オリバーくんモテモテだね〜、いいねーいいねー」
「…あはは、って言うか始聖さま、助けてくださいよ!俺がお姫様を泣かせてるみたいじゃないですか!」
「うーん、何も間違ってないみたいだけど……ニヤリ」
このイケメンめっ!俺が何を言っても助けてくれない気だな!!
いつか絶対仕返ししてやるっ!
そう心に決めた、オリバーであった。
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