46. 交渉の達人
緊張感に溢れたその場に、春のあたたかな風がゆるりと流れた。
自然豊かな”レイブンの森”と相まって、心地良い雰囲気を周りに振り撒いた。
『シャン…シャン…』
通路の奥から、ゆるりゆるり、狐耳と妖艶な3本の尻尾が揺れたような気がした。
オリバーはなんだか見覚えがあるとも、ないとも言えるような、不思議な感覚に陥った。
その場の全員が彼女に釘付けで、処刑人と化したエルフの騎士も例外ではなかった。自然と、振り下ろしている剣はぴたりと止まったのである。
『シャン…シャン…』
鈴の音だろうか、蟋蟀が鳴く声だろうか。
大勢が拍手を彼女に送っているようにも聞こえる。
ゆっくりと流れていく時間と共に、音の主の姿がだんだんと現れる。
そして豊満な体を魅せつけ、緩やかに口を開いた。誰もが彼女の言葉を待っていた。
「なんやら、楽しそうでよろしおすなぁ」
にこっ微笑みながら、俺の方に顔を向けた。顔は笑ってはいたが、内心は「よくもこんなに、ややこしくしてくれたもんだ」とでも思っていそうだった。
エルフの聖王であり、カーラの父上である彼は、はっと我に返ったかのようにこう言った。
「な、何者だ!貴様っ」
「うちはオリビア王国から使者として、交渉を任された、蓮華王院 九璃珠どす。
よろしゅうお頼み申します」
「な、何が使者だ!使者はそこにいる小僧ではないのか!」
「それはそれは、えらい騒がりはったんやなぁ」
そう言いながら、こちらにチラリと目を移してきた。
日本人のような名前だし、妙にしっくりこない京都弁を喋るなあとオリバーは感じていた。しかも、蓮華王院ってそのまんま日本に無かったか?
でも彼女が言う通り、俺は使者を名乗ってここに交渉しに来た結果、こんな散々な結末になってしまった訳だし、責められても仕方がない。
「この子がどないな事を言うたんか知りまへんが、うちがほんまもんの派遣された使者やさかい。
一旦、この場を白紙に戻して交渉させてくれまへんか?」
「ううっ、そんな目でこっちを見るな…」
うるうるとした瞳で聖王を覗き込んでいる。
これは、普通の男であったらコロリといってしまいそうだ。あの威厳を放っていた聖王でさえ、あわあわしている。
「わ、わかったから。そんな目で見るのを止してくれ」
彼女はその言葉を聞くと、ハッととても麗しい笑顔を顔に描いた。
「おおきにな〜。ほな、そのお子さんはお外で遊んできはりや〜。そやろ、聖王はん?」
「そ、そうだな。おい、お前!その小僧を外へ連れだせ!」
「はっ!」
俺はふっと肩を撫で下ろした。ここから連れ出そうとしている衛兵の顔も、安堵の表情を浮かべているようだった。
そうして、俺と衛兵はその部屋から出た後、「50%でどないやろか?」「ダメだ」「そやったら、…」と話し声が聞こえてきたので、交渉が順調に始まったんだなと思った。
話し声がかなり薄まってきた所まで、俺と衛兵が進んだ頃、衛兵が話しかけてきた。
「お前、本当に危なかったな…」
「はい…ひやっとしました…」
「それにしても、聖王へ向かって『闇堕ちの呪い』の話題を振るとは、お前も命知らずだな…」
「何か事実を隠していた様に感じたのですが、何かあったのですか?」
衛兵は神妙な面持ちを浮かべた。
きっととんでもない何かがあったのだろう事は、容易に想像できた。
「うーむ、俺からこの話はできないんだ。俺らには禁句に指定される事だ」
「禁句…ですか…」
聖王が必死になって隠したいものなのだろう。
俺からしたら逆に気になるのだが、この人に無理矢理聞いて、迷惑をかける訳にもいかないしな…。
「…。だが…」
「…?」
「始祖さまなら、話を聞くことが出来るかもしれない」
「しそ…さま?」
〜=〜=〜=〜=〜=〜
「あの子、どこかで会うたかな…」
九璃珠は顎に手をあて、思い出そうとしていた。
割と早めに聖王との交渉を終え、帰りの準備を始めようと馬車へと戻っていた。
「そないやけれども、あの頑固もん、えらいしんどいお人やったわぁ」
「九璃珠さま、聖王さまを頑固もんなんて言って大丈夫なんですか?
しかも、まだここはエルフの里の中ですよ?」
「メロドはん、うちは聖王はんの事とは一言もゆうてへんよ?」
「え?でも…」
兎耳が特徴的な獣人で、獣人の街、トゥルンの領主である九璃珠に従えている、メロドは明らかに戸惑っている顔を浮かべた。
「聖王はんはえらい従順にしてはったよ?
うちが言うてたんは、お部屋に入ろうおもたら、いけずな女子が引き止めてきてん」
「従順っていうのもどうかと思いますけど…。
まあ、あんなにズカズカと入って行かれては、止められても仕方は無さそうですね。笑」
「あら、あんたはうちの味方や思てたんやけどなぁ」
「うっ…。そりゃあ、あなた様の味方ですよぉ…」
「なんや、お肌に悪そうなハリのないお声なんか出して、どないしてん?」
「あなた様のせいです!!」
そんなメロドの声がエルフの里中に響きわたった、昼下がりなのであった。
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
京都弁すんごく難しいです…;;
更新も遅れてすみません!また少し遅れるかも知れませんが、暖かい目で見ていただけると幸いです。。
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