衝突
航空隊が孤立している宙域へと急行した特型駆逐艦ヨークは有り得ない光景を目にする。
特型駆逐艦ヨークVS偽装輸送船団の戦いが、今幕を開ける。
はたして勝つのはどっちだ。
クロイツがいるヨークか。
はたまた凶悪な兵器を搭載する帝国か。
第6話 奇策
特型駆逐艦ヨーク艦橋内
「なんだこれは…防衛艦隊の艦艇はどこに消えた…」
「艦長、敵は演習直前に宙域へと侵入した輸送船団である事が判明しました」
「なっ⁉︎あのオンボロ船どもがか!クソったれ。あの時、拿捕しておけばこんな事には…」
自分の出した指示で多くの人命が失われた事に艦長は打ちひしがれていた。そこにクロイツが声をかける。
「艦長、今はそれを悔やんでる場合ではありません。当該宙域に取り残された航空隊を救出しなければいけません」
「そうだなクロイツ。貴官の言う通りだ。しかし、敵の攻撃手段が不明では、迂闊には動けないぞ」
「それなら考えがあります。聞いてくださいますか?」
クロイツは艦長へ自分で考えた作戦を伝えた。それは死と隣り合わせの大変危険なプランだった。失敗すれば敵の攻撃を直撃し、確実に消滅てしまう。
しかし、艦長は…
「…ほぅ。面白そうだな。よし!それでいこう」
「よろしいのですか?艦長。この案が失敗すれば、この艦に搭乗する乗組員全員が死ぬ事になるのですよ?」
「なんだクロイツ。貴様がこの案を出したのだろう。それなのに何故、確認する?何も生半可な覚悟で軍人になった奴などいない。皆、死ぬ覚悟など、軍人になった時にしてるはずだ」
「これは失礼しました(いや、俺死にたくないんだけど…)」
「それでは、クロイツが立案した作戦で航空隊を救出する。各員配置に付け!」
「さぁ、クロイツ。ここからの指揮は貴様に預けよう。しっかりやれよ」
「え…?」
「これからは艦長に代わって、副官のクロイツ少尉が指揮をとる。砲雷長、主砲とデコイの用意をしてくれ」
「おっ!クロイツ。了解した。すぐに取り掛かるよ」
「…頼んだよイヴァン、君が本作戦の要だからね」
「任せとけって。……よしと!クロイツいつでもいけるぜ!」
「OK。敵の正面に向かって艦を進める。敵、目の前に来たら取舵90度で回頭、デコイ放出だ。イヴァン、タイミングを合わせてほしい」
「わかった。回頭するときは合図をくれ」
「クロイツ副官、そろそろ目標地点に到着します」
「ありがとう。よし、回頭取舵90度!イヴァン、デコイを放出しろ」
特型駆逐艦ヨークCIC内
「あいよ!ハッチを開放してデコイを放て!」
「はっ!ハッチ開放デコイ放出始め!」
特型駆逐艦ヨーク艦橋内
「通信員、航空隊へ連絡せよ」
「はっ!」
『こちら特型駆逐艦ヨーク、貴官らを安全宙域へと誘導する。本艦に続け』
特型駆逐艦ヨークは、船体下部のハッチを開放して、本艦と同じビーコンを発するデコイを放出した。これで敵の目を欺こうと言う考えだ。
そして、その僅かな間に、取り残された航空隊を安全宙域へと避難させる。そして、ビーコンに騙された敵は、搭載していた兵器をデコイに向けて撃ち放った。
「敵の攻撃、デコイを捕えました。デ…デコイが消滅してます。破片すらありません…」
「……そうか。もしかしたら、反物質を利用した兵器だろうな。だとしたら敵は…帝国か」
「クロイツ少尉、航空隊より通信が来ています」
『こちら、旗艦ワリャーグ所属航空隊のツヴァイ軍曹。そちらの救援行動に感謝する。こちらも本作戦への協力をさせて欲しい。燃料は問題ない。許可を求める』
「クロイツ少尉、如何致しましょう」
さすがにこればかりは判断しかねたクロイツは、艦長に確認を取ることにした。
「ん〜艦長どうしましょう…」
「クロイツ、貴様が判断しろ。今、全ての指揮権は貴様にある。私が全ての責任を取る。何も気にせずやれ」
「わかりました。通信員、ツヴァイ軍曹へ通信繋げ」
「了解しました。通信繋げます」
クロイツの指示を受けた通信員が、航空隊へと通信を繋げる。
「…ザ…こちら旗艦ワリャーグ所属航空隊のツヴァイ軍曹です」
「初めましてツヴァイ軍曹。私は特型駆逐艦ヨーク副官のクロイツ少尉です。貴官らの協力申請、お受けします。共に戦いましょう」
「本当ですか!感謝いたしますクロイツ少尉。それでは、策を教えてください。ご命令通り動きましょう」
ここに亡き旗艦ワリャーグの所属航空隊とクロイツが乗る特型駆逐艦ヨークとの共同戦線が作られた。
「それでは、航空隊には敵のレーダーの破壊をお願いします。くれぐれも敵兵器の射線には入らないようにしてください」
「了解です。レーダーの破壊などお安い御用です」
「貴官らがレーダーを破壊した後、本艦は対艦ミサイルにて敵兵器の破壊を行います。レーダー破壊後は速やかに退避してください」
「はっ!それでは御武運お祈りします」
「では、ツヴァイ軍曹よろしくお願いします」
今回の作戦は、航空隊による敵船2隻の撹乱及び、敵搭載レーダーの破壊が要になる。そして特型駆逐艦ヨークの攻撃は、タイミングが命の極めて難しい攻撃だった。
クロイツは航空隊任務完了後、特型駆逐艦ヨークに搭載してある対艦ミサイルで、攻撃準備中の敵搭載兵器を攻撃し暴発させ、撃沈しようと考えたのである。
「それでは、作戦開始!」
クロイツの号令で作戦が開始された。
航空隊の各機は、敵兵器の死角から急襲し、敵のレーダーを一つ一つ破壊していった。ついでに敵の機動能力まで奪っていたのだから上出来だ。
「クロイツ少尉、ご命令通り敵レーダー破壊完了しました。ついでに機動力も奪っときましたぜ!それでは、我々は当宙域より退避します」
「ありがとうツヴァイ軍曹。あとは任せてくれ」
ツヴァイから連絡を受けたクロイツは、CICにいるイヴァンへと指示を出す。
「さて、敵にトドメを刺すとするか。イヴァン、ありったけの対艦ミサイルを敵に叩き込め!」
「待ってました!目標、敵搭載兵器照準合わせ。対艦ミサイル全弾発射!!」
まさかの共同戦線。
母艦を失った、旗艦ワリャーグ所属航空隊はどうなってしまうのでしょうか。
…クロイツの作戦は上手くいくのか。
次の話をお楽しみに。