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新喜劇少年  作者: たらふく
9/12



俺は芦田本人の私生活・・というか、それもとても気になっていたが、あの親父さんは一体何者なのか、そのことが気になって仕方がなかった。

どこに住んでいるのか・・どんな仕事をしているのか・・それを芦田本人に訊ねてみてもいいものだろうか・・


そして数日後、俺は思い切って芦田に声をかけてみることにした。


「あ・・芦田くん・・」


芦田の表情は、決して俺を拒絶しているものではなかった。

それを確認した俺は、迷うことなく次の言葉を口にした。


「あの・・芦田くんのお家に遊びに行ってもいい・・?」


芦田は少し、不可解な表情をした。

しまった・・この質問はタブーだったか・・


「ええよ」


なにっっ!!いいのか・・!


「ほんと?いいの・・?」

「うん」


そのやり取りを教室で見ていたみんなは、ある種、驚きと羨望が入り混じったような反応をしていた。


「ほんなら、帰りに来る?」

「う・・うん!」


やった・・やったぞ!芦田の家へ潜入だ!!

真城も近藤も、一緒に行きたそうなそぶりだったが、部活や塾があるとのことで、今回は見送った。


そして放課後、俺と芦田は一緒に校門を出た。


「芦田くん・・突然でごめんね」

「別に」


芦田はいつもと変わりがなく、マイペースで歩いていた。


「電車に乗るの?」

「アホちぃゃ~~う」


なにっっ!!ここで末成由美かっっ!

そう、これは末成由美が相手を叱咤する時に放つ「アホちぃゃ~~う」ギャグなのだっっ!!

俺はそこで、軽くこける真似をした。

すると芦田はニコっと笑った。

ホッ・・合格だ・・ま、このくらいはな・・俺にとっちゃジャブみたいなもんだ。


それにしても、徒歩なのかな・・

芦田に着いて行くと、一台の高級車が待っていた。


「浩史坊ちゃま・・おかえりなさいませ」


運転席からそう言って、中年の男が出てきた。

ぼ・・坊ちゃま・・??

芦田って・・車で送り迎えされていたのか・・

芦田の家って・・ものすごい金持ちなんじゃないかな・・


「お友達ですか・・」

「うん」


芦田はそう言って後部座席へ乗り込んだ。


「はよ、乗りぃや、じぶん」


そのやり取りを戸惑ってみていた俺に、芦田がそう言った。


「あ・・うん・・」


俺は急いで乗り、芦田の隣に座った。

芦田・・一体お前は・・何者なんだ・・


ほどなくして車は、街はずれの大きな屋敷の前に着いた。

げっ・・ここなのか・・

その家は、建物こそ古いが、重厚な造りの二階建て日本家屋だった。


芦田は俺に何も話すことなく、さっさと玄関まで歩いて行った。


「どうぞ・・」


俺が立ち止まっていると、運転手に入るよう促された。


「はい・・」


少し横に目をやると、家の道路わきに黒塗りの高級車が二台止まっていた。

こ・・これも芦田家の車なのか・・


中へ入ると、応接間らしき部屋の前に椅子が並んで置かれてあり、そこには数人の男性が座っていた。

なんだ・・この人たち・・

その人たちは俺に軽く会釈をし、俺はぎこちなくそれに応えた。


カチャ・・


応接間らしき部屋のドアが開き、中から上品そうな中年の男性と、後に続いて二十代後半くらいの男性が出てきた。


「先生・・ありがとうございました」


中年男性がそう言って、二人は深々と礼をしていた。

先生・・?誰のことだ・・


そして椅子に座って待っていた男性が立ち上がり、部屋の中へ入って行った。

あの部屋の中に誰かがいるのか・・何をしているんだろう・・


「じぶん、ここ気になるん?」


振り向くと芦田が俺の後ろで立っていた。


「あ・・ごめん・・つい・・」

「別に」


そう言って芦田は、その部屋の中へ入って行った。

え・・そんな・・俺、どうすればいいんだ・・

すると芦田は俺を手招きして、中へ入るよう促した。

え・・いいのか・・


俺は恐る恐る中へ入った。

すると、そこには、まさにあの親父さんが座っていた。

はあうっっ・・!!また・・またあのピンポン玉の目を付けている・・

しかもだ!以前はかろうじて瞳を描いていたが、今日のは白目バージョンだ・・

き・・気持ち悪いぞ・・親父さん・・

『エクソシスト』のリンダブレアーのようだぞ・・


それにしても・・ここで・・そんなものを付け、なにをやっているというのだ・・

親父さんの前に座った男性は、今、まさに何かが始まらんとする期待感に溢れた表情をしていた。


部屋の隅に置いてある椅子に座った芦田の横で、俺も腰を掛けた。

今から何が始まるんだろう・・


「先生・・わたくしの農園は、全国規模で展開しておりますが、海外輸出に向け、今後どんな策を取るべきでしょうか」


さっきの男性がそう話し始めた。

先生って・・芦田の親父さんだったのか・・

それにしても・・何の先生なのだろう・・農業関係の専門家とか・・?


「パパパ・・パンプキーン!」


はうあっっ!!これはっっ!!

そう、これは間寛平がアースマラソンを敢行した際に放ったギャグじゃないかっっ!!


「わかりました。かぼちゃの栽培ですね。ありがとうございました」


そう言ってその男性は深々と頭を下げ、部屋を出て行った。

なんだ・・今のやり取りは・・

あの男性・・農業上手くいってるのか・・


そして直ぐに別の男性が入ってきた。

まただ・・さっき部屋の前で座っていた人だ・・


「先生・・私共が経営する会社ですが、現在、合併の話が持ち上がっておりまして・・どうしたものかと・・」


その男性は座るのと同時くらいに、そう話した。

次は・・なんと答えるんだ・・親父さん・・


「バカなこと言っちゃあ~~、あっ、いけないよ」


はあうっっ!!チャーリーで来たかっっ!!

そう、これは以前、芦田が使ったチャーリー浜のギャグ「バカなこと言っちゃあいけないよ」じゃないかっっ!!

しかもっ・・「あっ」を入れている!細かい仕事は芦田と同じだ・・


「そうですか・・わかりました。ありがとうございました」


その男性も深々と頭を下げて、出て行った。

そういうことか・・先生というのは・・占い師?というか、まあ、そういうことだよな・・

そして次から次へと人が入れ替わり、その度に芦田の親父さんは、新喜劇ギャグで答えるのだった。



ほどなくして、さっきの運転手が親父さんの傍へ寄り、耳打ちしていた。

なんだ・・どうしたというのだ・・

すると玄関のあたりが急に騒がしくなってきた。


なんなんだ・・誰が来たというのだ・・


部屋の入り口を見ると、とても背の高い男性二人が立っていた。

その風貌は、まさにSPそのもので、黒スーツにサングラス。画に書いたような海外のSPのようだった。


次の瞬間・・俺は目を疑った。

あ・・あれはっっ!!アムリカ大統領のトレンプじゃないかっっ!!

まっ・・まさかっっ!!どうして・・アムリカの大統領がこんなことへ・・

そういえば・・確か今、来日してるってニュースで見たぞ・・

ここへは、お忍びで来たってことか・・


「先生・・初めまして」


通訳の男が、親父さんにそう言った。


「こんにちは。元ミスユニバースの芦田です」


はあうっっ!!でっ・・出た!!

末成由美の自己紹介ギャグ!!


通訳から話を聞いたトレンプは、グレイトと言った表情で感心していた。

ま・・まさかっ・・信じているのか・・違うぞ・・芦田の親父さんはミスユニバースじゃない・・

しかも・・男じゃないか・・


「先生・・次の大統領選の演説でどういう話をすればよいでしょうか」


通訳の男がそう言った。

演説の時の話か・・どう答えるんだ・・親父さん・・

これって結構、大事なポイントだぞ・・政治家は言葉が大事って言うからな・・


「僕ね、お父さんがギリシャ人でお母さんがイギリス人のハーフ、だから僕、キリギリスなの」


なにっっ!!ここで池乃めだかを放り込んで来たかっっ!!

そう、これは池乃めだかの背の低さをいじって、子供扱いする。

それを受けて池乃は子供の振りをして、発するギャグなのだっっ!!


「先生・・それでは相手候補が理論攻めで来た場合、どうすればよいのでしょうか・・」


通訳が静かにそう言った。


「ぅ・・ぅっ・・ああ~~ん。もう・・怖かったやんかいさ~~バカバカ。ああ~~ん」


芦田の親父はそう言って泣き真似をしながら、トレンプに叩くふりをして見せた。

そう、これは、桑原和男がやくざ相手に一旦は戦う気を見せるものの、相手に凄まれて子供が泣くようにして見せるギャグなのだっっ!!


トレンプはそれを真面目に見て頷いてた。

するのか・・それを大統領選でして見せるというのか・・

それにしても・・親父さんの白目のことは、なにも疑わないのか・・


「先生・・最後の質問です。我が国と日本との二国間貿易。これを実現させるためにはどうすればよいでしょうか」


うわっ・・マジで政治の話になってきた・・

この答えを間違えると、日本の経済にも影響が出る・・

どうするんだ・・どう答えるつもりなんだ・・


「ええかっ!これだけは言うとくぞ!」


芦田の親父さんはトレンプを指さし、そう言いながら部屋から出て行った。

なにい~~~!!ここでそれを持って来たかっっ!!

そう、これは団員扮するやくざが捨て台詞を吐くのだが、何も言わずにはけてしまうというギャグなのだっっ!!


トレンプと通訳、SPは呆気にとられたように家を後にした。

それにしても・・農業家のみならず・・海外の要人までここに来るとは・・

一体どうなってるんだ・・


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