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新喜劇少年  作者: たらふく
3/12



それから数日後、英語の抜き打ちテストが行われることになった。

抜き打ちということで、少し焦りの色を見せる生徒もいた。


「はーい。それではテストを行います。ミスター芦田!あなたもみんなと同じように受けてもらいますが、OK?」

「まいったまいった、マイケルジャクソン」

「ミスター芦田!発音が違っていますよ!マイケルじゃなくて、マイコーですっ」

「しまったしまった島倉千代子」


うおおおぅ・・ここに来て二連発!しかもあの安曇先生に食らわすとはっっ!

そう・・今のギャグは、新喜劇、島木譲二の代表的なダジャレ!

でも・・その島木譲二も・・今は亡き人なのだ・・

俺は少し涙腺が緩む思いがした。


「島倉・・?誰だ・・」

「何を言ってるんだ・・芦田くんは・・」


クラスから、ヒソヒソと囁く声が聞こえた。


「はーい。静かに!ではプリントを配りますからね」


そしてプリントは順番に後ろへ配られ、やがて芦田のところに到達した。


「サンキュ、ベンジョマッチ!」


はあうっ!またもや坂田利夫のギャグを放り込んで来た・・

教科が英語だからいいのか・・いやいや・・いいはずがないのだが・・


「ベンジョマッチ・・って・・」

「なんだ・・問題に出ているのか・・」


またクラスのあちこちで、囁く声がした。


「はーい。始め!」


そしてテストが始まり、クラスは水を打ったようにシンと静まり返った。

うわっ・・ヤバイ・・復習やってなかったな・・

俺は答案用紙に半分も書けないまま、困り果てていた。

これ・・出来ないと、倍の課題を出されるんだよな・・マジでヤバイ・・


「はーい。時間です。後ろの人、プリントを集めて」


「血ぃ吸うたろか~」


芦田は立ち上がってプリントを集めながら、そう言った。

プリントを集める時でさえ、ギャグをぶっこんで来るとはっ・・

そう、今のは間寛平の代表的なギャグの一つである「血ぃ吸うたろか」なのだ!


みんなの視線は芦田に向けられたが、誰も何も言えずにいた。

そう言われた生徒の中には、怯える者もいた。

怯えなくていいんだ・・今のはギャグなんだ・・


「ごめりんこ」


怯える生徒に向かって、芦田がそう言った。

またもや!今は亡き島木譲二がかわいく謝る「ごめりんこ」ギャグだっ!

ミス安曇は、まるで宇宙人でも見たかのような表情をしていた。


「はーい。ミスター芦田。あなたは何を言ってるのですか」

「いや~すみません」

「で、テストはできましたか?」

「当たり前田のクラッカー」


なっ・・なにをっっ!?

あれは・・あれは・・『てなもんや三度笠』で藤田まことが発するダジャレじゃないかっっ!

かなり・・かなり古いぞ・・爺ちゃん世代のだぞ・・

芦田・・無茶にもほどがあるぞ・・


「ミスター芦田。先生にはよくわからない。きみ、不思議な子ですけど、おもしろいですね」

「えっ、そうですかぁ~」

「これでテストもできていれば、いいですね」

「なにを抜かしてけつかるんでございますか」


うううおおお・・あれは新喜劇、末成由美の、乱暴な言葉と丁寧語の合わせ技ギャグじゃないか!

もはや俺の身体は震えるほど、ゾクゾクしてきた。


「what?ミスター芦田」

「僕、全部回答しましたよ」

「oh!graet!」


え・・全部回答したのか・・それが本当なら、すごいぞ・・

クラスのみんなも、その言葉で動揺していた。

特に、海戸の動揺は半端なかった。



***



そして昼休みになり、俺と真城は食堂へ向うため廊下を歩いていた。


「草加くん、今日の定食はなにかな」

「昨日が唐揚げ定食だったから、今日は魚じゃないかな」

「そうだよね。僕、魚好きだから楽しみだな」


「よいとせの~こらせっ」


そう言いながら芦田が俺たちの横を通り過ぎた。

しかもだ!「坂田走り」をしていたのだっ!

そう・・「坂田走り」とは、坂田利夫のギャグを体で表現する高等テクニックの一つ!

斜に構えた体。そして両手は体の前で少し開き、手をぐるぐると回し、顔はあさっての方を向きながら、「よいとせの~こらせ」と言いながら、カニのように横歩きをするのだ!


芦田はその高等テクニックを使って、廊下を小走りしていたのだっ!

芦田・・廊下は走っちゃいけないんだぞ・・見つかれば校則違反で罰則が・・


「ちょっと、きみ・・」


はあうっっ!あれは・・生徒会長の黒岩くろいわ悠汰ゆうたじゃないか!

よりによって、一番ヤバイやつに見られてしまった・・

どうするつもりなんだ・・芦田・・


「よいとせの~こらせっ」


ううっ・・声をかけられたこと・・気がついていないのか・・


「ちょっと、きみ!」

「きみたちがいて、あっ、僕がいる」


芦田・・そう来たか・・

あれは・・新喜劇、チャーリー浜の往年のギャグ!「きみたちがいて僕がいる」じゃないか!!

しかも・・途中で「あっ」を入れてくるとは・・さすがだ・・


「何を言ってるんだ。なにをしているのだ。答えたまえ」


でた・・このパターンは徹底的に追及するつもりだな・・黒岩・・

黒岩は、生徒会長でもあるが、なんと成績は学年トップなのだ。

背も高く顔もイケメンで、まさに画に書いたような生徒会長なのだ。


しかも、理路整然と正論を説くことでも有名なのだ。

一度狙った獲物は絶対に逃がさない・・そんな執拗さも兼ね備えたやつだった。


「なぜ黙っているのだ。質問に答えたまえ」

「インガスンガスン」


うおおぅ・・芦田・・ここで「インガスンガスン」を放り込んで来たか。

「インガスンガスン」とは末成由美の代表的なギャグの一つなのだ!

しかも比較的、新しいのだ!


「インガ・・?」

「スンガ・・」

「スン・・?」


なっ・・なんということだ・・

黒岩が完全に芦田のペースに巻き込まれているじゃないか!

「スン」と言ってしまっている・・黒岩・・

それにしても・・不思議な会話だ・・インガスンガスンが通用しているとでもいうのか!


「いや・・そうじゃなくてだな・・何をしているのだと訊いてる」

「ちょっと軽く準備体操」

「準備体操?」

「こうやって小走りすると、頭の回転が良くなるんやで」

「なっ・・なにっ・・」

「ご飯食べたら、眠たくなるやろ。だからそうならんように、午後の授業に備えてや」

「ほ・・ほう。しかしだ。廊下は走ってはいけないと校則で決められているのだ」

「オーマイガー」


うっ・・これがギャグだと気がつくのは俺だけだ・・

そう・・これは新喜劇、浅香あき恵が客席に向かって放つ「オーマイガー」ギャグなのだ!


「知らなかったようだな。よく校則を読みたまえ」

「冗談は、よしこさん」

「よしこ・・き・・きみ・・どうして私の母親の名前を知っているのだ」


違う・・違うんだ・・黒岩・・

今のも浅香あき恵のダジャレギャグなんだ・・


「もうええ?僕、お腹空いたわ」

「むむっ・・」

「話なら、また後で聞くし」

「し・・仕方がない・・行っていいぞ」

「ごめんやしておくれやして~ごめんやっしゃ~」


うおおお・・再び・・末成由美を放り込んで来たか・・

そう言って芦田は「坂田走り」で去って行った。


「く・・草加くん・・」

「なに・・真城くん」

「僕・・頭がおかしくなりそうだよ・・」


そう言って真城は頭を抱えていた。



***



そして次の日・・


「はーい。今日は、昨日のテストの答案用紙を返しますね」


うっ・・俺はきっと、課題を与えられる・・全然できなかったもんな・・


「なんと!このクラスでは百点満点の人がいます!」


するとクラス中で「おおーー」という声が上がった。


「ミスター芦田!あなたですよ」


そしてクラス中で、どよめきが起こり、みんなは芦田の方に注目した。

芦田はわれ関せずという様子で、全く驚きもしなかった。

海戸を見ると、すごく悔しそうに芦田を見ていた。

芦田・・お前ってマジで勉強できるんだ・・噂は本当だったんだな・・


芦田の実力を見せつけられたクラスのみんなは、少しだけ芦田を見る目がそれまでとは違っていた。

そうなんだよ・・ここの生徒は、とにかくどんな人間であろうと、勉強が出来るやつに対してはリスペクトするのだ。


「ミスター芦田!よく頑張りましたね」

「ありがとさ~ん」


安曇先生はそう返事する芦田に、もはや何も言わず、笑っているだけだった。


「ありがとさ~ん・・か・・」


隣の席の近藤が、小さな声でそう呟いた。

どうした・・近藤・・

ま・・まさか・・お前、これからそう口にするんじゃないだろうな・・


「はーい。では授業を始めますねーー」


「アイキャンノット能登半島」


はあうっ・・芦田・・また島木譲二のダジャレを・・


「リピートアフターミー!アイキャンノット能登半島!」


うわあ・・先生・・何を言ってるんだ・・


「アイキャンノット能登半島!」


クラスのみんなは、何かに操られたように、そう繰り返した。


「あらっ・・私ったら・・何を言ってるのかしら・・あはは・・」


ほっ・・すぐに気がついてよかった・・先生・・

それにしてもみんなは・・何の疑問も持たずに、アイキャンノット能登半島を繰り返していた・・

これはなんだ・・どういうことだ・・芦田の不思議な力がなせる業だったとでもいうのか・・


隣の近藤を見てみると、ノートに「アイキャンノット能登半島」と書いていた。

う・・嘘だろ・・

それは・・正しい英語じゃないぞ・・単なるダジャレなんだぞ・・

大丈夫か・・


斜め後ろの真城を見ると・・また頭を抱え込んでいた。

うん・・それがある意味正常な反応だ・・真城・・お前は正しい・・


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