私、死にました。
初めての連載となります。よろしくお願いします。
書いては投稿になりますので、不定期です。
私、死にました。
……その自覚は、ある。
体調がなんか悪いなーと思い続けて三ヶ月。そろそろマジで病院行かなきゃならんかなあと、そう考えながら昨日仕事から帰宅。妙にくらくらする頭を抱えてベッドに潜り込み、そのまま夜中にいきなり苦しくなって、胸が痛くて息ができなくなって……
うん、死んだなこれ。
心筋梗塞とかだろうな。過労でそのリスクが高くなるとかなんとか聞いたことはある。過労ってほど働いてもないけど、まあそうじゃなければ不摂生だろう。
両親が亡くなって数年、結婚もせずこの年までお一人様。
アラサー?アラフォー?なにそれもう何年前のことかしらーと言っちゃえる私、今年で52になる。
まあいい、姉はいるし、その娘が懐いてくれてる。定期的にうちに来てるしほぼ毎日連絡も取り合ってるから、死体だって腐る前に発見してくれるだろう。
ぼへーとそんなことを考えているが、そんな余裕があるのは、そもそもここがどこなのか、全くわからないからだ。
まあ死んだこと無いしな。わかるわけない。
しかし死んだらお迎えとか来ないもんなのか。三途の川とか一面の花畑とか。どうせならお母さん会いたい。お父さんと一緒に迎えに来てくれんだろうか。
『すみませんねえ、それ出来ないんですよ』
不意にそんな声が聞こえた。
え、誰。お迎え?遅くね?
『すみませんすみません、ちょっと手間取りまして』
私の考えを読んだように再び聞こえて来た声は、今度は実体を伴って来た。
ぽん、と音を立てそうな勢いで目の前に現れたのは、どこにでもいそうなサラリーマン風の男性。グレーのスーツと紺のネクタイ、シャツが薄い水色なのがちょっと気になる。
『え、このくらいオシャレじゃないですか?シャツは白って拘りアリですか?』
いやないけど。
『ああ、なら良かった』
どう致しまして。
『えーと改めましてこんばんは』
こんばんは。って夜なの今。
確かに死んだの夜だけど。
『いや、おはようございますだと目が覚めたみたいでしょ』
まあそりゃそうだけどさ。
目が覚めた訳じゃないし、確かに違和感ある。が、とりあえず思考読むのやめれ。話進まないからさっさとどうにかしてくださいやがれ。
『何とも乱暴な敬語ですねえ。まあ、それも一理ありますので、まずご説明しますね。南條真紀さん、あなたは先程お亡くなりになりました。死因は心筋梗塞、ご想像通りですね、原因もまあ……その辺はこの際置いときましょうか』
うん、知ったって別にどうにもならんし。
あー。やっぱり死んだのか。ですよねー。
『はいそうです』
改めて言うな。
イラっとしてそちらを見ると、サラリーマンは面白そうに笑って頭を軽く下げた。
『あーいやいやすみません、デリカシーに欠けましたね。で、お迎えなんですが、すみませんねえ、あなたのお迎えは誰も来ないんです』
はい?
『えーと、とりあえず亡くなった場合ですが、こちらだと、大体世間様一般で言われてる感じであの世に行きます。三途の川と呼ばれてる、いわゆるこの世とあの世の境界線ですね、そこを通って〈あの世〉に渡り、色々手続きを経てまた新しく転生、と。輪廻転生、ちゃんとあるんですよ?数百年単位ですけど』
ほうほう、そりゃ気の長いことで。
……で、それが、私のお迎えがないこととどう繋がるのかなリーマン君よ?
『いや、ちょっと待ちましょうよ。あなた気が短いですよね?生前も言われてましたよね?』
言われてましたねえ。話は最後まで聞け、と。
まあそれも若い時だけだ。流石に50越えれば落ち着く。
今はとにかく結論が早く知りたいだけだ。さっさと言ってくれやがれください。
『はあ……いや、順を追って話さないと意味わからないと思うんですけどねえ。なら先に結論言わせてもらいます』
溜息混じりにリーマン君が呟き、そしてキリッと真面目な顔をすると、見事なまでに腰から直角に頭を下げた。
『申し訳ありません、あなたはこの世界の方ではありません』
………はあああ?
リーマン君、割と気に入ってます。