言葉に含ませ
さて、話を戻そうか。
ある意味ウサギと共に繁栄し、共生してきた土地です。
数も数だし、どんなに頑張った所で、ウサギが狩り尽くされる事が有り得ないお肉。
城壁付近での害獣の駆除の手間が省けると考えれば、ちょっと狩り具合が暴走したた程度でオレから何も言う事はない。
「酒のみの人が、飲みすぎて戻した料理一年分に比べたら、大した事ないと思いますよ?」
日常的に狩ったんじゃ、ゲームとして狩りたいとも思わないだろうしね。
ゲーム感覚で狩るとしたら余所者だけでしょう。
ただ、余所者なりに無駄にしないだろうから、あまりの不味さに多分泣くだろうさ。
普通は、ウサギの肉もやたら食えるようなもんじゃないからな。
むしろ、あのウサギの中の“旨いウサギ”に当たるまで狩りして、その旨いウサギの条件を広めて下さい。
「確かにそうだとは思いますが、例えが嫌すぎませんか」
「じゃあ、戻したアルコールでもいいです」
「どっちも同じです」
アルコールのが、量も値段も料理よか多くなるんじゃないですかね?
「見ようによっては、オレのウサギに対する仕打ちの方が酷い筈ですからね…」
魔弓で血抜きされるようになってても、野晒しですから寧ろ町冒険者とかに、糾弾されても仕方がないんじゃないかと思います。
「加工場の若い作業長が、知り合いの冒険者を連れて小屋の前で騒いだそうです」
「…まあ、そうなりますよね」
「ですが。エルド君が吊るしたウサギを摘まみ食いして、顔色無くして帰ったらしいですよ」
まさかの腹下し?
1日放置したくらいじゃ腐らないとは思いますが、ここ結構暖かいし上に周りが不衛生だから、悪い菌でも…。
「黙っていて申し訳ないのですが、私がいままで食べたウサギ中では抜群においしかったです」
「そうですか…」
「見張り役の、兵士たちも幾つか譲って欲しいと話していまして可能でしたら是非」
「是非って、まぁ構わないですけど…」
最初の十匹はともかく、他のはマジックバック一杯で持ち帰れないから作っただけよ?
「それは良かった。でしたら依頼料とは別に、伯爵家で買い取りさせてください」
預かり知らん所で、皆で摘まみ食いされて絶賛されてる。
余分な脂落としたりしたけど、基準が低かないですか?
「…因みに、これが山で取った野ウサギの肉ですが」
腰ベルト吊り下げた袋から、乾いた肉を出してヒルツさんに渡す。
「なんか解れた茶色い縄みたいな…」
「千切りながら食べて来た残りなので、見様の悪さは勘弁して下さい」
海沿いの街からくる干したイカを割いた酒のつまみサキイカみたいな?
あれ、“あれ臭い”から嫌い。
ヒルツさん、ウサギ肉を口に含み噛むこと数回。
「これは神か…」
俯いて変な譫言を言い始めた。
「よし!決めました!ウサギの肉は全部捨てて、これからは毛皮だけ加工しましょう」
伯爵家の人間がこうなるとか、あのウサギダメすぎだろ。
百害あって一利理無し、肉のレベルが低く設定しすぎている。
野ウサギの干し肉は、普通は固くて不味い(塩の味しかしない)って、食わないからな。
「いえ、流石に冗談ですよ。私とて野ウサギの肉くらい食べた事ありますし」
「ならいいですが、本気だったらどうしようかと…」
「しかし、エルド君のウサギ肉は今のと比べても遜色ないと言うか美味しかったと思うんですが」
「残った脂の量だけじゃないですかね」
にじみ出る肉汁なんて表現で済めば良かったんです。
適度な脂なら旨味になりますけど、あのウサギの場合は違う。血抜きしただけでやくど肉汁が垂れ流し状態のギットンギットンになるだよ。
(例・牛脂100%をプレーンでどうぞ)
そこまでくると、過剰な脂がクドいだけで肉の味なんかありゃしない。
しかも、ある程度抜けてしまうと肉が痩せて固くなる。
「ああ、高い肉でも食べる量が少ない方が旨いと言う奴ですか?」
「それは、少ない量をゆっくり味わうのだと思います」
それは、またちょっと意味が違うと思う。なんか違う理由というか、貧乏な家庭の親が子供に言い聞かせてるみたいでやだ。
「単純にウサギの脂が不味かっただけだからです」
脂抜いたなら、存外に普通のウサギと変わらないんだ。
「まず…いですかね」
「試食した翌日は胸やけして目が覚めましたよ」
ええ、もうかなり不味い。
ヒルツさんが、少なからぬショックを受けている。
いや、生まれる前から慣れている街の人々には申し訳ないが、もうオレはそんな食いたいとは思えない。
あれよこれよと手を尽くし、やっとたどりついたのが粗悪な干し肉並み。
いや、二日でもはや飽きた、諦めた…。
もう、マジックバックの中身いらないから、どうやってギルドに押しつけるかか悩んでたんだからな。
塩漬けなんぞも、脂の腐敗のが絶対早いわ。
塩は腐らなくても、その空間が先に腐るって、いやいやマジでマジでっ!!
あの臭いに過敏になってるだけだとしても、夜に獣脂の明かりにしてみたら普通の獣脂より臭い気がして堪らなかった。
丸焼きのがまし。
あんなの、山小屋で一晩嗅いでたら、鼻突き抜けて最初に脳が壊れてしまうよ。
▼脱線―リリース。
「エルド君は田舎育ちなの敬語使えてますね」
「オレ自身が、アレなんで一々矯正されたんですよ。周りがうるさいから仕方なくそうしていたら、男らしく話そうとすると逆にドモるくらいに慣れてしまっただけです」
「元々は、どうだったんですか?」
「野を駆け山はなかったけど、普通に男として育ってたらしですよ」
母や姉らが何をしても根底に在るのが、村のやんちゃ坊主だから大変でしかたなかったそうだ。
逆に、一時は女で生まれたと思いこませ、落ち着かせようと必死だったらしいです。
因みに、無理だったらしいです。
でも、ふたりが諦めた頃、ひとりで勝手に落ち着き始め、今までの苦労は何だったのかと肩を落としたそうです。
いや、教育の成果だとおもうんですけど、何故か二人が認めたがらないんだよ。
まぁ、可愛らしく育てたかったらしいから、着地点からはかけ離れてるだろうな。
でも、気がついた頃には生まれたばかりの妹に着きっきりだったね。
でも、妹もやんちゃ坊…。
これは血だな。
お嬢様の爪の垢のましても、消化しないまま下から出て終わるよ絶対。
だいたいにおいてだ。
母さん、あんたの血がある限り、子供は元気に伸び伸びと育つしかないのですよ。