やりすぎた?
草原を血に染めた。
数百の躯を捧げたとしても根絶やしには程遠く…。
なんせ、万単位だからな。
家畜の肉は高級品だが、肉は簡単に手に入る。
肉屋はなく、鳥や牛などの家畜の肉は、必要な人が畜産農家に直接買いに行き、ほとんどの家庭は、気が向いたら捕まえに行くらしい。
デカい街なのに、そこだけ自給自足の山奥みたいだな。
「エルド君のおかげで、小屋周辺のウサギは粗方居なくなったようですし、このまま明日は休養を取って下さい」
扉の向こうからヒルツさんの声。
メイドさんは中にいるが、話しをしていても全て扉越しだ。
因みに、カギを掛けてドアノブもガッチリ握りしめてます。
見ようによっては、メイドさんを人質に立て込もりしてるようなもんかもね。
一緒にいるのが男じゃなけりゃいいって話でもないんだが、ちっと見知っ人だから今を直視されたくないと思うのだ。
男のプライドですかね。
「一つお聞きしたい事があるのですが…」
「はい、答えられることならどうぞ」
「偶然かも知れませんが、妊娠したメスが一匹も居ないらしいのです」
「それは、狩人としてのプライドに関わるので勘弁してもらうしかないです」
妊娠した野生動物は狩ってはならない。
それは、狩猟を糧に生きる者の絶対のルールであるが、街の子供も捕まえてると聞きましたし、全く居ない状況にしてしまうと、台所にモロに影響が出る。
街の住人のために、ある程度の数も残さなければならなかったのだ。「それに、いきなり縄張りに空きが出来たら、他からウサギが集まるでしょうしね」
ウサギは鳴き声を上げないので、危険を察知した時は、後足を地面に叩きつけ警戒音をたてて、その音を聞いた仲間は我先にと巣穴に逃げ込む。
仲間どうしの意志疎通が、足音でも行われている。
数が少なくとも、その巣穴に足音があるかないかの違いは大きい筈。
一つの巣穴の規模がキロ単位とかの作戦は破綻してしまいそうだが、警戒心が強い普通のウサギならば、数匹残してあるだけで、多少の期間は他からの侵入を防げる筈なのだ。
基本的に、安全な自分の巣穴付近だけで生きる生き物だから当面は大丈夫だと思う。
勿論、全てを狩るのも難しいから意図的にメスは除外した部分もあるけど、メスは子ウサギが自立するまでは、交尾より子育てに集中するだろ。
妊娠期間は分からないが、生まれてから育ちきるまで半年かかるなら、半年は増えないと見ていいんじゃないか?
その半年の間に、土を固めて寄せ付けなくする工事をするなり、ウサギを罠で減らすなりすれば大丈夫でしょう。
「街の子供が、手近な肉を食べれなくなるのは、好ましくないのかと思いましたし」
ビバ、子供のお手伝い。
『〇〇ちゃん、お肉切らしちゃったから、明日お友達と一緒に行ってきてくれない?』
『うん、〇〇〇くんと一緒にいってくるね』
こんな会話が日常的だってキットさんが話してたし、街の常識としては大分壊れてるよねっ!!
そんな生活してて、いきなり近場の肉が無くなったら大問題。街の子供に指さされか、最悪狩猟ナイフ手に追われるわ。
生態系はとっくの昔にダメになってるけど、どこかに消費があるなら、やりすぎたら恨まれるんだよ。
食い物の恨みは恐ろしいのだ。
「いえ、それは問題ないのですが、狙ってやったのかどうかをお聞きしたかったのです」
「偶然なわけがないでしょう。それを見分けられなきゃ、こんな若造が狩人なんか名乗っちゃいられません」
「やはりそうでしたか。まだ聞きたい事もありますが、明日また日のある内に改めて伺います」
「その方が助かります」
話は構いませんが、このままの状態で続けられても、とにかく腕が疲れるだけですからね。
「それから。そこのマーサは、メイドのフリをしている私の妹です。何か用事があった場合、ベルを鳴らし屋敷のメイドをお呼びください」
「お兄様、私は淑女になるための修行をしているのでメイドのフリではございませんわ」
憤慨しマーサさんが反論を始めた。
なんちゃって感が拭えなかったのは、本当になんちゃってメイドだったから…。
「ざけんな出てけ」
とりあえず“ぺイ”しました。
追い出しただけです