見渡す限りの草原に…
なんと!!
見渡す限りの草原の至る所にウサギ穴。
「一部では地盤沈下起きてます。地形や地下水脈がが変わる恐れもあるそうです」
「今も、河川の影響はデカいすよ」
荷馬車の走る街道は、新しいレンガで敷き詰められ、岩や古いレンガで周りを固められているが、地面の下が空洞化していても雨にならないとわからないそうだ。
「こんなになっちゃう物なんですか?」
「遅くとも半年あれば繁殖を始める種類らしいです」
「スケベな連中っすわ」
この辺りは元々、平原に熊や狼が多く、それらの被害が多発し牧場などの経営が困難だったそうだ。
打開策として入手したウサギが、大量に野生化したおかげで、牧場への被害は減少したが、ウサギによる被害が酷く、喜んどはいられない状況らしい。
てか、キットさん口調が軽い。
なんとなく理解した。
エルフ探しも、下心から始まったらしいからな。
【例】
泉で水浴びするエルフ。
は ち あ わ せ。
―射出。
はいはい、リアル体験おめでとう。
他人だと思ってる上に、目が悪いから裸だとは思ってなかったそうだ。
でも、流石に矢が股ぐらい通ったのは見なくてもわかったらし。
それから、伯爵家にご案内なんてなりかけたから、遠慮させてもらった。
貴族が雇うと、大概実家に一度は正体するらしいんだけど、過度に期待・歓待されたりとか、逆の“なんでお前勝手に連れて来ちゃったの?”みたいな顔されてもやだし…。
基本的に一人で居られて、接触は朝か昼間までにしてもらった。
夜は、契約破棄とみなし撤退。もちろん、見たいが為に朝来て夕方まで粘っても契約破棄です。
ヒルツ氏から、せめて護衛だけは置かせて欲しいと懇願されたが突っぱねた。
ヒトは危険で一人は安全。
都合数日の伯爵領への旅。日暮れ前から毛布を被ったり、見られないように努力はした。
―でも無理だった。
▼
「とりあえず、拠点となる場所は整え終わったので、到着後はすぐ使えるようです」
早馬を飛ばし、街道から離れた場所にある古い監視小屋を一つ整理しておいてくれたらしい。
被害が多い地域と農地は、地元の冒険者による夜警や狩りが行われているので、そちらとエリアが被らないよう配慮されたらしい。
―街メチャクチャ近い。
てか、外壁のすぐ側。
意味はあるけど、普通なら街に戻る距離よ?
「もう少し離れた場所とかなかったんですか?」
「伯爵が、外壁付近のウサギの排除を優先して欲しいそうです」
常に草刈をして見晴らしよくしてあるが、目に見えて穴が増えて来ているそうで、外壁に穴を開けられる前に被害を抑えたいそうだ。
「これだけ見晴らし良かったら、いくらでも当てられそうなのに…」
「実際当たるんですが、増える一方でして」
普通の猟師が狩りまくってまだ増えるとかヤバいね。
「本当に魔物じゃないんですか?」
「魔石も魔力も一切ありません。天敵になる生き物は、スライムやワームらしいのですが、スライムやワームを食べる生き物が居ないので…」
「これまた無限に増えそうな天敵ですね」
「食肉を増やすと言う、従来の目的通り肉に困った事はないのですがね」
なるほどね。外来増やすのもなんだけど、贅沢な悩みだねー。
「…とりあえず小屋に連れて行ってください。そのまま、今夜から初めてみます」
「あの、街の中には…」
「狩りの期間、必要な物はギルドが頼んでくれたみたいですし、後はオレが使えるのか確認しておくのが先です」
肉を燻すための香木くらいしかオレ頼んでないから、不要なのもありそうだね。
それに、すれ違った冒険者も領地の中心地らしく身なりがしっかりしていたので、今着ている服で入ってくのは気が引ける。
山人みたいなのいないです。
「見ての通り、余所行きの服もないですし、観光はまた今度と言う事で」
「エルドさん、俺の白衣でよかったら「わかりました。エルドさんに任せます。必要な衣類も此方で手配しておきます」
「狩猟中は、集中したいので誰も近寄らせないでください」
歩哨とかもちょっと困るが、それは街の安全のためだから仕方がない。
ブカブカのコートだし、フードを被れば、遠目に女かどうかなんて分からない筈。
▼
キット氏は門で下ろし、ヒルツ氏と二人で小屋の点検。
軒下には大量の香木の薪(手抜き?)。小さな竈に、寝床となる板間に置かれた大量の資材。
「「………………」」
適当にも程がある。
ぶっちゃけ、道具は手持ちで足りるし、香木以外は全部いらない…。
そう思いながら、荷物を隅に寄せ始める。
「手伝います」
「寝床作るから、積めるのは壁にします」
「はい、壁ですか?」
「支度してもらってなんですが、多分、外の香木以外はほとんど必要ないかも知れません」
「中身の確認は?」
「必要になったらします」
綺麗に四角く纏めてあるから、無駄な荷物は積み上げて壁にしよう。
「エルドさん、期間中のお風呂はどうしますか?」
「自分でどうにかします」
「そうですか、必要なら屋敷にありますので」
「ありがとう。お気持ちだけで大丈夫です」
床に穴掘って、どうにか…と考えた所でハタと気がついた。
「水…井戸は?」
「…すぐに探しましょう」
入口の怪しい窪みはあるが、裏手も左右もそれらしき物はない。
「多分ここで、潰れてしまってないみたいです」
「…飲料水だけ追加でお願いします」
「水樽で運ぶよう手配します」
そうして、一通りの支度を終えた時には、既に日が傾きかけていた。
「では、私は街に戻ります。夜間の戸締まりなどお気をつけ下さい」
「はい!ありがとうございました!」
互いに勢いよく別れた後で更に一つ発覚。
木製の扉に鍵なんかなかった。
結局その日は、小屋から離れたるのは止めた。
だって、中に貴重な品とか混じっててもわかんないし…。
▼
「とは言え、全く狩らないわけにも行かなくてねー」
と言う訳で、小屋の屋根に登って通りすがりのウサギに狙いを定める。
狩り始めて数時間、黒弓の命中力も相俟って、既に予定を遥かにオーバーしている。
その数二十。
近隣だけで軽く数百、刈られてない草の中には千単位はいるとヒルツ氏がいっていた。
それも頷ける勢いだ。
回収の手間が無ければ、魔法袋が満帆になるのに三日もかからないかもしれない。
「…もう、山火事とか野焼きでもしなきゃ無理でしょ」
最後のウサギを魔法袋に回収し一度小屋の中へ。
解体し心臓を取り出し、狩りを祝う祝詞を唱え、焚き火の中に捧げる。
「…これ、無駄にしたら神様怒るんじゃないかな」
残りは、焼いて一人モソモソと食べる。
気分的なものかも知れないが、山のウサギほど美味くない。
不味くはないが、油が多く柔らかいのに何か物足りない。
「…明日は煮込みにしてみよう」
いろんな場所を食べ終えての感想はそんな物しかなかった。
薫製用に吊してみたがやはり油が多い。
脂が多いと腐りやすいから、長期保存が目的の加工には向かない。
このまま生で持ち帰ってもギルドで不評に終わりそうだ。
干し肉に豚肉が使われない理由なんだが、臭くなるし脂は邪魔だ。
本格的に燻せる環境を作るなら小屋の中丸ごと燻すしかない…。
製品化が進まない理由もちゃんとあったんだね…。
ただ肉が食えるだけなのね。
口いっぱいに頬張ると、身から溢れる肉汁に溺れそうになります。
そこそこイケるんだが、沢山は食べたくない。
元が寒い地方の生き物だっけかな。
アザラシみたいに皮下脂肪多いから、寒い地方ならこの脂肪も重宝されるだろうけどね。この辺りは温暖だし、太りたくない女性が居る家庭じゃほとんど手を着けないだろうな…。
狩り期間中毎日食べてたりしたら、細身のオレでもヤバいよ。
消費も追いつかないから、狩りも積極的に行われないわ。
美味い料理なんかつくれないし、どうしてくれよう。
このウサギの心臓もよく燃えた。
豚並みかそれ以上の皮下脂肪と言い、まさか野生のウサギが肥満してるなんて事はないよね?
でも、逃げ足遅いし全体的に丸々してるんだよな。
狩りもいいけど、ウサギの食べてる物も調べてみよう。
狩れるだけ狩るのは、狩人の本質じゃない。
狩れる時には狩るが、狩る必要がないなら絶対に狩らない。
これ大事。
だいたい、数日かけて来たのに、“こんなの”狩って終わりなんて、加護もプライドも許せるる訳がない。
「狩らないで根絶やしにしてやる…」
ぐっと拳を握りしめ、外の気配にやはり無理かと諦めた。
―奴らそこら中にいる。