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エルドと月

男を視認したエルドは、迷う事なく弓を射り。放たれた矢は、男の股ぐらを抜け後ろの樹木に突き立った。


「…今のは威嚇です。去らなければ次は当てます」


身体を隠せるほど伸びた黒髪で濡れた身体を隠し、エルドはわかりやすい様に漆黒の弓の狙いを下に定め、次をつがえる。


「ひいぃっ!?」


射られてはたまらないと慌てて逃げ去ってゆく。


深い森のどこか、エルフが住む場所があると昔から言い伝えがある。

諸説色々あるが、ほとんどがエルフの姿に惹きつけられた男が、エルフの正確無比な弓の腕を見せ付けられて逃げ帰ったと言うものだが、夫婦喧嘩の最中であれば旦那の――が射抜かれるのは常である。

「稀代の生物学者だっけか、夜中に一人で動き回るのは感心しないね」


去った先を見ながら少女は若干憤りを感じさせる口調で言葉を発した。


男の正体が、ひと月ほど前“エルフを探しにやってきた”と行く先々で豪語し、行方不明になっていた学者だとわかっていた。


何人かの冒険者が捜索に来ていたのは知っているが、水浴びを始めた途端、ノコノコ姿を現わすとはエルドからは思っても見なかった。



「オレの裸に誘われるだなんて、藪蚊よりヒデェや」



水気を切り、インナーに丈の長いコートを纏ったエルドは獣道が出来ないように、藪の中を突き進む。


湖からそう離れていない場所に、エルドが仮住まいにしている場所がある。


何本もの丸太の上に草を並べた屋根と同じく丸太でのみ構成されたトーチカを思わせる

広さ三畳にも満たない寝床。

煮炊きやトイレは他で済まし、ハーブや消臭効果のあると言われる草木で周りを囲ってある。

獣除けであり、獲物に気取らない様にするため室内や身体には虫除けと消臭効果がある草木の汁を塗りつけてある。


「昔は、山人をエルフと間違えてたなんて話もあったけどね」

山間部に住む人の肌は平地に住まう者より白く綺麗だ。


新潟に色白の美人が多いのと理由は同じで、それには日照時間が関係しているのだろう。


尚且つ、山に住む者は、虫に刺されなうよう全身を毛皮やらで被い隠し、日中はほとんど肌を外気に当てなくなる。


そうして、たまたま出会った相手が美人であれば…。


人ばかりの世界で、ケモミミ亜人の概念はなくとも、夢物語から絶世の美女エルフ生まれたのかもしれない。



翌日、聞き分けのない子供を薬で眠らせギルドを訪れた。


「要救助者一名お願いします」


「…それ、生きてるんですか?」


受付嬢は口元をハンカチで被い、酸っぱい臭いが立つ男を指差した。


「臭いけど腐乱はしちゃいない」


目は虚ろで舌をダランと出したコイツは、少なくとも確定的には数日。


最悪の場合、街を出てから全く体を流していない可能性も否定できない。


だが、臭くとも確実に生きている。


『『『…くさ』』』


普段汗臭いと言われる男達も、度をすぎた臭いに顔をしかめ鼻を押さえていた。


酸っぱ臭いと言うより、薬品的な刺激性があるのだ。


『これだけ臭かったら肉食の魔物が寄るわきゃねぇ…』


魔物と言うか、ほとんどの野生動物が臭いに敏感だから、アンデッドや鼻のないスライムのような魔物から逃げる目的であれば、この臭いはかなり有効だろう。


冒険者や、毒粉や皮膚が痛くなるほど辛いトウガラシの粉などを混ぜた刺激物を逃走時に投げつけたりはする。それ以外にも、こうした刺激物などを用いた方法などを使えば魔物に襲われる事なく安全に目的地につく方法は、いくらでもあるらしい。


逸れを使って、エルフを探そうだなんて、この人絶対頭おかしい。


「誰か、この人解体所まで連れてって洗ってきて下さい」


この臭いが余程堪えたのか、受付嬢は青ざめた顔で下っ端の職員に指示をだす。


足だの無くした元冒険者とか、一部なくとも荒事もこなせる男に押し付けた訳です。


気持ちは分かる。


押し付けられた人の苦しみも理解しよう、何しろコレを此処まで一人で運んで来たんだからさ。


「…エルドさん、職員用のシャワー室でよかったら使ってください。着替えも職員のでよければ支度します」


「着替えはあるんで…」


インナーとか、服はあるけどコートは予備ないですからね。

洗剤なんかで洗濯されても困るし、ソリに乗せてきたから、臭い移りはしてないハズ。

汗を流させてもらえるだけでかかり有り難い。


「そうですか残念です。そのボロ何時まで着る気ですか」


元々は白っぽいコートだったけど、消臭薬になる草の汁とか染み込ませてたら、茶色だか緑だかよくわからない色合いになってしまった。


チームで依頼を粉すまっとうな冒険者は、身綺麗にしなければならないからともかく、狩り専門の冒険者は、ランクが高くても割と小汚い。

本人身綺麗にして街に降りてきたつもりでも、街の人からみたらかなりみすぼらしかったりする様子。


「綺麗な服は実用的じゃないですからね。新らしいのより安心できるから当分使いますよ?」

荷物は必要最小限。寝床への放置なんかもありえないので、土台仕舞える場所もない。


「…まぁ、エルドさん夜間出歩かないですからいいですけど、警備隊に呼び止められないで下さいね?」


「もう手遅れですけどね」


とんでもなく臭い人間を簀巻きにして板に載せて引っ張って来りゃギルドまでに、職質の二三受けたりするのさ。


因みに、臭かったらしく誰も手伝ってくれようとはしなかった。


臭いの元は、解体所で水洗いもしくは丸洗いされてるから、異臭事件は当分ないだろう。


「脱衣場まで案内します」


「あぁはい、お願いします」


既に気が付いた冒険者の手により待合室のドアや窓は開け放たれ換気が行われ、事務所側の窓も職員が開けてある。


『おい、まだクセぇぞ』


『扇げよ扇げよ』


『扇ぐぞ扇ぐぞ』


何やら、外から団扇で風を送っている者。薬ツボに顔を突っ込んで『この臭い落ち着く』とか言ってる人もいた。


正直カオスです。


オレの消臭薬は、手持ちを全部アレにぶっかけたんだけど、まったくの無駄だった。


理解しがたいが、臭いとはまた質が違う物質が原因だと自慢していた。



フェロモンも臭いも、ビリュウシとかに分類され、嗅覚を刺激同じ仕組みらしいんだけど、発生源となる微生物とやらを利用している、尚且つフェロモンは生き物の本能を直接刺激する事も可能らしい。


結果、フェロモンに誘われ不覚にも覗きに至ったのだと…。


―意味が分からん。


とりあえず、オレは知り合いの振りしてしばきあげた。


顔は同じだが、夜間と髪の長さは一目瞭然なので、それは通じた。


そもそも、泉にいたオレは肉体的には女性化していたので、昼間に会って同一人物とし認識するのは難しい。


昼は男で、夜はニョタで狩りをし獲物の一部を女神に捧げ、

その変わりに固有武装と狩りへの加護を得る。


そうした加護を幼少期に後天的に受けてしまったので仕方がない。


飢えや獲物に困る事はないならそれも一つの答えであるとオレは考えている。


それに、加護は魔法以上に不可解であり不思議なものである。

理屈を見出すより先に、与えられた加護と共生する道を理解しなければ、加護は呪いとなり災いを起こす言われている。


つまり、神様を蔑ろにしたら祟られる訳であります。


極端な話しをすると、見た目細い女子供でも、加護があれば馬車を丸ごと持ち上げたり、マジックバッグのような空間に家ごと入れて旅をす者もいると言っていたか。


オレは、身軽で狩りがとてつもなく上手い女になる訳だ。


男の時も村一番の美人と言われた(五人生んで今は太りました)母親の若い頃そっくりだと言われるが、女の時はそれこそエルフと見紛うほど。


色気づいた幼なじみ♂達が、夜な夜な夜這いをかけに来るようになってしまい。


身を守る為に、家族以外には伝えずに、住み慣れた村を出た身であります。


一応家族に居場所を伝えてあります。

それでも、幼なじみ達が身を落ち着けた頃に、ヨメを連れて帰郷し、男同士酒でも飲み交わせたらいいなと思う。


家族とは、毎月手紙をやり取りしてるのだけど、奴らの熱は冷めて居ない。


兄姉からの手紙は、“尻が大事なら村に寄るな”と毎回記され、故郷で何が起こってるのか不安になるばかりです。


ヨメになってくれそうな人なんて陰もないので、帰郷も当分先の話です。


森に入り浸り、異性との接点が、ギルドの受付嬢さんくらいしかない生活してるのが悪いんですがね。


ギルド職員の一部は、オレの状況を把握してるので、時折こうしてシャワー室を貸してくれたりします。


夜に女性になるなら、公共銭湯で男共に肌を晒すのは、避けた方が後々困らないらしいです。

珍しいケースでも、過去に蓄積された情報はいくらもあるんだそうです。


新しいパターンなら、ギルドの監視下。

基本的に、内陸のギルドは国の機関なので、下手したら国に研究とか管理されるなる訳ですよ。


レアかユニークかの違いで、自由度も変わります。


なにはともあれ、女の時ならば受付嬢が、公共銭湯に連れて行ってくれるらしいが、遠慮させて戴いている。


ダチと連れションならまだしも、姉より年上の女性と風呂に入るなんて、ロクな事にならなそうな予感がしませんか?


姉も妹も、“揉み”目的で風呂に乱入してきましたからね。


村の女子も似たような物で、やたらと触りたがるのは何でなんだろう。


男同士だと、親しくても握手的な肌の接触もないとか普通なんだけど?


飲んで肩組んで帰っても基本的に服着てますからね。


直ではないすよ。


揉みにくる奴らからしたら、男共の握手する絵面のほうが、よほど厭らしいとの事。


―スケベがイヤらしいて何。



「…シャワーは使える状況になってますが、その前にエルドさんに謝罪しなければなりません


脱衣場に入って、使える事を確認した受付嬢は、真剣な表情で語り始めた。


オブラートに説明すると、オレを含め身体的に影響を表す加護持ちの登録情報が他国にリークされた恐れがあるらしい。


「…はぁ、ソウデスカ」


正直、他国に漏れた所で別にどうでも良いような…。


「本当に申し訳ありません」


特に、隠れてるつもりもないし、謝るような話しでもないとおもうんだけどなぁ。

故郷のアレらに、居場所がバレたとかじゃなきゃ、特に気にしなくてもいいんですよ。


もし、田舎から偶然来たとしても、夜に紛れて他に逃げれる自信あるし?


「言質は頂きましたので、シャワーをお使いください」


「ありがとうございます。でも、わざわざ他に居場所教えたりしないでくださいね?」


「当然です。ギルドには内外問わずで、登録者の個人情報への守秘義務があるので、その点は安心してくだって結構です」



故郷から送られてきた手紙は、職員が事前に確認してたりとか、ギルド内部にはダダ漏れですけどね。


ギルドの輸送・情報網を利用した犯罪の防止為なら内容の確認は当然の措置だそうです。


内容を外にもらしたり、それをネタに登録者を貶め(イジ)る事をしないのですが、危篤だの緊急の手紙はギルドが早馬出して手紙の受取人教えてくれたりするそうです。


情報に厳しい所はありますが、ある意味において、都会のご近所さんとは比べものにならないくらい親切なので、信頼できるのですよ。


でも、そんなのこんな場所で謝られましても、あんたらある意味狡くないすか。


ここでキレて帰ったら、シャワー入り損なうわで踏んだり蹴ったりじゃないですか。


だいたい、オレ(エルド)の登録情報流れた所で何か不利な点があるだろうか?


…と言うか予想もつかない。


「借金背負わされたり、犯罪奴隷にされるとかにならなきゃ別にいいです」


「もし、万が一何かあった場合はギルドが身柄を保護いたします」


ぶっちゃけ、商人やら貴族やら、色のキチガイは多く、女性職員に美人が多い理由でもあるらしいですよ。


いやな時代ですね…。



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