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終章 -3

 俺はまだ腕を引っ張られたまま、川沿いの道を歩いていた。

「もういいよ。わかったよ。逃げねーから、ちゃんと帰るから離してくれよ」

 腕を振って、血管が太く浮き出た手から離れた。

 草原の真ん中をチビハゲの年寄りと黙って歩く。なんだかもー。

「どこまでついてくんだよっ」


 ついに俺が口を開いたとき、それが聞こえた。

「スサノーオ──」

 うわ。ずっと聞こえてなかったのに。うらめしや~復活だ。なんだよ急に。

「ああ、おぬし、大活躍じゃったからのー。見つかってしもうたかのー」

「誰に!?」

「しっ!」

 アマノマヒトツノカミ(親父)……、あーもう面倒だ。じじいでいいや。

 じじいが人差し指を口に当てる。それは万国共通の「黙れ、静かに」の合図ですね。

「むやみと声を出すでない。見つかるぞ」

 どーすんだよー。

「じゃから、さっさと帰れと言ったのじゃ。今はまあ、山姥の錦も持っておるし、わしが一緒じゃから大丈夫と思うが、急ぐ方がよかろう」

 また腕をつかまれて、ずんずん歩く。

 草原が途切れ、川通しの山道に入る。はあ、ここからまた山道を歩くですか。結構大変だったんだよな。来るときはサギリと一緒だったから、喧嘩もしたけどでも楽しかった。帰りはじじいと一緒かよ。

 楽しくない。


 しかし、俺らは山道に入って一番最初の大岩の前で、呼び止められた。

「おやスサノオ。お早いお帰りじゃないかえ。ずいぶんとご活躍だったようじゃの。さて、自分がナニモノか、わかったかの」

 わかりません。

「おお、山姥の」

「ほほ、おぬしが連れ歩くとは、これは異な事」

 じじいとばばあの会話。あ、いや。山姥の奥様。奥様は大岩の上に腰かけて足をぶらぶらさせている。

「急いでおるのじゃ。山の風で送ってくれんか」

「マヒトツノカミの願いとあれば、聞かぬ訳にはゆくまいの」

 こいつは神じゃないってのに。山姥にそれがわからないはずがない。見ると山姥は、なんだか嬉しそうにニヤニヤしている。なんか、こいつら共犯者って感じ? じじいとばばあでなに企んでんだ?

「貸しひとつで、かまわぬ」

「ほほ。承知」

 いきなりぐるんとまわりの景色がまわったかと思うと、そこはもう祠の岩穴の前だった。

 あら便利。


「さ、はよう帰れ」

「ちょっと待てよ。帰れ帰れって。言われなくても帰るけどさ。さっきの声ってなんなんだよ。少しくらい教えてくれよ。俺、誰にさがされてんだよ」

「あやつらの名を知ったら、それこそ取り込まれるぞ。おぬしはまだその時ではない」

「まだって、なんだよ。いつになったら、その時になるんだよっ。だいたいその時って、なんだよ。さっぱりわかんねーっつの!」

 んもー。違う世界にまで来てさんざんな目に遭ったけど、なんも解決してねーじゃねーかっ。少しくらいレベルアップさせてくれよっ。

「ふむ……。それもそうじゃの。では、トクサノカンダカラをそろえることじゃ。まずはそれからじゃの」

「なんだよ、そのトクサノカンダカラって」

「知らんのか。いや、知っとるはずじゃ。ほれ、そこに持っておる道返しの玉がそのひとつじゃ。あと、さっきサギリがオロチの民に作ってもらうと言っておった剣もな。山姥の錦も別名クサグサノモノノヒレというんじゃ。おお、結構集まっとるじゃないか。知っとるじゃろ。あとは自分で調べろ。文献さがすちゅうほどのものでもないじゃろ」

 それって、あれですか。古事記じゃなくて日本書紀じゃなくて、なんだっけーに載ってる、天孫光臨のときにアマテラスオオミカミが天孫に渡したっていうアレですか。トクサってからには「十種」? ……十個あるってことですか。

「十個は、多いんじゃねえの」

「もうすでに三つ見つかっとるじゃろう」

「あと七個もあるじゃんよ。普通ロープレでも、集めるお宝は五個くらいじゃん? 十個もあったら飽きちゃうよ」

「おまえ、ファミコンは好きじゃったろう」

「え?」

 どんっ!

 穴の中につっ転ばされたと思ったら、がらがらどしゃ──んっと入り口が崩れてきた。まわりが真っ暗になる。

 え──ん。なんだよ。いきなりよー。

 しかも、ファミコンてファミコンて……。

 やっぱ親父じゃねーかよっっ!!

 こんの、くそ親父──────っっ!

「開けろっ。くそ───。開けろ──っ!!」

 入り口の崩れた岩をどけようと押してみたけど、びくともしない。思いついて懐中電灯で照らしてみると、みっちりと隙間なく岩が積み重なってる。石垣みてーだ。どんな魔法だよ、ったくよ。

 これは、どーでもこーでも帰れってことですね。わかりましたよ。帰りますよ。

 

 穴の奥の、祠の扉に手をかける。

 ……ああ、しかし、ミトちゃんになんて言おう。こっちの世界であったこと、全部話したら病院行きかなー。でも嘘つくのは苦手なんですよー。

 あーもう、どーにでもなれっ!

 えいやっと扉を開けると、そこにはミトちゃんとツキミの顔があった。え? ずっとそこで待っててくれたの? いやまさか。もしかして毎日来てくれてたとか? 嬉しくなって、まずミトちゃんに向かって手を突き出してみる。

「あ、びっくりした~」

「なんやの? 忘れ物?」

 え? えーと……。これは、どういうことでしょうか。

「いや、その、ちょっと戻ろうかと」

「え? もう?」

「今入ったばっかりやん」

「やっぱり、なにもなかったんですの~?」

 これは、もしかして……。

 穴から這い出して、明るいところに出た俺は、どうして祠の中に入って一秒もたってないのに、服がドロドロになっているのかと、責め立てられるハメになった。

 道返しの玉って……。

 「これがあれば、もとの場所に帰って来られる」って……。

 時間のことだったのかよっ!

 捜索願いを出されてなかったのはよかったけど、この俺のありさまをなんて説明したらいいんだよ。

 ……とほほ。

 ミトちゃんとミトちゃんのお父さんに、俺が質問攻めにされてる間、ツキミは祠の扉を開けて、中をのぞき込んでいた。


「真っ暗や」

「うん?」

「……不思議やなあ」

 うん、そう。不思議なことばっかりだ。


 俺は、これから普通の生活に戻れるんでしょうか……。


三部作のうちの一部、これにて「完」です。二部以降はいつになるか未定です。

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