第十一章・最終決戦 -3
龍神様が空中で固まっている。完全に動きが止まって、そこだけ合成した怪獣映画みたいだ。
「なに? あれ」
「スサノオの、縛りの結界でしょ? 結界の力であいつの動きを縛ってんだよ。すごいね。上級技じゃーん。自分でやっておいてわかんないの?」
わかりません。で、これをどーすればいいんでしょうか。
「ちょっとそのままでいて、力、抜かないでよっ」
力抜くなったって、どこに力入れてんだか自分でわかんないんですよ。えーん。
サギリが俺の横に出て、トナエゴトを唱えている。龍使いのムラオサは、龍神の動きが止まったのを見て、「おのれ~えええ」とわめいて、こっちもさらに激しく祈り始めた。
なんか、龍神に向けてる両手が重くなってきてんですけど──っ!
なんとかして────っっ!!
「は──っ!」
サギリの光が発射されるのと、龍神が動き出すのが同時だった。たぶん、俺の結界がやぶれたことと、サギリの浄化の光が当たったことが一緒になって、あたりには今までにないような光が渦巻いた。
まぶしい。
頼む! これで死んでくれ! あ、龍神は死なないんだっけ? なんだっけ、無力化? 無力化してくれ──!!
光はまだ渦を巻いている。風がごうごういう音と、雨がどどどど──っと降る音が一緒になって、もうもうこの世の終わりだ。
渦がゆっくりとほどけ、光も弱まってきた。なんとかなったか? なったのか?
……………。
「!」
光の途切れ目からなにか、黒いでかいものが飛び出してきたのと、俺がサギリを突き飛ばしたのが同時だった。
たった今まで俺らがいた場所に、クレーターを作る勢いで龍神が激突する。その衝撃で、俺らはさらに吹き飛ばされた。
くっそー。なんとかならなかったか──!!
地面を転がりながら、なんとか立ち上がる。いてーよいてーよ。どこがいてーのかわかんないくらい、いろんなとこがいてーよ。
サギリは俺の突き飛ばしでどっか痛めたのか、脳震盪でも起こしたのか、三メートル右方向に倒れたままだ。
うわーん、ごめんよー。力の加減ができなかったんだよー。
俺らを喰いそこねたあと、また空中に舞いあがった龍神は、倒れているサギリに照準を合わせたようだった。
ぐお───っと、ものすごい風とともに、また急降下してくる。
うわーん、あんたはどこも痛くしなかったんですかっ!?
俺はまたサギリと龍神の間に入り、結界を張った。
「やえがきっ!」
二度目で龍神様も、俺の縛りの結界に慣れちゃったのか、俺の力が足りなくなったのか、今度は完全に動きを止めることはできなかった。
じりじりとスローモーションの動きで、こっちに近づいてくる。
うく───。腕が重てえ!
どうしたらいいんだー! サギリはまだ気がつかない。ああ、このまま死なせてしまったらどうしよう。生意気な妹がいたらこんな感じなのかな、かわいいなーって、やっと思えるようになったのに。短い間だったけど、いろいろ二人で乗り越えてきたのに。
ここで死なせてたまるかよ───っっ!
俺におまえの、その楽観主義と強運、わけてくれるまで死ぬんじゃね───っ!
くっそ───。こうなりゃヤケだ。やれることは全部やってやる!
「はらいごと きよめごと
のろいごと ほかいごと
もうす……」
俺は、縛りの結界とやらを張ったまま、浄化のトナエゴトを唱え始めた。腕が重てえけど、返って精神統一にはいいかもですよーだ。
くそっ!
「にぎみたま あらみたま
あめつち ことだま
さわに」
ん? なんかちょっと腕が軽くなったような気がする。
見ると、ジヌミがムラオサを押さえ込んで、首筋に剣を当てて動きを封じている。
「こっちは押さえた。スサノオ! やれー!!」
おお、ありがとー!
「やそまがつひ おおまがつひ かむなおび おおなおび」
「やそまがつひ おおまがつひ かむなおび おおなおび」
横から声が重なる。見ると起きあがったサギリが手を口の前で組合せ、俺と同じトナエゴトを唱えている。
ふたつの声が響き合う。びりびりした波動が耳から皮膚から身体全体から入り込んで、駆け巡り、ひとつの大きな流れに合流していく。
これは、気持ちいいぞ。
流れる。渦巻く。流れる。渦巻く。
他にもなにか強い波動が、渦に流れ込んでくるのを感じる。
流れがもっと大きくなる。
流れる。渦巻く。流れる。渦巻く。
「さわに さわに」
「さわに さわに」
俺の波動の流れとサギリの流れが、響き合ううちに、だんだんと同じになってくるのがわかる。ふたつの流れが寄り添い、息を合わせ、速度を合わせ、完全にひとつの流れになるタイミングを計っている。
タイミングをはずすと、流れは分離してしまう。
「いざあわな」
「いざあわな」
いつだ? いつだ?
自分の身体の中の声に耳を澄ます。
強く吹く風の音も、叩きつける雨の音も聞こえない。ただ、自分の声とサギリの声だけに集中する。
いつだ?
「いざあわな」
「いざあわな」
呼吸、ふたつ分。
…………いまだっ!!
「いざ!」
「いざ!」
サギリも組んでいた手を解き、両手をいっぱいに広げて龍神に突き出す。並んだ四つのてのひらから、見たことのない、でかい光の玉が生まれ、黒い龍神に向かって発射される。
いっけええええ───っ!
パアアアアア────ンッッッ
……………………。
ほんとのほんとに最大級の光の発射の反動で、俺とサギリは後ろに飛ばされ、尻餅をついた。いてててて。
龍神に当たった光の玉は、渦になり、流れになり、ゆるい円を描いて空へと登っていく。
今度こそ! 龍神様! 成仏して……じゃなくて、無力化されてくださいっっっ!
もう、あとは祈るしかない。
た、の、む────!
…………………。
どんくらい時間がたったのか、わからなかった。長かったようだけど、実は一秒くらいのことだったのかもしれない。
まぶしい光が晴れ、あたりが見渡せるようになってみると、薄く朝日の射す広場には龍神の姿はどこにもなかった。風も雨もやんでいた。




