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第十章・ヤマタノオロチ大作戦 -4

 はっきりと言葉にして言い交わすことが大事ってことなんですかね。こっちの世界では、言霊ってのが俺の世界よりも幅きかせてるってことだろうか。あ、でも俺の世界でもおんなじか。意識するかしないかの違いだけで。人間は言葉に縛られる存在ってこと? 神様も? う──ん。

 意識してるだけ、こっちの方がわかりやすいかもな。言葉に出されたことは絶対。言葉に出されなかったことは、いっくら心で思ってても不確定。ぐちゃぐちゃ考える必要なしっ!

 あ、そうか。なんかわかったかも。カムナギってのは、その不確定なことを見ることができる人間てことなのか。普通の人間は言葉に縛られている? そうかも。あ、そしたら神様は、言葉に縛られてるんじゃなくて、人間を言葉で縛ることによって、不確定な自分たちの存在を普通の人間にもわかるように絶対なものにしてくれてるってことか。

 ちょっとかしこくなったかも、俺。


 また暴れ出さないか様子を見ながら、ぐるぐる巻きの縄を解いてやる。オロチのおっさんたちは心なしかしょんぼりして、おとなしかった。

 部屋を出るときに、ムラオサがアシナヅチにふりかえって言った。

「酒、うまかったな。また飲みてえな」

 なんか、泣かせるぜ。仲直りのシーンだ。

「残った酒を持っていきますか? 小さな瓶に入れ替えますよ」

 アシナヅチが愛想よく言う。

「いいのか?」

「いいですよ。これからはこのサトで一緒に暮らしていく仲じゃありませんか。お近づきのしるしです」

 ナイス、アシナヅチ! これでこのおっさんのハートはわしづかみだぜ!!


 部屋から出ると、外ではジヌミが美少女バージョンで待っていた。

「オロチの皆様、わたくしどもの願いをお聞きくださいまして、本当にありがとうございます。龍神様に捧げられる運命のわたくしでしたが、このスサノオ様と皆様のあたたかいお心で救われました。わたくしはこのスサノオ様と結婚して、イズモノクニをまわる旅に出たいと思います。いずれ、この父母のいるサトに帰ってくることもあるやもしれません。それまでどうぞ、父母と、このサトをよろしくお願いいたしますね」

 そんなセリフ、よく噛まずにスラスラ言えますね。

 月明かりの下で、美少女笑顔全開。効果絶大。ああ、ああ、おっさんたちお花畑の向こうに行っちゃってるよ。俺も一瞬、お花畑が見えちゃったよ。

 三人のオロチの民は、アシナヅチが小さい瓶に詰め替えた酒をおみやげに、山へ帰っていった。

 ムラごとにばらばらに帰ってもらわないとね。話を摺り合わせられちゃったら最後。うひー、考えたらすげー綱渡りだよな。段取り間違えたらおしまいだ。

 さ、綱渡りをあと七つ。落っこちないようにがんばりましょう。

 

 七つ目までの綱渡りは、どうにか落っこちないですんだようだ。

 おっさんたちが酒の瓶を抱えて山へ入っていくのを見送って、俺とジヌミはひとつ大きく息をついた。

 外はもう夜が明けようとしている。東の空がぼんやり明るい。あとひとがんばりだ。

 庭のそばの部屋に行って、横になってうとうとしているサギリを起こす。かわいそうだけど、これで最後だからちょっとスタンバッててほしい。なんか起こりそうな予感がするんだよな。

 はずれてくれれば、いいけどさ。

「ん、ああ、ごめん。寝てた。どう? 終わった?」

「うん、あとひとつなんだけど、ちょっと起きててくんないか? 最後のやつ、ちょっと手強そうなんだ」

 最後にやってきたグループの、ひとりだけガタイのいいムラオサのことだ。横の連絡があまりないというオロチの民にも、一応全体のオサのような存在があって、このマッチョマンがそれらしかった。

 「他のやつらはみんな返すって言ったんだよ」という俺の(嘘の)言葉に、何人かのムラオサが、「コシのムラオサもか?」と聞いてきて、「そうだ」と答えてやると、「そうか、じゃあいいよ」と簡単に説得された。ちょっと恐れてもいるみたいだった。まあ、怖いよね、でかいし。俺も怖い。


「あ、あの身体のでかいやつだろ? あいつが龍神様のお使いってことだと思うよ。入ってきたときちょっと見たけど、なんか気配が違ったもん」

「龍神を信仰してる人たちにも、そういうカムナギみたいなのがいるってことか」

「そだよ。うちのサトではネサクの父ちゃん、あたしのじいちゃんにあたる人がそうなんだけど、なんか自分自身ももう龍になりかけなんだって」

「なんだそりゃ」

「ひとつの神様だけを信じて祀ってると、そんな風になるらしいよ。ねえ、ワカサヒコ?」

 ふたりの神は、このサトにきたときから、ずっとサギリにくっついてフワフワしている。あいかわらずの美少年ぶりだけど、ジヌミの顔を見ちゃった後だと、なんか普通。お花畑に飛ばないし。……神様よりきれいな顔って、どーなのよ。

「そうですね。神と一体化することが、彼らの最終目標だったりしますから」

 うへー、なんか気持ち悪い。んじゃ、あのマッチョマンも龍になったりすんのか?

 やだな。マッチョな龍。

「あの男は、まだそんな段階じゃないでしょう」

「まだ若えしな」

「でも、龍神をあやつったりはできるってことか?」

「ある程度はできるでしょう。そうでなければ龍神のお使いとは呼ばれません」

 んじゃ最悪、龍神様とのバトルもありか。ボスキャラ? レベルが足りませーん。

「そのお使いさんを倒したら、龍神も消えるとかってことは……」

「ない」

 そうですか。人間対人間だったら、ジヌミがいるからもしやって思ったんですけどね。

「龍神は、それを信仰する人々の想いの総体ってことですからね。また別のお使いが現れるだけのことです」

「んじゃ、龍神自体を倒すことはできるのか?」

「倒すっていいますか、サギリが言ってたみたいに、一種の浄化みたいに、無力化することはできるんじゃないでしょうか」

 最後はサギリ頼みか。俺の浄化の力じゃたいしたことないしな。

「あたし、今まで寝てたんだし、そんときがきたらがんばるよ。なんとかなるって。まっかしといて!」

 その楽観主義、少し俺に……(以下同)


 さて、じゃあ行ってきますよ。サギリ、もしものときはよろしくな、と言って立ちあがると、ワカサヒコが声をかけてきた。

「スサノオ、戦うときは、この間の山の中でのこと、思い出してみてください」

 え? と聞き返したときはもう、ワカサヒコの姿は見えなくなっていた。

 なんだよー。もっとちゃんと教えてくれよー。山の中ってことは、あの、自己記録最大の白い光が発射できたときのことだよな。あれはまぐれだって言ってんじゃんよ。自分でもどうやってやったかわかんないんだから、思い出せって言われてもー。

 サギリが戦ってるのを見てて、こっちもチリチリしてきちゃったことかな。今度もサギリが戦うのを見て、それに合わせてやればまたあれができるってこと? うーん、そんなうまく行くんかなー。

 考えてもわからないことは、考えないっ! 俺は今、口八丁担当だし。

 んじゃ。高木スサノオ、いきまーす。


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