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第十章・ヤマタノオロチ大作戦 -3

 日が傾く前に腹ごしらえをして待ちかまえていると、ホントにてんでばらばらな感じでオロチの民がやってきた。三~四人ずつ八つのグループにわかれている。

 それぞれのグループを鉢合わせしないようにアシナヅチに誘導してもらって、八つの部屋に入れた。「なんだよ、いつもの外の広場で待たせろよ」「いえいえ、今回は特別ですので、お部屋を用意させていただきました。みなさんおそろいになるまで、ぜひこちらでお酒でも……」とかなんとか、アシナヅチも結構役者さんだ。よしよし。

 オロチの民なんていう恐ろしげな呼び名がついてるから、どんな怖い人たちだろうかと思ってたら、なんだか小柄なちょこまかしたおっさんばっかしだ。もろ山の猟師さんて感じ。鍛冶の人って、もっとたくましいマッチョな人たちが多いのかと思ってたよ。最後に到着したグループにひとりだけ、そんなイメージどおりの兄さんがいたけど、他はチビガリのおっさんばっかしだ。

 食糧事情がよくねえんじゃねえの? やっぱトリカミノサトとうまいこと共存していかないと、オロチの民のみなさんもそのうち苦しいことになると思うんですけどね。そのへんで説得なんてできるもんなんでしょうかね。俺の話なんて聞いていただけるんでしょうか。まあ最終的には無理にでも聞いていただきますけど。

 

 オロチのおっさんたちを案内した部屋には、ジヌミが待ちかまえていて、「娘のクシナダでございます。ささ、まずはお酒をどうぞ~」なんつって酒を飲ませている。おっさんたちはジヌミの顔を見て、全員即座に魂抜けちゃってるから、どんどこ飲ませて酔いつぶすまで、それぞれ三十分もかからない。

 こいつらはホントに酒に弱いみたいで、数杯で真っ赤になって、頭をグラグラさせてる。たまに「気持ち悪い」と言って飲まなくなるやつがいたけど、そんなやつは他の人の目を盗んで、ジヌミが当て身を食らわせて気絶させる。「あらあら、寝てしまわれたわ~」なんつって。

 お見事。味方でよかったよ、ジヌミくん。

 おっさんたちがつぶれると、俺が行ってぐいぐい縛る。ジヌミは次の部屋に行って「ささ、まずは……」とやる。で、つぶれると俺が行って……以下同。

 全員を縛って転がすのに、五時間くらい。ふぃ~。結構重労働ですよ。ひとりだけ、最後のグループのマッチョマンが、縛ろうと手をかけた途端、「なにすんだ、ごるぁっっ」と起きあがって暴れ出したけど、ジヌミがさくっと剣の柄で殴って気絶させた。いつ抜いたのかわからなかったよ。強ええね。

 ここまでは、ヤマタノオロチ作戦大成功。

 さて、問題はこっからだ。


 最初におっさんたちを縛った部屋に、アシナヅチと一緒に向かう。アシナヅチにはオロチの民とのやりとりを聞いていてもらわないといけない。当事者同士が「譲る」とか「返す」とか、言葉で交わすことが大事なんでしょ? 神様との約束で。

 ジヌミは最後のもうひと押しをしてもらうために、部屋の外に待機しててもらう。お姫さまの格好で。

 えーと……。

 俺は勇者スサノオ、トリカミノサトを救いにきた救世主。キングギドラの親玉だって倒せる強いヤツ。クシナダヒメを嫁にして、いついつまでもこのイズモノクニに君臨する闇の王。天界タカマガハラだってめちゃめちゃにしてやった暴れん坊。おまえら、俺の言うこと聞かないと全員ぶっ殺してバラバラに切り刻んで、ヒノカワ、血で真っ赤に染めてやる。無事にこのままここで鍛冶の仕事したかったら、おとなしく条件飲んで山に帰んな。わかったか────っっ!!

 自己暗示、自己暗示。

 部屋に入る前に、ぱーんと両手で自分のほっぺたを叩いて気合を入れる。

 よっしゃー!


「なんだおまえっ。この縄ほどきやがるぇ。こんなことしてただですむと思ってんのか、ごるぁぁぁぁ!!」

 戸口を開けた途端、罵声が響いた。おっといかんいかん。猿ぐつわも必要でしたね。アシナヅチとふたりでみんなに猿ぐつわを噛ませてまわる。手ぬぐいがないから縄で。ちょっと痛いけどごめんね~。

 数時間たって、すっかり酔いも醒めたオロチのみなさんは、だいたいの状況がわかったらしく、血走った目で俺をにらみながら、うーうー言ってる。

 怖くないもーん。俺は勇者スサノオ。

 とっくに日は暮れて、部屋の中は小さな灯りがひとつだけだから、いい具合に不気味な感じ。

 部屋には、縄でぐるぐる巻きにした芋虫が三匹転がっている。最初に怒鳴り声をあげた芋虫に近づいて、顎に手をかけ、こっちを向かせる。多少無理な体勢になるけど、ちょっとの我慢ですよ。

「おまえが、ここのムラオサか?」

 他のやつらに比べて、少し年嵩みたいだしね。うんうんとうなずいたのを見て、ぱっと手を離してやった。がつんっと顎が床に当たる。痛そー。

 うふふ……。俺の中のSが目覚めそうですよ。どうしよう。

「おまえたちが、このトリカミノサトの山を取っちまったもんで、このサトの人たちはとっても困ってるんだ。今まで取った山、返してやってくんないか? もちろん、無条件でとは言わない。おまえらがひとつだけの山と鍛冶場を使って、決められた分量の金属製品を作るっていうなら、その作ったものは、このトリカミノサトを通じてふもとのサトに売ってやろう。おまえたちもこのトリカミで、作ったものを売ることができなくなって、苦労してるんじゃないのか? 悪い条件じゃないだろ? どうだ?」

 えらそうな口調で言ってみたけど、芋虫は首をふるふると横に振っている。

 うんうん、そう簡単には落ちないよねー。


 俺は尻ポケットから、ミトちゃんのお父さんの懐中電灯を取り出した。カチッと灯りを点ける。ほとんど闇だった部屋の中に、レーザー光線かってくらいの光が飛び出した。おっさんたちの目も、落っこちるんじゃないかってくらい飛び出した。部屋の隅でアシナヅチもびっくりして、あわあわしている。ああ、ちゃんと教えておけばよかった。大丈夫なんですよー。

 ムラオサだといったやつの髪の毛をつかんで顔をあげさせ、その目に至近距離から懐中電灯の光を浴びせてやった。

 これはまぶしい。相当まぶしい。細い光だけどその分光量がすごいから、目に当てられたら瞼を閉じてもその皮膚を通してまぶしい。しかも多少の熱も感じるはずだから、懐中電灯というものを知らないこの世界の人にしてみれば、すぐにでも目が潰れると思うかもしれない。思ってください。

 実際、懐中電灯の光を近くで見つめちゃいけないんですよ。目が悪くなりますからね。よい子は真似しないように。悪い子も真似しないように。


「ちょっと、あんまり手荒なことはしたくないんだけど、言うこと聞いてくれないと、目が潰れるよ」

 うー、うー、と首を振りながら逃れようとするのを、腕に抱え込んで固定する。

 これって拷問? いや、そんなつもりはないんですけど、でもそうだよな。早く言うこと聞いてくんないかな。

「ここのトリカミの人たちも、おまえたちが決まりごとを守ってくれたら、サトの食料をわけたりして、一緒に暮らしていくために協力してもいいって言ってんだよ。山の中の暮らしはつらいんじゃないのか? んー?」

 ここは取調室か。俺はデカ長か。カツ丼取ってやらねば。

 縛られても、どたばた暴れていたおっさんの動きが弱くなってきた。よし、あとひと押し! たぶん。

「これからの時代、違う部族同士でも共存共栄が大事だろ。他のムラオサたちはみんな、『わかった、山は返す』って言ったんだよ。残ってんのはおまえんとこだけなんだ」

 光を当てられていることも忘れて、おっさんの目が大きく開かれた。俺の顔を見あげて、小刻みにうなずく。光のせいか恐怖のせいか、涙がだらだら流れている。

 よしよし。

「口をほどいてやるけど、また大声出したら今度こそ容赦しないからな」

 容赦しないと俺、どうするんでしょうか。決めてません。お願い、大声出さないでください。

 アシナヅチに懐中電灯を持っていてもらって、猿ぐつわをはずしてやる。

 猿ぐつわをはずしても、おっさんはわめかなかった。よかった。心からよかった。


「目は、やめてくれ。目を潰されたら俺らは仕事ができない。生きていけなくなる」

 あら、そうなんだ。知らなかったけど、鍛冶の人に目の攻撃は有効だったのね。ラッキー。

「山を返したら、本当に食い物や暮らしの面倒を見てくれるのか?」

 いや、面倒を見るとは言ってませんよ。ずうずうしいなあ。でも、やっぱりその辺が交渉ポイントだったのね。山の暮らしは厳しいからね。

「それは、おまえたち次第だ。きちんと約束を守れば、悪いようにはしないだろう」

 えらそうに言ってみる。でも言質を取られるようなことは言わないように注意。俺って結構、交渉上手?

「わかった。他のムラオサも承知したというならしょうがない。山は返す」

 よっしゃ。言わせた。俺の横でアシナヅチが、大きくうなずいている。

「承知した。山は返してもらう」

 これで契約成立? 山の神様たち、聞いてますかー?


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