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第十章・ヤマタノオロチ大作戦 -1

 あーでもないこーでもないと考えてるうちに、時間がたったらしかった。

 「ジヌミが出てくるってよー」というサギリの声に呼ばれて、屋敷の裏手にある岩屋に向かう。岩屋っていうから、洞窟の入り口に石の扉とかがついてるのかと思ったら、岩壁の一部がでかいくぼみになっていて、その中にこぢんまりした小屋が建っているだけだった。小さなお家って感じで住みやすそう。ひとり暮らしに最適。

「ジヌミー。サギリだよー。出といでよー。もういいってよー」

 と、サギリが戸口のところで叫んでいる。

 内側から鍵でもかかってんのか?

 ちょっとして、木戸がギシッと開いてそいつは出てきた。

 …………………。


 こここ、こいつが、こいつが、ジヌミ!? 

 サギリが「ジヌミー」と言って駆け寄ったのを見ると、そうなんだろうな。ジヌミなんだろうよ。そいつも「おお、サギリー」って言ってるし。

 ししし、しかしなっ! 男の子って言ってたよなっ! ジヌミって十四歳の男の子だって……。

 でもですねっ。俺はですねっ。言ってしまうとですねっっ!


 こんな美少女、見たことありませ──ん!!


 すっげーきれい。すっげーかわいい。すっげー美人。国民的美少女コンテスト優勝ミスユニバース間違いなしっ!!

 俺の好みとかそんなのすっとばして、全人類的美しさ。絶対。

 十二単みたいなきれいな色の、裾の長い上着を着て、お姫さまっぽい格好をしているせいもあるだろうけど、そいつはど───見ても、すげー美少女にしか見えなかった。

 白い小さい顔の中に、目鼻口がきれいにおさまってる。そんでもって、それぞれの形がまたきれーなんだよっっ! ひとつひとつ見ても文句つけようのない美しさ。人類の見本として、コロンブスに乗せて打ちあげてくれてよしっ! 全宇宙に知ってもらって、恥ずかしくありません。この美しさはっ!


「スサノオッ! スサノオったら! おーい、魂戻ってこーい」

 なんだか遠くの方で、サギリの声がするー。うるさいなー。俺はこの、人類の芸術品の観賞に忙しいんだよ。邪魔すんなよ。

「おいってば。もー、だいたい初めてのやつはこうなるんだよなー、ジヌミの顔見ると。おまえ、その顔ちょっと隠して歩けよ、迷惑だよ」

「俺は、むしろおまえがどうして平気なのかが、不思議だよ」

「なんでだよ。人の顔見て魂飛んじゃう方が不思議でしょうが。ジヌミの顔はきれいだなーとは思うけど、でも他の人の顔とおんなじじゃん。普通に目鼻口がついててさ」

「そりゃそうなんだけどな。そんなふうに言うのはおまえと母ちゃんくらいなんだよ」

「ふ──ん。それよかスサノオだよ。いーかげんにしろっ!」

 いきなりパアーーンと目の前でかしわ手を打たれて、俺はお花畑から現実に引き戻された。急にジヌミの顔以外のものも目に入るようになった。口の尖ったサギリが、俺の顔を見あげている。

 ああ、ありがとうサギリさん。もう少しでお花畑の向こう側に、行ってしまうところでしたよ。

「ねえねえ、ジヌミ。こいつ、おまえの父ちゃん?」

 おまえ、まだそれ言ってんのか。

「違うって言ってんだろ。だいたい自分の息子の顔見て、気い失いそうになるやつなんているかよ!」

「あ、そうかー」

「なんだよ、サギリ。父ちゃんて。こんな若造が、俺の父ちゃんのはずないじゃんよ」

「だってさ。こいつ、名前がスサノオってんだよ。でもってマレビトなんだってよ。スサノオって名前のマレビトっつったら、ジヌミの父ちゃんじゃん? 他にそんな条件ドンピシャのやついると思う? 絶対こいつはジヌミの父ちゃんだと思ってさ。だから無理やりここまで連れてきたんだよ」

 おまえらー。十四歳(見た目十二歳)のガキンチョのくせに、二人して俺のことを若造だのこいつだのって、ちょーっと調子っこいてませんかー?

「あんた、スサノオっての?」

 う……、絶対的美少女が俺を見あげてる……、じゃなくてー、こいつは男、しかもたぶん俺の腹違いの弟くん。必死に自分に言い聞かせる俺。理性がまたお花畑にすっ飛んでいかないようにね。これ、慣れるのに時間がかかりそうだなー。やだなー。


「なあってば!」

 あら、怒った顔も美しー。じゃなくてー……、ああもうキリがないよ。

「はいはい、あのですね。俺はスサノオって名前なんだけど、キミの父親の名前のスサノオってのは嘘だと思うよ」

「なんだよそれー」

 まあ、急にそんなん言われたら驚きますよね。

「やっぱそうだったか」

 あれ。驚かないの?

「どーも、あの親父、嘘ついてるっぽかったんだよな。俺の名前を覚えておけってうるさくってさー。スサノオスサノオって。普通自分の名前、そんなに子供に言うか?」

 いや、言わないでしょう。なにかの意図がなければ。

「で、なんで俺がそのスサノオって名前かっていうと……」

「あんたの親父と俺の親父が同じやつだから!」

 え?

「だろ?」

「なんで知ってんだよっ!?」

「あ、当たった? そうなんじゃないかなーって思ったんだ。だってあんた、親父に顔似てるし、こんなときにこんなとこまで来るってことは、俺とおんなじように親父の仕掛けにはまったんだろ? なんかさー、この時点でここに来るように、あっちこっちに手掛かりだらけでさー。こんなわっかりやすくていいのか? とか思いながら俺、ここまで来たわけよ。ヤマタノオロチの話は昔親父に聞いて知ってたからさ、ここに来てアシナヅチに話聞いたときは、もうこれは、俺にクシナダヒメになれって、そーゆーことなんだろうなーって。それに、オロチの民のとこにマレビトがいるっていうじゃん? もうそれで決まりって思ってさー。そんときはあんたのこと知らなかったし、俺はスサノオじゃないから、親父がスサノオノミコトってことで、オロチの民を退治するっていう、そういう筋書きなのかなーって。だから無理やり、わしの名前はスサノオじゃ、覚えておれよ~とか言ってたのかなーって」

 はあ……かしこい弟くんで助かったよ。説明する手間が省けました。

「んじゃ、オロチの民退治、協力してくだサイ」

 退治ってか、説得ってか、交渉ってか、まあ最終的になんになるのか、よくわからないんだけどね。

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