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第九章・オロチの民 -2

 あああああ、わかった! わかりました!

 ここではヤマタノオロチってのは、そのオロチの民。んでアシナヅチが、毎年人身御供に差し出したという八人の娘ってのは、その八つの山ってことですね!

 そんでもって、明日の約束ってのは、アシナヅチにその最後の山を譲るって言わせに、オロチのやつらがやってくる日であると、そーゆーことですねっ!

 てことは、クシナダヒメってのは人間のお姫さまじゃなくて、その最後の八番目の山のこと? うーん、微妙にがっかり。

 姫のために戦うってのはちょっと荷が重くてしんどいなーと思ってたんだけど、でも、どんなお姫さまかなーって、ちょっと楽しみにしてたりもしたんだよね。その子のためならがんばれちゃうような、かわいい子だったらいいなーなんてさ。

 十九歳男子の心情をわかってくれよ。


 しかしホントのことがわかってみると、なんとも現実的な話ですなー。もろ部族同士の政治的な力関係の話じゃんか。文化の伝播とか、工業製品の流通とか、経済問題も含んじゃって。そんでもって、行き着くところは過疎高齢化問題?

 あ、もしかして俺の世界のスサノオノミコトの神話も、もともとはこんなことだったのを擬人化したり言い伝えしたりしてるうちに、ヤマタノオロチとかクシナダヒメとかが登場する話になっちゃったってことなんですかね。そうかもな。

 で、その明日の約束ってのが、部族間の最終調印の場だってことはわかったけど、そこにジヌミがなんでからんでくるんだよ。さっき、ジヌミが必要だとかなんとか言ってなかったか? 俺らにいないって嘘までついて、ジヌミを隠そうとしてたし。ヤマタノオロチに差し出すのは人間じゃなくて山なんでしょ? それとも、このサトの窮状を哀れに思ったジヌミくんがなんとかしてやるってんで、単身山に乗り込んだとかそーゆーことですか?

「それでジヌミは、じゃー俺が話つけてきてやるとか言って、山に行っちゃったってこと? あいつ、ヘンに熱いとこあるからなー。やりかねないよなー」

 サギリは、妙に嬉しそうにうんうん言っている。

 はあ、ジヌミくんは熱いやつなんですか。君たちの旅もなんだか大変そうだね。きっとトラブルが絶えないことでしょうなあ。俺は一抜けさせていただきますよ。


「いや、そのそれが、今回に限ってオロチのやつらは妙なことを言ってきまして……」

 アシナヅチは、本当に困っているようだ。眉毛が八の字になりっぱなしだ。

「なんですか? 妙なことって?」

「それが、今回は私どもの娘を差し出すなら山はいらないと、こう言ってきたのです」

 出たー! クシナダヒメちゃんは、ホントにいた──!!

「オロチの民にも女性はいるようですが、数が少ないみたいなので、その、子孫を増やしていくにはひとりでも多くの女性が必要だってことはわかるんですが……ま、表向きは彼らの龍神への捧げものにするということですけど」

 土地の所有権を争うだけじゃなく、土着の部族との婚姻関係でもってその土地に根をおろそうっていう、もうほんとにすっかり政治的な話じゃないですかー。古事記や日本書紀の話ってそんなんばっかしだよな。ああ、日本古代史の講義、もっと真面目に聴いとくんだった。

 あ、じゃあやっぱり、俺はそのクシナダちゃんを助けるために戦わなくちゃいけないのか。あーやだなあ。

 でも山のためよか、いいか? うーん、微妙~。

「で? その娘さんは、今どちらに?」

 ついに絶えきれなくなって聞いてしまいました。だって、自分が助ける子がどんな女の子か、知っておくのとおかないのとじゃ、モチベーションが違うでしょうが!

「それが……」

「私どもには、今、娘はいないのです」

「は?」

 聞けば、アシナヅチとテナヅチの娘、クシナダヒメ(ほんとにクシナダヒメって名前だった!)は、二十数年前に交易でやってきた男にたぶらか……見初められて、一緒に山をおりてしまったのだそうだ。二十年ほど前にって、じゃあ今何歳なんですかっ!?

「生きていれば、三十九歳になるかと……」

 うーーん、三十九歳のお姫さまって、ちょっとモチベーションあがらないかも……じゃなくて、いないもんをどうやって差し出せってんだよ。そのオロチの人たち、二十年以上前の情報をそのまんま更新してないってことですかっ?

「いくらこちらが娘などいないと言っても、いるはずだ、隠しているんだろうと、そればかりで、本当に困ってしまって……」


「そんなときにジヌミちゃんが来てくれたんですよ」

 テナヅチが嬉しそうに言う。ジヌミ「ちゃん」?

「ジヌミちゃんは、ちょうど自分もオロチの民に用事があってきたんだから、その、うちの娘のふりをして入り込めたらちょうどいいと、そう言ってくれて」

「んなこと言ったって、ジヌミは男だろ? ばれたらただじゃすまないだろうがよ」

「うーん、ジヌミだったら女に化けたらしばらくはばれないかも……」

 え? そうなん?

「そうなのよ。ホント、男の子とは思えないわ。きれいでかわいくって……。クシナダも、山をおりていったのはこのくらいのときだったのよね、なんて思い出しちゃって」

 テナヅチさん、うっとり。しんみり。

 んで、きれい? かわいい? 俺のジヌミのイメージ、ちょっと変更しないといけないかも。

「でもそのー、オロチのやつらはその、捧げものだなんだって言ったって、結局のところ娘を自分たちの嫁として欲しいってんですよね? ただ飾っておくわけじゃないですよね? したら、その、すぐにばれるんじゃないですかね?」

 この世界の十四歳の性教育はどのようになってるんでしょうか。わかってますかー、サギリさーん。

「そだよねー、閨に入っていざコトをやろうとしたら男でしたー、とかいったら怒るだろうねえ」

 ……知ってましたか。

「でもま、ジヌミのことだからなんか考えがあんじゃないの? それにやつは強いよ」

 キミのその楽観主義なとこ、ホント、少しでいいのでわけてください。


「ああ、考えといえば」

 アシナヅチがそうそうと手を打つ。考えといえば?

「オロチの民の中にマレビトがいる、と聞いて本格的に行く気になったようでした。そのマレビトに会えれば大丈夫だから、と」

 マレビト──?

 ジヌミが会いたいマレビトってったら、あれだよなあ。

「ジヌミったら、そのマレビトが父ちゃんだと思ったんだー!」

 そのとおり。で、俺もそう思いました今。

 親父、鍛冶集団に混じってなにやってんですか?

「オロチの民がうちに来て、ここに娘がいるということは自分らのところにいるマレビトが言っていることだから絶対だ、とか言っているのをジヌミくんがたまたま聞いていたみたいで。その後、そのマレビトの年格好を聞いてくれと、ジヌミくんに頼まれまして」

「で、聞けたんですかっ!?」

 俺も聞きたい。

「ええ。年は私と同じくらいで、身体は小柄な方、髪の毛がちょっと薄くなっている方、ということでした」

 ビンゴ。

「で、ジヌミはそれ聞いて、じゃあ行くと?」

「はい、ぜひ自分が行きたいと、こう言い出して。危険かもしれないからと、私もテナヅチも最初は止めたんですが、そのマレビトがいるんなら大丈夫だからと言ってきかなくて。そのマレビトは自分の味方だから、と。なので、それじゃあジヌミくんにお願いしてみようかと、こういうことになりまして。私どもにしてみれば、もう最後の望みの綱といいますか。娘を差し出さなければ皆殺しだと脅されてましたので。これ以外に方法はないと思い込んでしまったわけで。それで、先ほどのような、ジヌミくんはいない、という嘘を……」

 アシナヅチさん、もにゃもにゃ言い訳。このおじさん、恰幅のいい見かけによらず、なんだか気弱な人なんですね。だんだんわかってきましたよ。


 だいたい、いい年したおっさんが、十四歳の少年に頼るかね? いっくらジヌミが大丈夫だって言ったってさ。

 それに、ジヌミだって甘いんじゃねーの? 味方って言ったっていうけどねえ。あの親父だよ? ジヌミは無条件で信じちゃってるのかもしんないけど、味方かどうかわかんねえよ? あの親父はよー。

「じゃあ、その年寄りのチビハゲがジヌミの父ちゃんだってこと? スサノオじゃないの?」

 チビハゲ……。自分でそう言うことがあっても、他人の口から言われるとちょっとムカ入っちゃうもんだね。ムカ。

 でもま、そのとおりです。

「だーかーらー、俺はず───っと、違うって、そう言ってるじゃねえかよっ!」

「えー、でもでも名前はスサノオって言ってたよ。スサノオってスサノオだけじゃんっ」

 だから、それは親父の嘘なんだって。わかんねえやつだなあ。

「ねえ、そのマレビトの名前は聞かなかったの? そいつもスサノオっていうんじゃないの?」

 アシナヅチに食ってかかったって、しょうがねえじゃんよ。ったくよー。

「名前はお聞きしてないですね。ただマレビト、としか」

 アシナヅチが、すまなそうにサギリに言う。いやもう、こいつの言うことはほっといてください。


「で、さっき、スサノオ様が来たならもう大丈夫とかなんとか言ってたみたいですけど、それって一体……?」

 もうもう、俺はこれが聞きたくて聞きたくて、今までの長い話を我慢して聞いてたようなもんなんだよっ! なんであっちでもこっちでも、スサノオスサノオって、みんな言ってんだよっ!

「それはですね。もう、六年ほど前になりますか。ここに旅のカムナギ様がいらっしゃって、ちょうどそのとき、オロチの民が四つ目の山を奪いにやってきていたのです。そのころにはもうサトの人間も半分がた山をおりてしまっていて、困っているのだという話をしたところ、そのカムナギ様がなにやらオロチの民と話をしてくださって、なんと、追い払ってくれたのですよ。永遠にというわけにはいかないが、あと一年はやつらは山をおりてはこないよと、そう言ってくださって。結界を張ったから大丈夫、と。本当にその後一年間、オロチの民はやってきませんでした」

 カムナギってのは、バケモノだけじゃなくて、よそ者退治もできるんですかい? オロチの民って人間でしょ? 結界が効くんですか?

「ですから、あなた方がカムナギ様だとわかったときは、また同じように追い払っていただこうと、それをお願いするつもりでした。山姥の錦も持ってらっしゃったことですし」

「なんで、山姥の錦を持ってるといいの?」

「その時のカムナギ様が、山の神の加護を受けていることが大事なのだとおっしゃっていて、その方も似たような錦を持っていたのですよ」

 ああ、それで「カムナギ様ー!」と土下座したのはわかった。で? 「スサノオ様!」の方は?

 ……なんか、だんだん読めてきたような気がするけどな。俺は踊らされている。誰かの手の上で。

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