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第八章・トリカミノサト -4

 サトオサが、なんだか遠慮がちに声をかけてきた。おや~? なんか話ができそうな感じかも?

「そですよ」

 向こうの出方がわからないので、答はこれだけ。サギリが続けてなんか言おうとしたけど、今度こそ足を蹴って黙らせた。

「いってーなー! なにすんだよっ」

「おまえ、ちょっと黙ってろ。このありさま見ろよ。おまえのその口のせいなんだかんなっ!」

 サギリの口がこれ以上ないってくらいに尖ったけれども、さすがにもうしゃべらなかった。そうそう、ちょっとそこでおとなしくしててください。


「それは、もしや山姥の錦ではありませんか?」

 ? 山姥の奥様をご存知ですか? う──ん、ここはやっぱり正直者モードを貫いた方がいいんだろうなあ。てかそれしかできないんですけどね、俺。

 サトオサ、なにが目的なのかいまいちわからないから不気味。

「そうですよ。山姥の奥様にもらったんです」

 正直に、でも、答は最小限に。

「では、あなたはカムナギ様ということですね? 山姥と話ができて、錦をもらうことができるということは……」

 あ、そうきましたか。ゆうべのサギリの話だと、こっちの世界では、神様が見えたりバケモノと戦えたりする人はカムナギって呼ばれてるってことだったよな。俺も、それと同じ体質なんだから、こっちではカムナギっつってもいいんだろうか。てか、いろいろややこしい説明して話が長くなるよか、そっちの方が手っ取り早いか。

 横目でサギリを見ると、口は尖ったままだけど、俺に向かってうんうんとうなずいていた。

「そうです。俺と、このサギリはカムナギなんです」

 俺だけカムナギだと思われると、ボロが出そうだったからね。それにサトオサは「カムナギ様」と言った。「様」付けってことは、そう悪い感情を持ってるわけじゃなさそうだし。

「本当ですか? 本当なら、その証拠を見せていただけるとありがたいんですが……」

 う──ん、疑り深いなあ。この山姥の錦が証拠にはならないってんですかい? まあでも、そうか。ただの人がそこらで拾ったものかもしれないしな。

 しかしなー。カムナギの証拠ったってなー。バケモノ倒すったって、普通の人には見えないし……。


「いいですよ」

 俺がうーんうーんと悩んでいると、サギリがあっさりそう言って、さっきの武装じいさんたちの群れに近づいていった。おいっ! またなんかすんじゃねえだろな!

「おい、サギリ」

「大丈夫だよ」

 振り向いて、にっこり笑う。そんな笑顔はかわいいのにねえ。

「誰か、怪我した人はいませんか?」

 あ、そうか。その手があったか。ホイミ。

 ふたりのじいさんが、それぞれ腕とおでこをおずおずとサギリの前に差し出した。どっちも結構ざっくりと切り傷になっていて、血がだらだらだ。俺の持ってた鉈が、やっぱり当たっちゃったのかもしれない。気を付けてたんですけどね。ごめんなさい。

 サギリは、ぶつぶつトナエゴトを唱えながら傷に手をかざしている。俺にやってくれたときより丁寧な感じ。ベホイミくらいか? まあ、ここでカムナギだって認めてもらわないと、先に進めないみたいだからね。

 がんばれー。

「おおっ! 治った! 痛みが引きました」

「傷がふさがりましたぞ! サトオサ」

 じいさんたちが「おお」「おお」と喜んでいる。

「本当か?」

 サトオサも、サギリに手をかざしてもらい、自分の手の甲の擦り傷が目の前でみるみる消えていくのを見て、「おお!」と驚いている。どーだまいったか。俺にはできないけどね。


「すまなかった! このとおり!!」

 サトオサは、俺とサギリの前にがばっと膝をついて頭をさげた。後ろのじいさんたちも、自分の主人たぶんが土下座してるのを見て、真似をする。

 いやその、そんな。わかればいいんですのよ~。

「今さら遅いっつうの。あたしたちの話、最初からちゃんと聞いてたら、そっちもこっちも怪我なんかすることなかったでしょ? あんたたち、なんだっての? なんか、よそ者に恨みでもあんの? オロチって誰? あたしたちはオロチなんてヘンな名前じゃないからね。そんで、ジヌミはどこにいんの? 今度はちゃんと教えてくれんでしょーね!」

 サ、ギ、リ───……。話をちゃんと聞いてねえのはおまえもだろーが。それに質問は一回につきひとつにしろよー。

「いや、最初からカムナギ様とわかっておれば、こんなことには……」

 カムナギだとか、そうじゃないとかの問題じゃないと思いますけどね。まあ話ができる状態になったようだからいいか。サギリの失礼な物言いにも、今度はヘソ曲げないみたいだし。

「ま、あの、こんなところではなんですので、どうぞ、中へ」

 やれやれ、やっと家の中に入れてもらえるよ……。あでも、その前に。

「そのー。で、ジヌミはこちらにいるんですか? 無事なんですか?」

 ああ、俺もサギリのがうつったかも。質問はひとつずつにしないとね。

「あ、はい。先ほどは失礼しました。ジヌミくんは無事です。無事ですが……その……」

「その、なんだよっ! もったいつけてんじゃねーよっ! 無事だけど死んでますとか言うんじゃないよ。無事なら今すぐ会わせろよっ ここに連れてこいよっ」

 サギリさん、キミは本当に気が短いんですネ。直した方がいいと思うよ、その性格。

「それも含めまして、カムナギ様なら相談に乗っていただきたいことが……。その、ずうずうしいお願いだとは思いますが、できれば、お力をお貸しいただけると、ありがたいのです……」

 サトオサは、先に立って歩きながらもにゃもにゃと言い訳している。お力って、なにをお貸ししたらいいんでしょうかー。面倒なのはいやだなあ。でももう、すっかり面倒なことになってるしなあ、俺。


 武装じいさんたちは、前庭を横切って家の裏手へヨロヨロ消え、俺とサギリとサトオサは、正面の玄関から家の中に入った。

 土間から二段ほどあがるようになっていて、床は黒光りする板張りだ。土間のところで靴を脱ぐ。川を渡って濡れたソックスが廊下にぺたぺた足跡をつけるけど、しょうがない。サギリなんか裸足の足跡をつけて歩いてる。

 家の中は簡素で質素だけど、すみずみまできれいに掃除されていて、外見と同じような好印象。こんなきれいなところに足跡つけちゃって、すんませんね。

 通されたのは、やけに広々した板敷きの部屋だった。真ん中あたりの、薄い畳が敷いてあるところに座るようにすすめられた。壁は二方が外に面しているようで、端蔀っての? 上にぱくんと開く方式の、板の窓がつっかえ棒で開けてある。

 通り過ぎる風が涼やかだわ~。


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