第六章・俺の息子?? -3
「おわっっ! バケモノ!」
俺が声をあげるのと同時に、サギリも気付いたらしい。
振り向きざまに手をかざす。てのひらから白い光が発射されて、こっちに突進してきていたバケモノどもにぶつかった。先頭の二、三のやつらはパァァ──ンと消えてくれたけど、その後ろからは、まだ向かってくるやつらがいる。
俺、こんなに大量のバケモノさんたち見たの初めてだよ。今までは多くて三つ。それだって大変だったのに、どーすんだよ、これ───っ!
「スサノオは、そっちに隠れてなっ!」
サギリが、俺をかたわらの大木の陰に押しやる。
そのすきにも、バケモノの団体さんはこっちに迫ってきている。うひ──。
またサギリは、トナエゴトなしに光を発射する。すぐ近くに迫ってきていた大きめのバケモノが、一瞬で浄化された。
強ええ。
情けないけど、お言葉に甘えて俺は隠れさせていただきますよ。バケモノ退治はサギリさんにお任せしますー。
念のため、結界を張ってみる。
「やえがきっ」
かしわ手。
さっきのサギリの結界に比べるとかなり貧弱な結界が、俺の身のまわりだけに発生した。
サギリは次々と押し寄せてくるバケモノを、「はっ!」「はっ!」と気合のこもったかけ声を発しながらやっつけている。
トナエゴト、いらないんですネ。すげーなあ。「はっ!」だけであれだけの浄化の光を作り出せるなんてさー。しかも次々と。
でもキリがない。ここから見えるだけでも、まだ十くらいのバケモノがいる。
倒しても倒しても、次々と木の陰から現れてくる。
どの木の陰から飛び出してくるかわからないから、気が抜けない。ここから見てても、サギリのうなじのあたりが緊張してるのがわかる。
そうそう、戦ってるときって、あのへんにチチーッと電気が走るみたいになるんだよな。トナエゴトを唱えて終わりに近づいてきたときとか、首筋がチリチリしてそこからなんかが体の中を流れて、てのひらから発射されるって感じがする。あれが気の流れってことなんだろうか。
サギリの様子を見ていて、トナエゴトも唱えてないのに、俺の首筋もなんだかチリチリしてきた。
なにか俺でもお役に立てることはありませんかと、あたりを見まわす。だって、このままじゃ情けなさすぎるでしょ。いくらサギリが強いったって。俺、一応年上なんだし。
サギリの力がいつまでもつのかわからないけど、限界はあるだろうしさ。
俺が隠れている場所からだと、ゆるく右に湾曲している道の先が見通せた。途中から藪が少し浅くなって、普通の山道程度になっている。
そして、その先が明るくなって、いる? 木の列が途切れて、林の出口があるように見える。
ここからなら、ほんの少し、五漕ぎくらい藪を漕げば、あとは走ることができそうだ。あの出口までいけば、明るい広い場所に出られて、少しは戦いやすくなるんじゃないだろうか。
バケモノどもの攻撃の隙をついて、サギリを引きずって、あそこまで行けるだろうか。
サギリと道の、距離と位置関係を目で測る。
……うう──ん。俺、武闘派じゃないからこういうの苦手なんだようう。
いけるかなあ。どうかなあ……。
シナツヒコとワカサヒコはと見れば、サギリのそばについて、ああしろこうしろ言っているようだ。
ここではやつらはサギリの守護だからね。でも、守護ってもやっぱり、コーチ、セコンド、カントクなのね。守っちゃくれない。
そして、俺の手助けも、しちゃくれないだろうなあ……。
右見て左見てをアホみたいに繰り返していたら、サギリの頭の上を越えてきたバケモノが、隠れていた俺を見つけて突進してきた。サギリは前方からやってきたでかいやつに気を取られて、こっちには気付いていない。
うひ──っ。
やられるっ! と思ったけど、貧弱とはいえ、一応張ってある結界にバケモノは弾かれて、俺にさわることはできないようだった。
へっへーん。ざまあ……。
弾かれたバケモノはその勢いのまま、空中一回転をしてサギリに向かっていく。サギリは向こうを向いていて気付かない。シナツヒコとワカサヒコも驚いた顔で振り向いたが、戦う体勢になっていない。
間に合わねえ!
ええいっ! どうなるか知らねえけど、やれるだけやってみましょうじゃないの!
生意気でなんだか気にくわねえやつだけど、ここでサギリがやられたら、気分悪いでしょ。年下だし、女の子だし、バケモノ退治に関しては俺よりずっと強いかもしれないけど、やっぱ俺がやらなくちゃ。セクハラだとか男女差別だとか、言われてもいいよ。そういうふうに思っちゃうんだから、しゃーないじゃんよっ!
全然ダメかもしんないけど、役に立たなくて結局やられちゃうのかもしんないけど、そんでもって、またサギリに助けられて情けないことになるのかもしんないけど、けどけどけど! できるかもしれない俺がここにいるんだから! 浄化の光を発射できるし、したことのある俺がここにいるんだからっっ!!
やってみないであきらめるわけには、いかねえじゃんか───!
俺は木の陰から飛び出すと、両手を前に突き出し、気を集中させた。
トナエゴトも、全部唱えてる暇はない。さっきからの、首筋のチリチリは消えてないから、これを外に出してやるだけだ。……と思う。浄化のトナエゴト省略はやったことないけど。
もう~!! どうにでもなれ────!
「かむなおび おおなおび
さわにさわに
いざっ! いざ────っっ!!」
自分の身体に反動がくるほどの、たぶん今までで最大級のカメハメハー! だ。
パァァァァ────ン!
あたり全体が一瞬真っ白になって、なにも見えなくなった。
………………。
視力が戻ってみると、今見える範囲からはバケモノの姿は、きれいさっぱり消えていた。
え? これ、俺がやったの? 今?
「スサノオっ! 逃げるよ!」
やった本人である俺がボーゼンとしていると、藪をかきわけて最大限の速度で、サギリが俺のそばにやってきた。
「早くっ! またすぐにやつら、湧いてくるよっ!」
「あ、はい」
さっき、隠れていたときにシミュレーションしたとおりに、サギリをなかば抱きかかえて、出口らしき方向に急ぐ。見えない足元を確認している暇がなくて、不用意に石を踏んでぐきっときたけど、そんなことを気にしている暇もない。いてーけど。
いてーよいてーよ。でも急ぐ。
藪がやっと途切れて、でこぼこながらも足元が見えるようになったんで、走る。足がいてーけど、走る。
あたりの木がまばらになって、明るさが増してきた。出口はすぐそこだ。
やった。
「わ。またきた」
俺に引きずられながら、サギリがわめく。
振り向いて攻撃しようとするサギリの手首をつかんで、無理矢理に走らせる。
「なにすんだよっ」
「明るいとこに出てからに、しろっ!」
あと、三歩で出口。
後ろからは、新たなバケモノ。頭皮が、ゾゾゾと粟立つ。
ここで戦い始めたら、またさっきと同じだ。どんなとこかわからないけど、状況を変えねえと。
「バケモノと戦うときは、明るいところのほうがこっちに有利なんだよ。陽の光に溶けるってわけではないが、やはりやつらは闇の眷属ってことだからな」
親父の言葉が、よみがえる。
そうなんだよっ! この薄暗い林の中は、絶対不利。だいたいよく見えねえし。
出口まで、あと一歩。
二本の木の間が、ちょうど人ひとりが通れるくらいに開いていて、その向こうはなんだかやけに明るく、なにがあるのかわからない。
山の中の薄闇に目が慣れてしまっていて、まぶしくてよく見えないんだよ。
えーい、もうなんだかわかんないけど、行ってしまえっ!
とりゃっ!
……………え?
「う、わ──────っっ!!」
勢いよく一歩踏み出した先には、踏むべき地面はなく、俺らふたりは空中に投げ出された。
ズデッとすぐに尻と背中に衝撃がきて、そのままゴロゴロと斜面を転がる。下が草地でよかった。本当によかった。岩だったら死んでるよ。
でも柔らかい草の間にも、小石や灌木がときどき顔を出していて、背中や肘に当たって痛い。
俺はサギリの頭を抱きかかえるようにかばって、転がった。
ゴロゴロゴロゴロ。いていていてててて。
なんか、こんなんばっかりだなー。
違う世界は危険がいっぱい。
しばらくしてやっと転がる速度がゆるくなり、両足をふんばって、ようやく俺らは止まった。
ふい──っ。




