第六章・俺の息子?? -1
はあっ!? 息子? 俺の?
えーと、身に覚えは、といえば……。
リナとは三年前に別れた。別れた後も同じ学校だから顔合わせたりしたけど、子供生んだってのは聞いたことないなー。フツーに女子高生してたしなー。それにリナの性格上、子供なんかができてたら黙って生むはずないもんなー。絶対、「責任取ってよ!?」とか言うだろうし──。
あとは……。高三のときに遊びに行った先で一回だけのお姉さまがいるんだけど、えー? もしかしてその人? でもでもそのお姉さんにも、俺のケータイとかメアドとか全部教えてあんだよ。ノリのいい人だったんで、できたら続けてお付き合いしたいな~なんて思ってたのに、ぜんっぜん連絡ねえでやんの。こっちからかけた番号は嘘番号だったしよ。俺は一晩限りで弄ばれて捨てられた男なんですよ。それが、子供生むかな──? しかも、なんでそれがこっちの世界に? ありえねえよなー。
ありえねーですよ。
「俺に子供なんて、いませんよ」
ああ、そうです。身に覚えっつったらそのおふたりだけです。清いもんでしょ?
………俺の青春どーなってんだよっ!
「なにすっとぼけてんだよっ! ジヌミは、父ちゃんはスサノオって名前でマレビトなんだって言ってたぞ。スサノオなんて名前のマレビトが他にもいんのかよっ! ジヌミは小さいころから母ちゃんとふたりで何年も何年も父ちゃんさがして旅して、ミナカタノミナトに住んでからもずっと毎日毎日、西の山に登って父ちゃんが帰ってくるんじゃないかって、待ってたんだってよ! だいたいさー、もういなくなるならなるで、ちゃんとそう言っていけばジヌミもジヌミの母ちゃんもあきらめがつくってもんなのに、なんも言わないでフラッといなくなって、何年もたってまたフラッと現れてまたいなくなってって、そんなん繰り返してたら、家族はたまらねえじゃんか。ジヌミは待ってるだけじゃやっぱダメだってんで、あたしと一緒に父ちゃんさがしに出てきちゃったんだよ。ミナカタノミナトにはおばさんひとりだってのにさ。その辺、どう考えてんだよ。え? スサノオおじさんっ!」
お、おじさん!?
確かに俺は、きみよりは年上でしょうけどね。二十歳つかまえて「おじさん」はないんじゃないでしょうかね。小学生から見たら二十歳もおじさんなのか? そうなのか?
「おじさんじゃーないデスヨ!」
とりあえず、そこだけ反論してみる。
他の部分は、ちょっと今検討中。なんだかとーっても気になるフレーズがいくつか出てきたような気がするんだけど。なにせすげー早口なもんで、俺の頭がついていきません。
ただ今処理中につき、しばらくお待ちください。
「ジヌミはあたしの従兄弟なんだから、その父ちゃんはおじさんでしょ?」
は? 従兄弟?
「ちょっと待ったー! そのジヌミっての、何歳?」
「なに言ってんだよ。自分の子供のくせに。歳も忘れたっての?」
「いいから、何歳なんだよ!」
「十四歳だよっ! あたしと同じ!」
別におまえの歳は聞いちゃいませんけどね。へえ~、十四歳ですかー。ちょっと発育不良なんじゃないすかねー?(セクハラ発言)
って、十四歳かよっ!
「あのな、俺、二十歳。そいつは、俺が六歳の時の子供かよ。こっちの世界じゃ、六歳でも子供作れんのか?」
「いや、それは無理ですね」
「その辺の人間の仕組み的には、あっちもこっちもおんなじだろ?」
「う──ん、でも顔は似てるような気がしますが……」
「え? ワカサヒコ、そのニセスサノオに会ったことあんの?」
「ええ、もう十五年ほど前ですが」
「十五年前っつったら俺五歳! 幼稚園生! その会ったやつってのは幼児だったのかよ!?」
「ええ、普通に大人でしたねえ。なにせ、その時に、このサギリのおばさんにあたるアキヅと結婚したんですから」
「マレビトの歳なんか、わかるもんかっ。二十歳ったって、ホントかどうかわかんないじゃんか」
えー? そこんとこ信じてくんなかったら、なに言ってももうダメじゃん。
「そうと決まったら、早く行かなきゃ。ジヌミはトリカミノサトに行ってるはずなんだよ。途中ではぐれちゃったんだけど、あいつも絶対そこに行くはずだから。んで、そのサトに行く登り口がここらにあるはずなんだよ。ヒノカワはあっちだから、ここかあっちの山の上なんだけど、もうなんだか入り組んででさー。あんた、知らない? そこのあんたが落っこちてきた道は、どこに通じてんの?」
「ここは行き止まり」
「ほんとに?」
とことん俺を信用しないつもりか? だったら聞くなよっ!
「上には洞窟が一個あるだけだよ。向こうの世界への入り口っての? 俺が出てきたとこ」
「そうなんだ。役に立たないなー」
なにー? なんかムカツク。この子供。
「じゃあやっぱ、さっきのあのけもの道しかないかー。トリカミノサトには人が住んでるはずだから、もっとちゃんとした道があると思うんだけどなー。おっかしいなー。ここまではヒノカワ遡ってきたのに、いきなり両側切り立っちゃって、川沿いに登れなくなってんだもん。やんなっちゃうよ。しゃーないや。さっきのとこまで戻るよ、シナツヒコ、ワカサヒコ。おじさんも、ほら、行くよ」
「あ、あのさー。俺の意見は、聞いちゃもらえませんのですか?」
「聞かない」
あ、そう。わかりやすいお返事ありがとう。
「いいから。ジヌミに会えばわかることでしょ? あんたが嘘ついてるのかホントのこと言ってるのか。あたしは今初めて会ったよくわかんないおじさんよりも、この何日かだけど、一緒に旅したジヌミの言うことの方を信じるね」
はあ、ごもっとも。
「今の、ジヌミが聞いたら、泣いちゃうんじゃねえの?」
「ずーっと、喧嘩ばっかりしていましたのにねえ。……そうなんですかー」
「うるさいよっ! 相対的な問題でしょ。こっちとあっちの、どっちを信じるかって」
シナツヒコとワカサヒコは、ニヤニヤしている。
ふう~~ん。こいつ、サギリは、その俺の息子だっていう、ジヌミってやつと旅してきたけど、ずっと喧嘩ばっかりだったと。ま、こんなひとりで暴走するやつと一緒に旅したくねーよな。
サギリは俺の腕をガッシとつかんで引っ張っていく。こんな十四歳(見た目十二歳)の女の子につかまれたって、振りほどこうと思えばできたけど、俺はそのまま歩き出した。
その、ジヌミってのに会ってみたい気がしてきちゃったんだもの。
ごめんミトちゃん。しばらく帰れそうにないよ。まあ、命はまだあるみたいだから、そのうち帰るよ。……って、連絡方法がないのがつらいなあ。
……あ、携帯。ポケットから携帯電話を取り出して見てみる。
……圏外。
やっぱそうですか。そうですよね。ここで、携帯なんかがつながったら、それこそ安直だ。
さっきのサギリが早口でまくし立てた中に出てきたキーワード、それらの情報処理がようやく俺の頭の中で、終わろうとしていた。……遅くてすいませんねっ。
コタエ……そのジヌミの父親って、俺の親父じゃねーの?
考えれば考えるほど、そうとしか思えない。
現れたり消えたりして家族に心配かけてるとか、俺に顔が似てるとか、十四~五年前にこっちで目撃されてるとか、その後行方不明になって、また数年前にジヌミのとこに現れてるとか、とかとか。
年数的には、親父が行方不明になってた時期とピッタリヒットだ。
ちょくちょく行方不明になってると思ったら、違う世界で現地妻かよっ!
しーかーもー………。なんで自分の息子の名前を騙るかねっ!!
すっげー迷惑! すっげー腹立つ!
おかげさまで俺は、六つしか違わない女の子に「おじさん」呼ばわりだよっ。息子を捨てた父親だって、責められるし。
なにが目的なんですか? オトウサン。
しかしな。謎なのは、ここ数年はこっちの世界でもそいつ、親父らしきやつは行方不明になってるらしいってとこだ。俺の家に帰ってきてたってんなら、話の辻褄は合う。そのジヌミってのが会いたいってんなら、元の世界に戻って家にいる親父の首に縄つけて、こっちに連れてくりゃいいだけのことだ。
でもな。うちでもこの八年間、きっぱりすっかり行方不明なんだよ。親父はよ。
こっちの世界にいるんだろってんで、そいつをさがしに俺は来たんだよ。危険を顧みず。
俺はサギリに引っ張られて、山のすそ野って感じの雑木林の中を歩いていた。頭の上は緑のトンネル。右はびっしりと葉を茂らせた木が生えていて向こうは見通せない。左は上に向かう斜面になっていてそこも林、というか森。右側よりも丈の高い下草が木々の幹を覆っていて、こっちも遠くは見通せない。どっちも緑の壁だ。足の下には、ふかふかの草。
ここは、あれだよなあ。この間「スーサーノーオー」って声に呼ばれて連れてこられた、あの世界そのものだ。やっぱ、ここだったのかー。見あげると、ありえないすっげー青い空が枝の隙間からのぞいていた。
そういえば、聞こえねーな。「スーサーノーオー」。
あの声の主は、俺がこっちに来てるってこと、知ってるんだろうか。もう自分のテリトリーに入ってきたってんで、どっかから見守ってるとか、そんなことってあるのかね? 別になんも感じないけどな。




