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第五章・扉の向こう -4

 へ? てな感じで美少年顔がふたつ、こっちを注目する。

「お前ら、こっちには来れねえとか言っといて、ちゃんと来てんじゃねえかよっ。なに嘘ついてんだよっ。お前らがいれば、バケモノに喰われそうになったりもしなかっただろうがよっ」

 へ? 美少年顔、まだすっとぼけのまま。くっそー。なんか俺のこと、からかってませんか───!?

「あのー、失礼ですが、どちら様でしょうか?」

 ワカサヒコが、今まで聞いたことのないような声で言う。

「あの、な。お前ら、たいがいにせえよ! すっとぼけてんじゃねえよ!」

「だから、誰なんだよ」

 シナツヒコもなんだか目つきが違う。

 ……気味が悪い。

「スサノオだよっ! いい加減にしろよっ!! ついさっきまで向こうで一緒だったじゃねえかよっ」

「向こう?」

「こっち?」

「来れる?」

「来れない?」

 ふたりは顔を見合わせて、俺の言葉を反芻している。なんなんだよ、一体よう。

 なんだかふたりともおかしい。おかしいと言えば、その格好もおかしい。いつもは狩衣っての? いわゆる平安朝のお貴族様とか結婚式の時の神社の神主さんみてーな、おじゃる丸な格好をしてるのに、今は、なんつーの? 髪は耳のところでふたつに結わえて輪っかにした、みずらっての? あんなんなってるし、服は、打合せのない頭からすっぽり被るやつの腰のところを紐で縛って、ズボンもだぶだぶの裾を膝のあたりで縛っている……あ、あれだ! 埴輪! 埴輪の格好だよ。もしくは日本昔話の絵本に出てくる男の神様。

 なんで、そんな格好してんの? もしかして、着る物変えたら俺の目をごまかせるとか思ってる?

 ごまかせませんよっ! お前らのジャニーズ顔は忘れようったって、忘れません。なんせ赤んぼの頃から一緒にいるんだから!


「あ────っ!」

 いきなりワカサヒコが叫んだ。びびびっくりするじゃねえか。

「もしかして、あっちの世界から来た人じゃないですかー?」

 は?

「あー、そかそか。あっちの世界の、俺らのことを知ってるってわけか」

 はあ?

「あのですね。あなたは、ここではない、別の世界から来た人なんですね?」

「そうだよ。お前らが行けっつったんじゃん」

「あのな。俺らは、そっちの世界の俺らとは違うんだよ」

 はい?

「私たちは、実体を持たない存在だということは知ってますね? あなたは見えてるんですから、知ってるはずですよね」

 はい。

「私たちのような、実体を持たないモノは、あっちとこっちを行ったり来たりはできないんです。説明すると長くなるので省略しますが」

 同じこと言ってるよ。

「するってーと、あっちのワカサヒコとこっちのワカサヒコは違うやつだと。そういうこと?」

「はい。ご理解いただけましたか?」

「同じ顔でも?」

「はい」

「同じ名前でも?」

「はい」

「あ、でも同じ名前ってのは初耳だな。あっちの俺もシナツヒコってんだ。へえ~」

 へえ~、って。それは俺のセリフですよ。

 要するに、物理的な身体を持たないやつらは、あっちとこっちを行き来できないかわりに、同じようなのがそれぞれに存在してる、と。あ、逆かな? それぞれに存在しちゃってるから、行き来できないのかもしれない。同じ顔が鉢合わせしたらややこしいから。そうなのか?

「ま、どう考えていだたいてもいいと思いますが、そっちの世界の彼等とわれわれとは別人と、こう理解していただければいいかと思います」

 なんか、他人行儀で調子が狂うね。ワカサヒコさん。いつものように「理解できませんか?」とか、冷たく言われた方がいいかも。いや、よくない。


「ねえねえ、そいつ、なんなの? シナツヒコとワカサヒコのこと知ってんの?」

 コスプレ女子がじれたように会話に割り込んできた。なんか、俺のこと、にらんでませんか?

「ああ、この人はマレビトさんですよ。あっちの世界から来たのだそうです」

「マレビト?」

 俺のこと?

「そ。こっちでは、あっちの世界から来ちゃったやつのことをマレビトって呼んでんの」

「んじゃ、結構そーいうやつがいるってこと? マレビトなんて呼び名があるってことは、今までもあっちからこっちに来たやつがいたってことだろ?」

「おや、バカかと思いましたが、頭使えるんですね」

 きついよ、ワカサヒコ。やっぱ性格も同じなわけですね。

「あんまし、いねえな。俺が知ってるのは、ここ千年の間に四~五人てとこ」

「マレビトは珍重されますからね。あっちの世界から来たことがわかると、それが伝説になったりするものですから、それで呼び名がついてるんです」

 なんで珍重? 俺って珍獣?

「えーとですね。今まで来たマレビトさんたちからの話を総合しますと、どうもこっちの世界よりそっちの世界の方がいろいろな技術が進んでいるようなんです」

 技術? なんの?

「なんでもです。こっちはそっちの世界の二千年前くらいの時代設定だと考えていただけると、わかりやすいかと思います」

 うわー。パラレルワールドものかと思ったらタイムトラベルものだったのかー! それも苦手。タイムパラドックスとか、考えはじめるとキリがないじゃん。

「過去と未来ってことじゃねえよ。あくまでも、こっちとあっちは違う世界なんだよ」

「そう、別になにをやってもパラドックスは発生しません。文明の発達具合の違う国に来たくらいに考えてもらって、大丈夫だと思いますよ」

「そんなわけで、マレビトはさ、こっちにはない技術をいろいろ教えてくれたりする存在だったりするわけよ」

「文字とか、製鉄とか、農業とかですね。マレビトさんが伝えたっていう技術は、結構たくさんありますよ」

 はー、それで伝説になっちゃうわけだ。なるほどー。でも俺はなんも教えてあげられないよ。なんも知らないもんね。


「ちょっと。そのマレビト! もう説明はいい? わかった? そんでさ、あんた、名前なんての? さっき、なんて言ってた? 名前!」

 なんだよ、名前名前って。人の名前を聞くときはまず自分からって、お父さんお母さんから習いませんでしたかー?

「あ、こいつはサギリってんだ。こっちでは、俺らはこいつの守護ってわけ」

「そっちの我々は、あなたの守護なわけですね?」

 うん、そう。なんかややこしいね、そっちとかあっちとかさ。

「あたしの名前なんかどーでもいいよ。あんたの名前だよっ」

 わかった、わかりましたよ。自己紹介すりゃあいいんでしょ。

「高木スサノオ、です……」

「スサノオ、スサノオ、スサノオ!」

 甲高い声でトラウマの元を連呼されて、俺は心臓がばくばくした。

「なんだよ……」

 失礼な、と言おうとした俺の声は、衝撃の言葉に掻き消された。

「あんたっ! 自分の息子ほっぽらかしてなにやってんだよっ。ジヌミがずっとさがしてんの、知らないとは言わせないよっ!」


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