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狂犬の苦悩にキツネは笑いけり  作者: 夏炉冬扇
第4話 肝胆、相照らす者たれ
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不穏

 高等部校舎と中等部校舎を繋ぐ渡り廊下まで来たミコトであったが、そこで思いがけない光景を目の当たりにした。

 渡り廊下の中程で高等部の女子生徒が一人、横座りの状態で身動きひとつせずに呆然としている。彼女の周囲には沢山のプリントが散乱していた。

 そしてよく見れば、その女子生徒はミコトもよく知っている人物であった。


「瑞木!」


 瑞木は前の授業終了直後に学年主任に呼ばれ、教室の入り口で何かを頼まれていたようだったが、丁度、瑞木が今日の日直であったため、どうやら次の授業で使用するプリントのコピーを頼まれていたようだ。

 しかし、高等部校舎にあるコピー機が現在故障中であるため、仕方なく中等部校舎にあるコピー機を使用して、戻って来たところなのだろう。


「瑞木、どうかしたのか?」


 ミコトが瑞木の体を揺すって声をかけると、放心状態だった彼女はようやくミコトの存在に気付いたようで、まるでカラクリ人形のようなぎこちない動きで、こちらに顔を向けた。その表情は明らかに、ひどく怯えていた。


「ミ、ミコトちゃん……」


 凍てつく雪山で遭難した者が、ようやく救助隊に救い出されたかの如く、震える手をミコトに差し出す。


「ど、どうした?」


 ミコトが震える瑞木の手をギュッと握ってやると、瑞木は今にも泣き出しそうな顔で、


「八雲君が……八雲君が……」


 うわごとのように繰り返した。


「八雲を……八雲を見たのか?」


 瑞木はコクリと頷く。そして言葉を詰まらせながらも、ゆっくりと語り出した。


「八雲君が……フラフラってどこかに行こうとしてたから……声をかけて……近付いてみたら……急に吹き飛ばされて……」


 ミコトは目を三角にし、瑞木の肩を力一杯掴む。


「八雲に突き飛ばされたのか?」


 いくら八雲といっても、女の子である瑞木を突き飛ばすなんて許せない。が、すぐにそれが異常である事に気がついた。

 八雲が女の子に手を上げるなど、彼の今までの行動や性格から考えて天地がひっくり返ってもあり得ない事だからだ。

 そして瑞木が語った事で、今の八雲が普通でないという疑念は確信に変わった。


「違う……と思う……。八雲君に近付こうとしたら……何か……見えない力で吹き飛ばされた感じで……」

「見えない力……」


 ミコトは愕然とした。

 そのような力を持っているという事は、明らかに人智を超えたモノによる力……つまり、あやかしの力であることは間違いない。


「変なこと言ってると思うかもしれないけど……でも……」

「わかってる。瑞木は嘘を言うような子じゃない。あたしは信じる」


 そう言うとミコトは瑞木の手を引いて起こしてやった。


「それで、八雲はどっちへ行った?」


 瑞木は中等部校舎の向こうを指差した。


「体育館か……」

「ミコトちゃん……」


 ミコトの手を両手で包み込むようにギュッと握ると、


「八雲君を助けてあげて……」


 今にも泣き入りそうな目で訴えた。

 瑞木も感じ取っているのだろう。事は人智を超えたところにあり、既に自分の手には負えないという事を……。


「うん、あたしに任せておけ。完全無欠のこのあたしに不可能は無い。絶対にあたしが何とかする!」


 凜としてそう告げると、ミコトは再び走り出した。

 


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