1.不死の体になったっぽい
朝起きると不死の体になっていた。
いや、自分でも何を言ってるのかわからないけどなんかそういうことだと自覚している。
「あなたは人間です」とか「二足歩行できます」とか他人から言われても、はあそうですかまあ知ってますけどぐらいだろう。そんな感じで今他人から「あなたは不死の体です」と言われたらまあ私不死ですけど、みたいな反応をするだろう。
『おめでとうございます。あなたは不死の体を手に入れました』
「ええ、まあ不死ですけど」
ほらこんな感じに。
『聞こえていますか。あなたは不死の体を手に入れました』
「くっ! こいつ頭に直接語り掛けてくる」
音は聞こえてないのに頭の中に響く声。
絶対これ不死の体になったのと関係あるやつだ。ていうかもう本人から言ってるし。
となるとこれはラノベっぽいあれか。この後はこの声の主である美少女が空から降ってくるとか、異世界に飛ばされて不死の体でフィーバーするとか。
『おそらく私は下界でいう美少女に該当するかと思われますがそちらの世界に行くことはありません』
こいつ、事務的な口調でさらっと自分のこと美少女とか言いやがった。ていうか声だけで済ますとか描写完全に省けるから楽よね。あとは聞く側の妄想にお任せする感じで。ただしラノベ化&メディアミックスは期待薄。
でもそうなると僕が不死になったの全く意味なくない? ちょっと異世界飛ばされたりするのは期待してたんだけど。
そりゃ別に引きこもりとかじゃないし、今年から高校に入学して人生に期待に満ち満ち溢れてるんけど、漫画とかラノベを読んでる少年としては厨二病じゃなくても特殊能力に目覚めて異世界で無双したり、なんか奇跡的なボーイミーツガールだったり期待しちゃうよ。
『そういったことは一切ありませんのでご安心ください』
いや、むしろあってほしんだよ。
『そのようなサポートはこちらでは対応しておりません』
ていうか思考読み取って会話するのやめてくんない?
『恐れ入りますが下界との通信は思考と発声の区別がつきにくいため文脈で判断しております。ご了承ください』
さいですか。
というかこれからどっか連れていかれるとか変な事件に巻き込まれたりするわけじゃないんならそろそろ学校行く準備していい?
『ではこちらは続けさせていただきますね。お耳だけこちらに向けていただければ問題ありません』
はいはい、なんかこの会話の仕方も慣れてきたしそろそろベッドから出るとしますよ。
いいながら布団の中から足を引き抜き、床に下す。そして壁に掛けてある制服に向かって一歩を踏み出すところでその左足小指は見事にテーブルの脚に吸い込まれていった。
「痛っっつ!!」
『ぶふっ! ドンくさ!!』
ん?
『ご、ご覧ください。今ぶつけた小指も一瞬で治ります……ククっ』
いやいや小指ぶつけたくらいで傷できることないし。ていうか今絶対笑ってたよね。
とか冷静に言っているが僕は床にうずくまって左足の小指を抑えている。
『失礼しました。少し思考が漏れてしまいました』
「思考読み取れるのそっちだけじゃないんだ!?」
痛みが引いてきたので気を取り直して制服に着替える。
『ちなみに言っておくとあなたの思考はすべてこちらで読み取れますが、こちらからのものは基本的に遮断しておりますので』
ああ、油断すると本音出ちゃう系のやつね。
『さらに加えるとこちらからは動画で全てモニターさせていただいております』
て、今パン一なんですけど。アナウンスするのちょっと遅すぎないですかね。
『ご安心ください。あなたの裸をみたところで興奮するようなことはありません。ご自由にしていただいて結構です』
なんか見られてるってだけでちょっと落ち着かないし。むしろ最初から見えてるなんて言わないくれた方がよかった。
あ、でも美少女が自分の裸をずっと見てくれてるって思うとちょっとゾクゾクするような……
『モニターをオフにします』
オフにできるんかい。そういうのって着替えの時点で始めからオフにしとくもんじゃないの?
しかし高校生男子の妄想力をなめてはいけない。
モニターをオフにしたとか言いながら実はこっそり監視してる美少女を妄想するとドキドキす……
『キモちわる……』
すみません。そこまで心底軽蔑されたような声だとヘコむ。
ていうか今のちょっと素が出てたような。
しかしこうやってちょっとファンタジーな感じで会話してるから気づかないけど、よくよく考えたらこれってストーカーみたいよね。心の声読まれてたりずっと監視されてたり。
ていうかそもそも声の主が何者かも聞いてないし。
『失礼致しました。私天使です』
同時に携帯の着信音が鳴りメッセージが届く。
添付ファイルを開くと『天界 人類管理部 人類監視課 天使』と書かれた電子名刺が開かれた。
いや、まあ薄々わかってことだけども。
ところで天使って名前なの?
『いえ、下界の者に神聖な名前を公開するのは禁止されておりますので』
さりげなく侮辱の言葉入れてくるのやめてほしい。
じゃあ天子でいいや。
『てん……こ?』
天使って呼ぶのもなんか変な感じだし。初対面の人にホモ・サピエンスって呼ぶようなもんでしょ。
少しでも親近感がわくように天子で。不満?
『いえ、ご自由にお呼びください』
ところでどうして僕が不死の体に?
『はい、簡単に申し上げますと神の思し召しといえばよろしいでしょうか』
具体的には?
『まず地球儀を回し、ランダムに天使の矢を射ます。そして……』
ああ、なんとなくわかった。簡単に言うと適当と偶然による選考か。
『神の意志によるものです』
そこ譲らないんだ。
『一応年齢と性格に問題がないことは確認しております。最初に選ばれたのは125歳のトメ様でしたが年齢的に不適とされました』
無敵のばぁさんもすごく面白いと思うけど。ていうか125歳のトメさんって一回会ってみたいな、沖縄の人とかだろうか。
『カリフォルニア在住の老婆です。趣味はサーフィンで数年前は小さな大会ですが優勝されたことも』
すげぇなトメさん。そこまで人生エンジョイしてたらもういつ死んでも悔いないだろうよ!
『次に選出されたのがジェームズという……』
あー、いいやどうせまたとんでもない経歴出てきそうだし。
『最終的には精神的に一番多感な中学から高校生男子ということになりました』
まあ年齢的にはその辺が妥当か。
40歳のサラリーマンとかに無敵の体あげてもつまんなさそうだし。まさか生まれたての赤ちゃんというのも不安要素だらけだ。それに意思疎通ができない。
『目的としましてはごく一般的な人間に不死の力を与えるとどうなるか。という社会実験のようなものです。ちなみに不死であって不老ではないため老衰はありますのでそれまで監視させてもらいます』
ちょっと待って。事故死とかないから80歳まで生きるとしてもこれから60年ちょっとずっと生活監視されるの?
逃れる方法とかはないの?
『対象として不適とされれば不死の能力とともに監視は解除されます』
その不適とされる基準は?
『上が決めることですので私からは何とも……』
その辺事務的!
『補足しますと不死が解除されますとそれまで負った傷は全て体に戻りますので。解除されるまでに完治するような擦り傷サイズのものなら問題ないのですが、死に直結する怪我を負われていた場合はその時の痛みと共に死ぬこともありますのでご注意下さい』
ちょっとすごい恐ろしいこと言われてるんですけど。
つまり普通の生活を送りたいならできる限り怪我を回避した上で実験対象としての無価値性を示さなきゃだめってことか。
『こちらとしましては能力を最大限活用していただいた方がおもしろ……、有用な実験結果が得られてうれしいのですが』
ちょいちょい本音漏らすようになってきたけど大丈夫かなこの天使。
っと、ちょっとモニターをオフにしといてくれ。
『と、申しますと?』
天子は僕のトイレまで監視する気かい。
『お気になさらず。現在今角度からだと見えませんので』
見えないならそこまで監視する必要もないと思うけど。
ちなみに言っておくと僕が今催しているのは大だ。
『モニター、集臭機能ともにオフにします』
臭いまで採ってたのかよ。