俺のストーキングしている相手が俺のストーカーであることを俺は知らない
朝、俺は田中と駄弁りながら教室に入った。
知ってる顔がいない。
「なあ、クラス間違えてね?」
「え、そうか?」
田中は不思議そうな顔で首を傾げた。
いや絶対間違えてるだろ、窓から見える景色も違うし。
みんな不思議そうに見てくる。
田中は教室の中央までいき、腕を組んで仁王立ちしている。
教室中の視線が集まる。
いやなにこの状況……。
「ああ視線が気持ちいい……」
そういえばこいつ変態だった!
「おい田中……」
「「「なに?」」」
「田中どんだけいんだよ!」
「いや、このクラス全員田中だぞ」
「この学校なに考えてんだアホか!」
そりゃ田中ってよく聞く名前だけど、一クラスに田中凝縮するなし!
てかこの田中はなんなの!お前余りものじゃん!
「とりあえずこの教室出るぞ田中」
「「「分かった」」」
「お前ら馬鹿か!廊下の人口密度おかしいだろ!め、めんどくせー!行くぞ田中!」
俺は教室の中央で仁王立ちしている田中を引きずって教室を出る。
田中に訊きたいことがあるのだ。
田中を引き摺って田中達から離れ、質問する。
「なあ田中、姫川さんの好みを知るには、どうしたらいいと思う?」
「そりゃあ、ストーキングしかないだろ」
この瞬間、俺の肩書にストーカーが追加されることが決定した。
★☆★☆
次の日、帰りのホームルームが終わり、姫川さんが教室を出ていったのを見届けた俺は、さりげなく教室を出る。
「ここからは桜緋様のプライバシーを守るため、監視を禁止します」
なにやら他の女子と話しているのを、影からさりげなく見る。
話し終わったらしい姫川さんは、モデルのような歩き方で廊下を歩いていく。
姫川さんに男子の視線が集まっているので、その後をつける俺の存在には気付かないだろう。
「きゃー!桜緋くーん!こっち向いてー!むぐっ」
「排除します」
「桜緋君!スマイル一つくださむぐっ」
「排除します」
なんか名前を呼ばれた気がするので振り向いたが、引きずられていく女子がいるだけで、俺を呼んだらしい人はいなかった。不気味だ。
さりげなく姫川さんを追って校門を出たところで、俺は物影に隠れて、金髪のかつらとサングラスを装着した。
これで俺とはばれないだろう。
俺は素早く戻り、さりげなく姫川さんの後を追う。
なぜか姫川さんは俺のいつもの帰り道と同じルートを歩いている。
もしかして、家近いのかな。
しばらくして、俺がいつも帰りにコーラを買っている自動販売機が見えてきた。
と、そこで姫川さんの動きが素早くなる。
姫川さんはその近くの建物の影に隠れ、そこから顔だけ出して自動販売機を見ている。
俺はその後ろの木の影から少し顔を出して姫川さんを見る。
姫川さんは何をしているのだろう。
全く分からない。
姫川さんは、謎の多い女だ。
「……おかしい。来ないわね」
姫川さんが建物の影から出てまた歩き出す。
少し距離をおき、俺も後をつける。
「きゃー!あんなところに金髪のイケメンがいるわ!」
「俳優さんかしら!」
「サインください!」
なぜか人が集まってきた。
くそっ、煩わしい。
やはり金髪だと逆に目立つか。
俺はぱっと人目のないところにいき、かつらをとった。
そしてマスクをし、フードつきのパーカーを羽織り、フードをする。
最初からこうしとけば良かった。
俺は再び姫川さんの後をつける。
「あ、怪しい人がいるわ……」
「しっ、見ちゃダメ!」
今度は目立つことなく、人が集まってくることはなかった。
しばらく歩き、姫川さんは俺のよく帰りによるカードショップに入った。
姫川さんもカードゲームするんだ。
やはりストーキングして正解だったな。
俺もカードショップに入る。暖房が効いていて暑いので、フードとマスクをとる。ついでにサングラスも。姫川さんに見つかったら、あら偶然ということで、そこから話をもっていけばいいだけだ。
「まじか!そのカードめっちゃレアじゃん!」
「俺もそれほしー」
子供達がたくさんいる。
ここらへんはウァンカートのコーナーだ。
友達の間で最近流行っているカードゲーム、遊戯帝のコーナーは少し遠い。
まさか姫川さんも遊戯帝やってるのかな。
俺の期待通り、姫川さんは遊戯帝のコーナーへ向かった。
よっしゃ!共通の話題ゲット!
ふと視線を移すと、棚に俺が欲しがったカードがあった。
思わず魅入ってしまう。
……はっ!しまった!姫川さんを見失った!
どこだ!どこにいった!
あそこか?
「こ、こっち来たっ」
端っこの棚の裏を見たが、いない。
じゃああそこか?
「きゃっ、またこっち来たっ」
くそっ、いない。
「お客様、店内は撮影禁止でございます」
後ろから店員さんの声が聞こえてきた。
だが俺が探しているのは店員ではなく姫川さんだ。
そうだ。人に訊いてみよう。
「ねえそこの坊主。茶髪で綺麗なお姉さん見なかった?」
「いたよー」
「まじか!どこに!?」
「えっとねー、あっちの方で、カメラかまえながらとっても変態な顔をしてたー」
「ごめん、人違いだ。ありがとう」
姫川さんはそんな人ではない。
いつもにこやかな女神のような人なのだ。
「お客様!店内でのハンカチのくんかくんかは禁止でございます!」
また店員の声が聞こえてきたが、俺が探しているのは店員ではない。
はあ、緊張して汗かいてきた。
ハンカチで拭こう。
……あれ?俺のハンカチがない。
今日、持ってきてなかったっけ。
「お客様!店内での投げキッスは禁止でございます!」
また店員の声だ。
迷惑な客がいるものだな。
「ねえそこの小学生、茶髪の綺麗なお姉さん見なかった?」
「うん見た」
「どこ!?」
「あっちでくねくねしながら投げキッスしてた」
誰だその変態は。
俺はそんな人の情報が欲しいのではない。
姫川さんの情報が欲しいのだ。
「それよりお兄さん、彼女いる?」
「え、彼女?」
なんだ唐突に。
「いない、けど」
「じゃあ、わたし、立候補していい?」
さ、最近の小学生って、ませてるなー。
「わたし、お兄さんに一目惚れしたの」
「あ、あのね、そういうことは気軽に言っちゃいけないんだよ」
この子が将来とんでもビッチにならないように、今正してあげなければ。
「ううん。わたし、本気だよ」
これはあれか?「私、お父さんと結婚するー」の亜種か?
「じゃあ、君が大きくなったら、いいよ」
先延ばしで相手を傷つけることなく断る。
出会ったばかりのお兄さんに、唐突に「私、お父さんと結婚するー」病が発動しただけだ。すぐに忘れるだろう。
「分かった。待っててね、お兄さん……て、うわぁ!」
「どうした?」
「あそこに、阿修羅がいる!」
「阿修羅?」
「茶色い髪の毛がうねうね動いてる怖いよー!」
「大丈夫大丈夫、幻覚だから」
俺は幻覚に怯える小学生を抱いてなだめる。
この年で幻覚とは、まずいなー。
「私、お父さんと結婚するー」病がそこまで深刻だったとは。
「もっと怖くなった!目が!目がマグマ!」
「ほーら、大丈夫大丈夫。それより、茶髪で優しそうな綺麗なお姉さんは見なかった?」
「そんな人いない!それより助けてお兄さん!」
はあ、仕方がない。
小学生の幻覚につき合ってあげるか。
「な、なんだってー。阿修羅だってー。こんなときはねー、師匠を呼べば万事解決だよー」
「ししょー?」
「そうだよー。だから安心しなさい。本当に危なくなったら、師匠って呼べばいいんだ」
「分かった!ありがとうお兄さん!」
「あはは、どういたしまして」
俺はよしよしと小学生の頭をなで、カードショップを出る。
これだけ探してもいないんだから、姫川さん、もう帰っちゃったんだよな。
「はあ、帰るか」
カシャッカシャッ
「お客様!店内での一眼レフは禁止でございます!」