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ここはどこで俺は誰かなんて俺は知らない(後編)

 




 あたしの名前は藤那 璃花。

 スクールカースト最上位のギャルグループのリーダーにして、桜緋様ファンクラブのNo.9。

 つい先程我々の情報網に、現在桜緋様が記憶喪失であるという衝撃の情報が入ってきたところだ。つまり、なにも分からない桜緋様が悪い女に騙されてしまうかもしれないということ。なんとしても我々がお守りしなければいけない。

 しかし、恐れていた情報が入ってきた。水城 時雨という痴れ者が桜緋様を騙し、恋人のように振る舞っていると。

 由々しき事態だ。

 ふつふつと怒りがこみ上げてくる。


 この学校は我々の縄張り。

 好き勝手にはさせない。


「私が対象をポイントαまで誘導する」


 とNo.8は告げていた。

 彼女は茶髪ボブカットの可愛らしい容姿や明るい性格に類まれな洞察力で、多くの人の相談に乗ったりと信頼を積み重ね、クラスの人気者として不動の地位を築いている。

 とても有能な人物なのできちんと対象を指定の位置まで誘導してくれることだろう。

 私は指定のポイントで待つ。

 薄暗い廊下だ。


 ブー、ブー


 スマホが震えた。

 No.8からメッセージだ。もうすぐつくらしい。

 程なくして対象が現れた。その手には手紙らしき紙が握られている。


「こんなところで告白って、私には維月がいるのに……傷つけないように断らないと」


 対象はのこのこ指定の場所へやってきた。

 あたしは白い仮面をつけ、行動を開始する。


「あら、来たのね、水城さん」


 そう言って柱の陰から姿を現す。


「……誰」


 対象はあたしを警戒して睨み付けた。


「その手紙は嘘よ」


「……そう。なら良かったわ、どっちにしろふってたし」


 対象は好戦的に笑ってきたが、その頬は強張っている。


「………」


 足音をたてず、対象の後ろから白い仮面をつけたNo.8が現れる。

 我々が組織だと気付かれる恐れがあるのでできるだけあたし一人がいいが、上からの命令だろう。

 その姿が残像となり、対象の背後に高速で移動したNo.8が足払いをかけ対象を前に転倒させ、その上に乗る。


「きゃっ……いっつ……誰!」


 対象は暴れるが、No.8はびくともしない。

 No.8は素早く対象に目隠しをつけた。

 対象の顔が恐怖で歪む。


「な、なんなのよ!」


「ふふ」


 愉快だ、もっと怯えるがいい。

 あたしは対象を見下ろしながら口を開く。


「あんた、どうしてまだ誰かも分からない相手の告白をふる前提だったの?」


「……好きな人が、いるから」


「相手がその好きな人かもしれないとは思わなかったの?」


「…………その人は私と付き合ってるから」


「そう、恋人がいるから、ということね」


「……ええ、そうよ」


 よくもまあ悪びれずに言えるものだ。


「嘘ね」


「なっ………なにを根拠に」


「あなたの言う恋人、当ててあげようか?」


「当てれるものなら当ててみなさいよ」


「桜緋 維月」


「なっ!……どうしてっ」


「ふふ」


 あたしは対象の頭を掴み、力を入れる。


「いっ……痛い!痛い!」


「あなたは彼を騙している」


「っ!?……あなた、どこまで知って……っ!痛い!!」


「ふふふ」


「あなた達一体なんなの!」


「それを知ったら、後には戻れない」


 あたしは対象の首に手刀を落とそうと手を振り上げた。

 振り下ろそうとしたとき、その手首を誰かに掴まれた。


「俺の彼女になにしやがる」


「んなっ!!」


 桜緋様!?



 ★☆★☆



 俺は校内で道に迷い、人のいない薄暗い廊下まで来てしまった。どこだろうここ。

 そこでは時雨が目隠しをされて組み伏せられ、時雨の前にいるもう一人の人物が腕を振り上げているところだった。


 俺は慌てて走ってその手首を掴んだ。


「俺の彼女になにしやがる」


「んなっ!!」


 振り向いたのは、白い仮面をつけた女だった。

 顔は分からないけど、お洒落にウェーブがかった金髪と着崩した制服で、なんとなくギャルっぽい。

 仮面なんかつけてめっちゃ怪しくて怖い。

 だけど彼女がいじめられているのに黙っていることなんてできない。


「俺の彼女から離れろ」


 俺は時雨を床に押さえつけているもう一人に言った。

 その人物は時雨を離して、ふわふわした茶髪を揺らしてゆっくりと立ち上がった。

 その女も白い仮面をつけていて怪しい。

 佇まいはとても清楚な女の子っぽいが、やっていることはちっとも清楚ではない。


「維月!!維月なの!?」


 時雨がこちらを見上げて叫んだ。


「そうだよ、時雨。君を助けに来た」


「維月……」


 俺はギャルっぽい子の手首を離し、しゃがんでその目隠しを取ってやると、時雨は泣きそうだった。


「維月っ!もうだめ!好きっ!!大好きっ!!」


 時雨が抱きついてきた。

 心臓が高鳴る。


「俺も好きだよ、時雨」


 俺は時雨を抱きしめ、そのまま立ちあがった。

 華奢な体が俺の腕におさまる。


「ふざっ……けるな……」


 ギャルっぽい子が瘴気を漂わせて地獄から響くような声を出す。

 その仮面から、水滴がこぼれ落ちた。

 え、もしかして泣いてる?


「あたしが」


 声が震えている。

 ギャルっぽい子は白い仮面を取った。

 とても綺麗な顔だった。

 しかし、その整った顔は悔しそうにくしゃりと歪められていた。


「本当はあたしが、彼女なんだっ!」


 彼女は泣きながら叫んだ。


「………え」


 思考が追い付かない。

 ………つまり俺は時雨とギャルっぽい子で、二股をしていたクズだということか?


「維月、騙されないで、彼女は私!」


 時雨が焦ったように言ってくる。

 違う、騙されているのは君達だ。

 俺は隠れて浮気をしていたんだ。最低だ。


 つまりこの状況は、二股をかけられている二人の彼女の修羅場ということだ。もう一人の仮面の女はギャルっぽい子の友達とかそんなとこだろう。

 悪いの俺じゃん。


「……俺は………そ、そんな」


 俺は抱きしめていた時雨から離れ、わなわなと震える。

 時雨は追い縋るように俺に手を伸ばすが、俺が拒絶する。俺に時雨を抱きしめる資格なんてない。

 俺は膝から崩れ落ちた。


「今がチャンスよぉ」


 突然、のんびりした声が響いた。

 音もなく、三人と分断するように俺は複数の人影に囲まれた。

 皆、黒い仮面をつけている。


「……あんた達誰?こいつらの仲間?」


 時雨が睨み付けて問いかける。


「うふふ、私達はそいつらの敵よぉ」


 背の小さい黒い仮面の女の子が答えた。

 というかみんな女子だ。


「我々の敵だと……お前達は一体……」


 ギャルっぽい子が拳を構えて警戒しながら問う。

 背の小さい黒い仮面の子は俺の顔を胸に抱く。


「愛とは、欲望よぉ」


 その声は愉悦に満ちていた。


「維月に触らな」


 時雨は俺に駆け寄ろうとしたが、瞬間移動したかのように突如時雨の後ろに現れた黒い仮面の女が時雨の顔に布を押し付けると、時雨の体は力を失いがくりと倒れた。


「桜緋様に触れるな!」


 ギャルっぽい子も駆け寄ろうとしたが、黒い仮面の人達に阻まれ、そのまま目にも止まらぬ速さで戦闘を繰り広げる。


「………」


 最後の白い仮面の子は……あれ、どこだ?


「うふふ、やるわねぇ」


 俺の頭を胸に抱いてる黒い仮面の子が声を出した。

 見てみるといつの間にかその手には、白い仮面の子が突きだしている拳が握られていた。

 俺の頭を抱いてるもう片方の手も離し、その手にいつの間にか握られたスタンガンが白い仮面の子を襲う。

 しかし白い仮面の子は距離を取ってそれを避ける。

 こ、こわっ


「うふふ、みんなぁ、妨害よろしくねぇ、あとでたぁーっぷり愉しませてあげるからぁ」


 ジリリっという音と強烈な痛みと共に俺は意識を失った。



 ★☆★☆




 あれ、ここはどこだ?暗くてよく見えない。

 最後の記憶は確か、体育のドッジボールでゴリマッチョにボールぶつけられて………あれからどれくらい時間がたったんだ?

 記憶が曖昧だ。


「うふふ、目が覚めちゃったわぁ」


 上から誰かが覗きこんできた。

 黒い仮面を被っている。

 艶やかな黒髪が顔にかかってくすぐったい。

 ……あれ、手足が動かない。


「……やっと悲願が叶うわぁ」


 その声はとても色っぽく、歓喜に震えていた。

 その子は荒い息遣いで俺の制服のボタンを上から順に外していく。


「ちょっ、なにやって!」


「抵抗はだめよぉ」


 黒い仮面がぶつかりそうなくらいぐいっと近づいた。

 ふわっと甘い香りがした。


「なにも知らないあなたをぉ、私達で染めあげるわぁ」


 彼女はそのまま黒い仮面ごと顔を近づけてきて、仮面越しに軽くキスしてきた。

 ……え。

 ノーカウント!仮面だから!

 ファーストキスは姫川さんに捧げるんだから!


「ずっと堪え忍んで、やっとこの日が……」


「憧れの桜緋君とひとつに……」


「ああ、アゲハ様についてきて良かったです……」


 ん?なにか聞こえてきた。

 目を凝らして周囲を見ると、暗い空間に何人も人がいる。

 そして俺は何人もの人に体を拘束されていた。


「や、やめろっ、離せっ」


 動こうとするが、びくともしない。


「うふふ、私の初めて、あなたに捧げるわぁ」


 キスしてきた子が俺のベルトをカチャカチャと外し、ズボンを下ろしてくる。


「だ、誰か!誰か助けて!」


 バーン!

 突然扉が開き、暗かったこの空間に光が射した。どうやらここは体育倉庫だったらしい。

 そこには見知らぬ少女が立っていた。


「……鍵は見つからないはずよぉ」


「鍵なんていらないわ」


 その月のような髪飾りをした黒髪の少女は、ぐねぐねと曲がっている針金を見せびらかす。


「あの方は……関東全域を支配するマフィアの娘……月詠 アルカポーレ!」


「美しい………でも胸がしょぼい」


「オーラが違う……でも胸がしょぼい」


「神々しい……でも胸が」


「うるさいですね!殺しますよ!いいから離れなさい!」


 月詠さんって言うのか。

 すごい、立ち塞がる黒仮面達を弾き飛ばしながらこっちに向かってくる。なんて頼もしい。


「月詠さん!助けてください!」


「桜緋様が私の名前を……はぁぁん」


「なんで急に座り込むんですか!助けてください!」


「はひぃ!桜緋様ぁぁ!」


 月詠さんは群がる黒仮面達を飛ばしながら向かってくる。


「ちっ……一旦引くわぁ」


 とキスしてきた子が言い、黒仮面達は消えていった。

 俺は感極まり、制服がはだけているが気にせずそのまま月詠さんに抱きついた。


「ぶふぅ!」


「ありがとう!ありがとう月詠さん!」


「べ、べべべ別にいいのですよ!……もう死んでもいいですぅ」


「お礼になんでもします!俺にできることなら!」


「な、なんでもですか!なんでも!?」


「はい!」


「か、考えておきますぅぅぅ!」


 俺の救世主は、颯爽と去っていった。



 ★☆★☆



 帰り道。


「本当に覚えてないのよね?」


「だからなんのこと?」


「ふんっ、なんでもないわよ」


「お、おう」


「私は維月のなに?」


「幼馴染み」


「そうよ!ただの幼馴染みよ!ふんっ!」


「いって!」


「維月のばーか!」


 やっぱり俺の幼馴染みはよく分からない。













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