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ここはどこで俺は誰かなんて俺は知らない(前編)

 



 ここはどこだろう。


「目が覚めたようね」


 白衣のお姉さんが近寄ってきた。


「どこか痛みはない?」


「ないです」


「そう。ならもう戻っていいわよ」


「……戻る?」


 どこへ?

 そもそも俺は誰?


「どうしたの?早く戻りなさい。授業始まってるわよ」


「あ、はい」


 俺はのっそりと起き上がり、ベッドから降りる。

 足が涼しい。

 どうやら俺は短パンをはいているようだ。

 というかこれ、体操服だな。

 ベッドの横に上履きが置いてあったので、それをはき、扉へ向かう。


「体調が悪くなったらいつでも来なさい」


「はい。ありがとうございました」


 がらがらと扉を開け、この白い部屋を出る。

 扉の横に、保健室と書いてあった。

 ふむ。ここは学校か。


「じゃ、戻ろ」


「え?」


 振り向くと、短めの黒髪の清楚な美少女が背中を壁にあずけていた。

 ……今、俺に言ったの?


「どんだけ寝てんのよ。まったく」


「……待っててくれたんですか?」


「………え?」


 美少女が不思議そうに首をかしげる。

 しばしの無言の時間を挟み。


「……な、なに気持ち悪いしゃべり方してんのよ」


「……そ、そんな。……気持ち悪いだなんて」


 美少女に罵られた。

 俺のしゃべり方は気持ち悪いのか。

 あれ、視界がぼやけて……


「ちょ、ちょっと泣かないでよっ。冗談よ冗談。ね?」


「あ、ああ、冗談ですか。良かった……」


「………」


 この美少女はなんというか、しっとりした雰囲気を持っているので、一緒にいると落ち着く。


 なんて名前なんだろう。


「あの、名前を教えてもらってもよろしいですか?」


「…………冗談やめてよ」


 美少女は泣きそうになってしまった。


「あ、す、すみません。失礼なことをしてしまいました」


「……………」


 はたして名前を訊ねることのどこが失礼なのか分からないが、何かを間違えてしまったのは確かだ。


 俺が謝ると、美少女は更に泣きそうになってしまった。


「……あの、本当にすみませんでした」


「………」


 ついに彼女は泣いてしまった。


「えっと、どうしよう……大丈夫ですか?」


 俺は美少女の背中をさする。


「……もしかしてあなたは、俺と何か関係のある人ですか?」


 俺が訊ねると、美少女ははっと何かに気づいたような顔をし、一瞬にやっと笑った後、涙を拭った。


「私は時雨。あなたの恋人よ」


「……っ!?」


 衝撃が走った。

 俺にこんな可愛い彼女がいたなんて。


「……え、ちょっと、なに泣いてんの?」


 気が付いたら俺は涙を流していた。


「すみません。俺にこんなに素敵な彼女がいたなんて、あまりに嬉しくて……」


 ……ぼふっ


 彼女の顔が真っ赤に染まった。

 照れた彼女もすごく可愛い。

 なんだか彼女が無性に愛しくなってきた。


「すみません。抱きしめてもいいですか?」


「……す、好きにすれば?」


 俺は彼女――時雨を抱きしめた。

 こんなにも華奢な体をしていたんだ。

 俺が守ってやらなくちゃ。

 抱きあったまま三分ほど経った。


「しょ、しょろそろ戻ろう」


「分かりました」


 はぐを解いて改めて時雨を見ると、うなじまで真っ赤に染まっていた。


 ああ、結婚したい。



 ★☆★☆




 話しながら歩いていると、すぐに教室についた。


 分かったことは、俺の名前は桜緋 維月で、俺は時雨にぞっこんで、俺から彼女に告白したこと。あと、キスまでならしたことがあること。将来を約束していること。最後に、姫川 夕日という女がとんでもない悪女であることくらいだ。


「ここが維月の教室よ」


「ありがとう、時雨」


「うん。それじゃ」


「うん」


 俺は時雨と敬語なしで話せるようになっていた。


 教室の扉に手をかけるが、緊張してなかなか開けられない。


 俺が記憶喪失であることを気付かれてはいけない。ばれるとなにか悪いことがあるらしい。

 なんとしても隠し通さねば。


 中からは授業の声が聞こえてくる。


「頑張って。そしたら後で……キ、キキキキキキスしてあげるから!」


「分かった。頑張るよ」


 俄然勇気が湧いてきた。


 ガラガラ


 扉を開けると、教室中の視線が俺に集まる。

 怯むな俺。


「お、大丈夫か桜緋」


「は、はい。大丈夫です」


 空いた席は……あった。

 後ろの方のあれか。


 席に向かって歩いていると、ドストライクな女の子が目に入った。


 長めの茶髪で、泣き黒子がある、おとなしそうな超絶美少女。その後ろにお花畑を幻視してしまう。

 なんて名前なんだろう。


 ……駄目だ。

 俺にはあんなに素敵な彼女がいるんだ。

 目移りなんてするものか。

 俺は彼女だけを愛すると決めたんだ。


 席に座ると、前の席の男子が振り向いてきた。


「維月お前、ボールがぶつかった衝撃で記憶喪失だったりしない?」


 ギクッ!

 こ、こいつまじか、ピンポイントすぎるだろ……


「は、はは……そんなわけないだろ」


「じゃあ俺の名前は?」


「………」


「せんせーい!桜緋君が記憶喪失でーす!」


 俺がなにした!?教室に入って席に座っただけだよね!?

 これ俺が悪いの!?

 なんだよこいつ!


「む、本当か桜緋?」


「ま、まっさかー」


「じゃあ先生の名前は?」


「………」


「はーいみんなー、桜緋は記憶喪失だけど、仲間はずれにしちゃだめだぞー」


「「「はーい」」」


 もうやだ!俺がなにしたっていうんだ!ごめん時雨!


「えー、じゃあ授業を再開するぞ」


 先生はなにごともなかったかのように授業を再開した。

 いや軽!記憶喪失ってそんなもんなの!?

 授業中、なん人かの女の子がこちらを見ていたので、ひとりひとりに笑いかけて手を振った。

 女の子達はそのまま微動だにしなくなった。


 ほどなくして休憩時間になった。


 女子達がギラギラした目でこっちを見ながら立ち上がった。こわっ


 そういえば俺だけ体操服だから着替えないと。

 俺は鞄の中にくしゃくしゃに入っていた制服を持って逃げるように教室を出て、男子トイレに向かう。


「桜緋君、実は私がかの」


「排除します」


「桜緋君、今日も私と熱い夜を」


「排除します」


「ふんっ、あなたはわたくしの夫であることを忘れ」


「排除します」


 後ろがなにやら騒がしいけど、怖いので振り向かない。


 男子トイレを探してうろうろしていると、どこかの教室の前のあたりで男子7:女子3ぐらいの割合で大人数がごちゃごちゃしていて各々楽しそうに話しながら廊下を塞いでいた。

 無理矢理隙間を通ろうか引き返そうか悩んでいると、その中の茶髪のボブカットの女の子が俺に気付いたようで、


「みんな、廊下塞いじゃってるから邪魔にならないようにしよ」


 と言ってくれて、それに応えるように皆快く道を開けてくれた。

 いい人だな。

 クラスの人気者というやつか。


 俺は頭を軽く下げて速足でそこを通った。


 もう少し歩いて、廊下の端についた。

 そこにはトイレがあったのだが、女子トイレだった。

 俺はがっかりした。男子トイレはどこだ。


 その時女子トイレからぽっちゃりした女子が出てきたので、男子トイレの場所を聞こうと思い近付くと、その女子はびくっとして立ち止まった。


 俺が男子トイレの場所を聞こうと口を開いたところに、


「ちーちゃん、美崎が呼んでたよ」


 と俺の後ろから先に声がかかった。


「う、うん。分かった」


 ぽっちゃりした女子は走って行ってしまった。

 俺は溜息をついて引き返そうと振り返ると、先程の茶髪のボブカットの子が壁に背を預けて片手で本を読んでいた。

 その子は顔をあげてにこっと笑う。


「久しぶり、桜緋君」


 ……!?

 俺、この子に面識あったのか!

 どうしよう、この子の名前が分からない。

 これ以上多くの人にばれないためにも、ここでボロを出すわけにはいかない。


「ひ、久しぶり。じゃあ俺はこのへんで失礼するよ」


 俺が冷や汗をだらだらかきながら速足で去ろうとすると、彼女は目を細めて微笑んだ。


「つれないこと言わないでよ、元カノでしょ私」


 !?

 元カノ!?


「そ、そうだね。また会えて嬉しいよ」


 俺は冷や汗をかきながら微笑んだ。

 元カノさんはにこにこだ。


「なにか探してるの?」


「ちょっと男子トイレを」


「私が案内してあげる」


「あ、ありがと」


 男子トイレまで案内してもらっている途中、元カノさんは話しかけてきた。


「ねえ。私はまだあなたのことが………あなたのことがす、す……好きっ……だから、私達、やり直さない?」


「ごめん、俺今彼女いるんだ」


「………ふーん」


 申し訳ない。俺にはもう素敵な彼女がいるんだ。


「聞いてもいい?その彼女って言うのは誰?」


「水城 時雨。もともと幼馴染みだったんだ」


「……へぇ」


 男子トイレについた。


「じゃあ、着替えてくるね」


「行ってらっしゃい」


 手を振って見送ってくれる元カノさんは、前髪で影になっていて表情が見えなかった。

 着替えて戻ると、元カノさんはいなかった。





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