俺の天敵がこちらに向ける熱い視線の意味を俺は知らない
あれは小学生の頃。
「よ、よし、今日こそ話しかけるぞ」
少しくらい女子とも仲良くしたい俺は、クラスメイトの女子に話しかけようと、覚悟を決めた。
「だ、誰に話しかけよう……」
一人でいる女子の方が話しかけやすそうではあるが、その場合、俺がその子のことを、す、す、……好き、だと周りやその子に思われてしまう危険性があるので、出来ればそれは避けたい。
教室を見渡すと、端の方にひっそりと集まる女子の集団が目についた。
その集団の中心にいる銀髪の子は、見た感じとても大人しそうで、話しかけやすそうだ。
俺は勇気を出して近づいた。
「何よその髪の色、気持ち悪い」
「そうやって大人しくしとけば勝手に男子がちやほやしてくれるもんね、本当は私達のこと見下してんでしょ」
「そ、そんなこと……」
なんか知らないけど、仲よさそうに喋ってる。
俺なんかが割り込んでいいのだろうか。
いや、そんなこと考えるな、頑張れ俺。
「そ、そこの君たち」
俺が声をかけると、ガバッと振り向いてきた。
や、やばい、緊張する。
「え、え、桜緋くん?」
「な、なんで桜緋くんが?」
「桜緋くんがこんな近くに♡」
よし、いくぞ。
ここまで来たら、後には引けない。
「き、君たち、仲良くしようよ」
精一杯ビジネススマイルを浮かべつつ、右手を差し出す。
「ご、ごめんなさい……」
「ゆ、許してください」
………え、なにこの拒絶のされよう。死にたい。
なんでこんな嫌われてんの、俺。
「わ、私達、仲良しだよねー!」
「だ、だよね!仲良し仲良し!」
拒絶された俺に見せつけるかのように、この集団の中心人物であろう銀髪の子と、肩なんか組みだした。
先程から一言も発していない件の銀髪の子は、そんな憐れな俺に、ほんの少し涙を流しながら満面の笑みを浮かべた。
滑稽な俺が、涙が出るほど笑えると。
俺は、顔面に冷や汗をだらだら流しながら必死に涙をこらえ、虚しく差し出された右手をひっそりと引っ込めた。
それから数日後。
「桜緋くん」
俺は、例の銀髪の子に呼び止められた。
「な、なんだ?」
俺は、その圧力に屈さないように、精一杯の笑顔を浮かべた。
「はわっ」
そんな俺の覇気に怯えたのか、彼女はなぜかほっぺを赤くして俯いた。
ふっ、そのまま去れ。
「桜緋くん」
だが、やっと顔を上げた彼女は、俺の張り倒さんばかりの覇気を、小さな微笑で受け流していた。
くそ、これが強者の余裕かっ!
彼女はその小さな唇を動かす。
「安心して、彼女達とは仲良くしてる」
こ、こいつ、拒絶された俺に、酷い嫌みをっ。
心の中で俺を嘲笑しているのだろう。
負けるものかっ。
「へ、へー?良かったじゃん?」
俺は笑顔を張り付けながら、威嚇するように、彼女に顔を近づける。
すると、彼女がモジモジしだし、顔を再び俯かせる。威嚇が効いたようだ。
「そ、その……ありがと」
なるほど、俺という邪魔者を排除することで、より仲良くなったという感謝か。
……性格わる!
「君、名前は?」
「雪花 白……覚えてくれると嬉しい」
なるほど、石灰岩みたいな名前だな。
彼女は俺のトラウマとなった。
★☆★☆
回想している間に、ジョンの家についた。
中では、ジョンや政宗がゲームを用意して待っているはずだ。
ピンポーン
ガチャ
インターホンを鳴らすと、見知らぬ人が出てきた。
……あ、部屋間違えた。
ジョンの部屋は隣だ。
「すいません、間ちが」
「入りたまえ」
……え。
「あの、すいません間違えまし」
「入りたまえ」
「え、あの」
「入りたまえ」
「間違えたん」
「入りたまえ!」
「………はい」
玄関は、靴で埋まっていた。
「ああ、どうかいつまでも純白で」
「なにとぞ我らをお清めください」
「純真なる我らが正義」
「世界に光を」
一心不乱に祈りを捧げている人達がいた。
やべ、宗教の人達か……。
早めに抜け出そう。
「さあ!愛を捧げよう!」
うわ、もう巻き込まれた。
「まさか、捧げる愛がないのにここへ来たとか言わないよね?それは神への冒涜だよ?死刑だよ?あり得ないよね?」
「も、もちろん、喜んで愛を捧げます」
こ、怖ぇ。
「そこをどけ、愚民共」
「も、申し訳ありません!」
突然、皆がひれ伏した。
そこに悠然と佇むのは、これまた知らない男だった。
「一体彼は……」
「ばっか!あのお方は、神と同じクラスという、選ばれしお方!我々とは住む世界が違う!」
「は、はあ、なるほど?」
同じクラス?
神と?
「貴様こそそこをどけ、下等生物が」
「も、申し訳ありません!」
今度は悠然と佇んでいた男もひれ伏した。
今度は誰だよ……。
「彼は一体……」
「ほんっと馬鹿だな君は!あのお方は、神と同じクラスということに加え、神の落とした消しゴムを拾って渡すという偉業を為し遂げられた偉大なるお方!もはや天界の住人!それくらい分かれ!」
分かるか!
「神はおっしゃった。炭酸飲料は苦手、と。……なんでコーラなんか持ってきてんだコノヤロオオオオオ!!!」
「俺のコーラがぁぁ!」
キッチンの洗い場に捨てられた。
買ったばっかなのに。
「空気でも飲んでろ、愚か者が!」
コーラの捨てられた、空のペットボトルを投げつけられた。
なんだよ、炭酸飲料が苦手な神って。
誰かが慌てて入ってきた。
「き、緊急事態です!神が降臨しました!」
……世紀の大事件じゃん。
★☆★☆
向かった先は、近くの公園だった。
どうやらそこに神がいるらしい。
「隠れろ」
「「「御意」」」
「え、ちょっ」
急に皆が物影に隠れ、俺だけ少し遅れたところに、
「あ、ま、待って!……ください」
誰かから声をかけられた。
振り向くと、おとぎ話から出てきたような、銀髪の美少女がいた。
あれ、どうして俺の心臓は暴れ狂ってるんだ?
なんだか知らんが寒気がするのはどういうことだ。
「も、もしかして……桜緋くん……そんなっ嘘みたいっ」
なんか、呼吸が、乱れてきて……体が彼女を拒絶している。こいつは一体誰なんだ!
そうこうしている間にも謎の美少女が近づいてくる。
「こ、来ないでくれ」
「え、ど、どうして……」
美少女は寂しそうな顔をするが、それでも俺に近づいてくる。
「折角、また会えたのに……そんなこと、言わないで……」
なにを言っているっ。
やめろ、来るなっ。
「来ないでくれっ。君を見ていると、なぜだか胸が苦しくなってくるんだっ」
「え?……それって」
「呼吸が乱れて、なぜだか君の顔をまともに見れないんだっ」
「お、桜緋くん……嬉しいっ……」
だ、抱きついてきたっ!
ひぃぃ!
死ぬぅぅ!
嫌だあぁぁぁ!
突き離したいのに、全身に力が入らないっ!
助けて神様ぁぁ!
ここら辺にいるんだろう神様ぁぁ!
「なにをしている!」
じ、ジョン!
「嫌がる女子に無理矢理抱きつくとは、不届き千万!この俺が成敗してくれる!」
ジョンが丁度太陽と重なり、後光が差している。俺は目を細める。
なんて、神々しい……。
「……神、様?」
そうか、そうだったのか。
ジョンが神様だったのか……。
「この俺を差し置いて、けしからん……ええい!死ねぇ桜緋ぃぃぃ!」
「桜緋くぅぅん!」
神は俺の腕をお掴みになり、そのままお投げになった。ありがたやー。
「大丈夫ですか雪花さん、悪は今立ち去りました。この俺が来たからにはもう大丈――」
ぱちんっ
んなっ!神に平手打ちだとっ!
なんと罰当たりなっ!
神よ!なにとぞ彼女に天罰を!
「桜緋くん大丈夫!?」
ちょ、こっち来た!
来るな来るな!神よ、早く天罰を!
「Hey!ジョン!サイダー買ってき……美しい……」
ま、政宗!
奴を、奴を止めてくれ!
そのサイダーは神への供物かな?
「そこの可憐な方、友好の証として差し上げるZE!」
おい!神への供物をよりによってそいつに!
罰当たりな!
だが、奴の進行方向に回り込んで動きを止めてくれた!
「俺の金で買ったサイダーで、させるか!」
「ぐほぁ!」
神がサイダーを奪いながら回し蹴りをなさり、政宗がぶっ飛んだ。
天罰が下ったようだ。
「桜緋くぅん!」
おい、今吹っ飛んだのは政宗だぞ!そっち心配しろよ!
なんでこっち来るんだ!
――ガシッ
「悪は滅びました!さあ、これでも飲みながらゆっくり話しましょう!」
ああ!神が奴の腕をお掴みになって、動きをお止めになった!
「炭酸飲料……嫌い……それより桜緋くぅぅん!」
「んなっ」
神のお手を振りほどくなんて、なんて罰当たりな!それと気になってたけど、なんで俺の名前知ってるんだっ!
「不届き者があああああ!!!」
「もう我満ならん!!」
「天誅ぅぅぅ!!!」
隠れていた同志達が飛び出してきて視界を埋め尽くす。
ふっ、奴もこれで終わりだ。
これも天罰というやつだ。大人しく受けるがいい!
「た、たすけ、ぐえっ、誰か、桜緋ぃ」
「もう、桜緋くんが見えない、邪魔、邪魔っ」
さて、俺は帰るとするか。




