第一話 主人公死にかける
見切り発車です。
更新は地道にして行きます。
一話目大分短くなってしいました。
二話目以降はある程度文字数書きます。
「早く逃げて。ここにいても、足手まとい。」
周りに広がる夜の闇より黒い長髪を揺らしながら、俺の方に振り向いた少女は感情を感じさせない声で呟く。
少女はその黒い長髪に紅い眼をしていて、髪とは真逆に雪の様に白い肌をしている。そして、その未成熟な姿には不似合いな凶々しい刀を持っている。
「……」
俺は言われたことの意味や、今置かれている状況も忘れてその神秘的な姿に見惚れてしまった。
それがいけなかった。
少女が忠告してくれたのに動かなかった俺は横から現れた影に吹っ飛ばされて壁にぶつかる。
あまりの衝撃に痛みを感じる間もなく俺は地面に落ちる。
何が起きたのか理解出来なかったが、体に力が入らず、ぼやける視界に赤い水溜りが広がる。
その水溜りが自分の血だと気付いても意外と冷静に考えることができた。
あぁ……俺は死ぬのか……
俺はそう思いながら意識を手放す。
薄れ行く視界の中で最後に見たのは、謎の影を日本刀で真っ二つに切り裂いてから此方に駆けてくる少女の姿だった……
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ガタンゴトンガタンゴトン
「う、ぁあ……あぁ?」
何処かから電車が走る音が聞こえる。いや、響いてくる、体に。
その違和感に俺は目を開ける。
「……どこだ?ここ……」
目の前には見覚えのない天井が広がっていた。
俺は何でここに居るのだろうか?
寝起きでぼっーとする頭で理由を考えるが、分からない。
すると、無機質な、しかしどこか安堵した様な声が話しかけてくる。
「あ、目、覚めたみたいだね。」
声が聞こえた方に顔を向ける。
そこには黒い長髪の少女が本を持って、椅子に座っていた。
「……‼︎そ、そうだ‼︎俺は何かに吹っ飛ばされいぎっ‼︎」
その少女の姿を見た瞬間俺は全てを思い出した。
それで勢いのままに起き上がろうとすると、体に激痛が走る。
「落ち着いて。焦らなくてもちゃんと説明するから。死にかけたんだから無茶しちゃだめだよ。」
そう、俺は何かに吹っ飛ばされて、致死量の出血をした筈だ。
その証拠に俺は全身に包帯を巻かれている。
よく生きてたな俺。
そうやって思いを馳せていると少女が本を椅子に置いて近づいてくる。
「まずは自己紹介からさせてもらうね。私の名前はカレン、カレン・シュナイダー。あなたの名前は?」
「えっと……俺は本田 界だ。」
俺は少女––カレンに促されて名乗る。
「そう、カイって呼ばせてもらうね。それで、カイ、今あなたがいる所なんだけどね。ここは世界列車の中よ。訳あってあなたを助けたは良いけど連行しないといけなくなっちゃったの。」
カレンは俺を名前で呼ぶことを告げると、とんでもないことを言う。
「は?連行?しかも世界列車って……一体何がどうなったら、世界を横断する列車に乗る羽目になるんだよ。」
世界列車。それは世界のありとあらゆる場所繋ぐ移動手段だ。砂漠の上や海の上、さらには空すらも走る驚異の列車である。
あれ?俺何でこんな事説明してるんだ?まぁ、良いか。
「安心して、悪い様にはならないから。詳しい事は目的地に着いてから説明するけど、あなたの身体に変化が起きたの。それで、その変化を調べるのに連行させてもらってるの。」
「へ、変化?よく分からないけど君が言うとなんか安心できる気がするよ。わかった。君を信じるよ。」
カレンが俺を本気で気にしているのが伝わってきたので彼女を信じることにする。
すると、カレンは嬉しそうに微笑んでくれる。
うぉ⁉︎やべぇ、今のスゲェドキッとした。
今の今まで表情と言える表情が無かったので尚更そのギャップがカレンの微笑みの威力を倍増させている。
ぐぅー
そんな事を思っていると、力の抜ける音が響く。
俺の腹が空腹を訴えたのである。
うぉお……はずかしぃ……
「あ、お腹すいたよね。二日間も寝てたんだから、仕方ないよ。」
俺の腹の音を聞くとカレンは手を合わせるとどこかへ行ってしまう。
え?てか、俺二日間も寝てたわけ?
それによって俺は自分がどれだけ危機的状況にいたかを実感する。
しばらくして、カレンがワゴンを押して戻ってきた。
ワゴンの上にはパンやスープなど食事がのっている。
どうやら、俺の為にわざわざ持ってきてくれたらしい。
「はい、これ全部食べて良いからね。食べるだけ食べて早く元気になってね。じゃないと私が困る。」
「わざわざ持ってきてくれて、ありがとう。いただくよ。」
そう言って、食べようとして思い出す。
俺、動けないじゃん。
「あっ。ちょっと待ってね、背中立たせるから。」
俺の様子を見てカレンも気付いたらしい。
そして、カレンがベッド横のボタンを押すと、腰の辺りからベッドがゆっくり起き上がってくる。
おぉ……これはすごいな……
そして背中の部分が起き上がったので食べようとして、さらに問題に気付く。
腕、使えない。どうしよう……
しかし、今度はすでに気づいていたのか、カレンはワゴンに近付くとベッド備え付けの机の上に食事を並べる。
そして、パンを一口サイズにちぎると俺に向けてくる。
「腕、動かないでしょ?食べさせてあげる。はい、あーん。」
まさかのあーんである。
正直こんな美少女にされると恥ずかしくて堪らない。
しかし、腕が動かない上に他に方法がないのも事実なので、口を開ける。
そこに少し頬を染めながらカレンがパンを入れてくれる。
うぉお……すげぇ可愛いぃい‼︎
そうな事を思いながら食べたパンだが、美少女のあーん付きということを引いても凄く美味しかった。
口に入れる時に焼き立てのパン特有の香りが鼻をくすぐる。そして、口の中で噛むと小麦の香りとパンの程よい甘みが口の中に広がる。
「次、どれにする?」
そんなパンをカレンのあーんで食べ終わると、カレンが次の品を聞いてくる。
「じゃあ、ス、スープで……」
噛みながらもスープを頼む。
カレンはスプーンでスープをすくうとまだ熱いスープをふーふーして、冷ましてくれる。
やべぇ、マジ幸せ……
そんな事を繰り返しながら食事を進めていると、カレンが話しかけてくる。
「一応聞いとこうと思うんだけど、カイはどこまで憶えてる?」
一瞬何のことかわからなかった。
しかし、すぐに気を失う前のことだと気付く。
「俺が覚えてるのは今と違ってカレンの眼が紅かったことと、なんか不気味な刀を持ってたことと、俺はなんかよくわからないものに吹っ飛ばされて、大量出血してたことくらいだよ。あと、気を失う直前にカレンがその何かを真っ二つにしたのも見た気がするな。」
俺は聞かれた事を素直にカレンに答える。
今カレンは俺が気を失う前に見た紅い眼ではなく、碧い眼をしている。
それに、あの凶々しい刀がない。
「あはは、やっぱり見えてたんだね。」
俺の答えを聞いてカレンは苦笑いを浮かべる。
今は掘り下げないほうが良いかな?
俺はそう判断して、お互いの差し障りない事を話しながら食事を進める。
それから、食事が終わって、カレンに後どれくらい時間がかかるのか聞くとまだしばらく着かないと言われたのでもうひと眠りすることにした。