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トレース・ファンタジー  作者: 青の剣士
第1章 俺は異世界にはお呼びじゃ無いらしいです
9/40

初陣

9/26 魔族の容姿の設定を追加しました

グリードの悲鳴を聞きつけ、目の前の階段を降りるとそこには、巨大なトカゲの様な魔物に踏まれて悲鳴を上げるグリードと、周りにはパーティーメンバーのものと思われる死体があった。よく見てみると、壁際には複数の冒険者が怯える様に身を寄せ合っている。


「ジャイアントリザードマン………」


「Dランク指定の魔物がどうして!?」


「キャアアアア!!」


次々と言葉が飛び交う中、Eランクパーティーのリーダーである女性が悲鳴を上げる。圧倒的な光景に、一緒に来た面子の殆どは立ちすくみ、壁際にいる冒険者の様に動けなくなっていた。


「ティア、まずはあいつを助けるぞ!あの魔物の注意をそらしてくれ!」


「はい!」


俺はティアに向かって叫ぶ。それに答えるように一瞬で魔物の目前まで移動すると、ティアは【天翔】を使って空中を翔け、ジャイアントリザードマンへと短剣による一撃を放った。


「ギギャァァガァァァ!」


圧倒的な速度で放たれたその攻撃を、リザードマンは片手に持っていた木の盾で受け止める。

しかし、そのお陰でグリードが魔物から解放される。すかさず俺がグリードの元に向かい、壁際まで運ぶ。


「おい、しっかりしろ!何があった!」


「洞窟に…入ってすぐ…Dランクパーティーを……発見し、合流…できたんだが…脱出しようとした時に……あのトカゲ野郎が…現れやがったんだ……!」


あの魔物の身のこなしを見てもその強さは今まで見てきた魔物とは段違いの強さだということが分かる。それに魔物が武器や防具を持っていることも気になる。それよりも今は、早くティアの援護をしないと!


「分かった。とりあえずお前はここで休んでろ」


「お前…は……」


「あのデカブツを倒してくる」


そう告げると、俺は巨大なトカゲと対峙しているティアの元へと向かった。


ティアに向かって曲刀が振り下ろされる。ティアはそれを慌てずに一つ一つ避けている。その隙に俺は巨大なトカゲの背中に向かって、横薙ぎと斬りあげの2撃を十字になる様に叩きこんだ。

鳴神流剣術2の型4番『二刃にのは"十字"』。二撃目が剣を振り上げる状態で終わるため、技を繋げる時の繋ぎの型としてよく使われる、俺がよく使う技の一つだ。

『二刃"十字"』を受けたトカゲは、ティアから俺へと意識を移す。そして、振り向きざまに曲刀による一撃を放った。咄嗟に手に持っている剣で受け止めたが勢いを止めることができず、そのまま壁際まで吹き飛ばされてしまう。


「痛ぇ〜。どんだけ馬鹿力なんだよ、あいつ」


「大丈夫ですか!?ユウトさん」


ティアが俺の所に駆け寄ってくる。


「あぁ、なんとかな。それよりもあいつ、俺が攻撃しても、大したダメージ受けてないみたいなんだが」


「私の攻撃も通りません。動き自体は単調なのですが、かなり速いです。あの攻撃をもろに食らったら多分死にます。長期戦はこちらが不利になるかと思います」


「ティアでもダメなのか……」


とにかくあの硬い皮膚をどうにか突破しないと勝ち目はない。方法は何個かあるが……成功率はかなり低い。でもまぁ、やるしかないか。


「ティア、少しの間だけあのトカゲの意識を俺からそらして貰えないか?俺に考えがある」


「分かりました」


そう言うと、ティアはトカゲに向かって駆け出し、攻撃を再開した。それでもあの皮膚は突破出来ないのか、傷を付けることが出来ていない。トカゲはティアに気づくと、手にした曲刀で迎撃を開始した。上、右、左、突きと、連続で繰り出される連撃を、さらに上回る速さで回避していくティア。紙一重で躱していくその姿に、周りの冒険者も見惚れていた。相変わらず足は震えていたが……


ティアが注意をそらしてくれている間に、俺は剣を背中の鞘に収めて重心を低く保ち、力を溜める。鳴神流抜刀術『神速』の体勢だ。通常の『神速』は腰の鞘に剣を収めて力を溜めるが、俺は剣を振る際、横に振りぬくのは苦手だった。そう思って技を自分に最適の型に変えて磨いてきたのが、この背中に収める『神速』だ。この状態で『神速』を繰り出すと、僅かに速度は落ちるがその分威力は上がる。上段からの振り下ろしを最も得意とする俺なら尚更だ。しかし、今まで鍛錬で成功したのは精々50%。それでもあいつの硬い防御を突破するにはこれしかないと悟った。


「くらえ、トカゲ野郎」


ティアのお陰でガラ空きとなっている背中へと最速で飛び込む、そのまま背中の剣を抜刀し振り下ろした!


「鳴神流抜刀術『神速』!」


「ガァァリャァゴァァァ!!」


振り下ろした斬撃がトカゲの皮膚を抉り、辺りに鮮血が飛び散る。背後からの一撃を受けたトカゲは、そのまま反対側の壁まで吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。


「ユウトさん!?今のは……」


「はぁ…はぁ…正真正銘、俺の奥の手だ。これならダメージ位入っただろ」


壁から這い出てくる様に起き上がったトカゲの背中には、縦に1つ大きな切り傷が出来ていた。傷口から大量の血が流れている。


「まだ…立てるのかよ。やっぱり…速さが足りなかったか……」


目に怒りの色を浮かべたトカゲは、俺たちを見つけると咆哮を上げながらこちらに向かって走り、そのまま曲刀による一撃を放つ。

俺たちはそれを後方に飛ぶことで回避した。


「やばいな。あれで決定打に欠けるとなると、もう打つ手が無いぞ」


「いえ、ユウトさんの攻撃が効いているみたいです。あれをもう一度使えば––––」


「いや、多分二度目は通じない。俺の速度じゃ、二度目は不意打ちだったとしても躱される」


「ですが、他に手はありません!あの一撃でなければ––––ハッ!」


その時、ティアが何か思いついた様な表情を浮かべた。


「どうした?」


「もしかしたら、あの魔物を倒せるかもしれません」


「マジか!?どうやって」


「私があの一撃を再現します」


………え?今何て言った?俺の耳が正常なら、『神速』を再現すると聞こえたんだが……


「え?出来るの?」


「さっきの一度しか見てませんが、行けると思います。私の速さなら、あの魔物も反応できないはずです」


ナンテコッタ、『神速』を一度見ただけで使える様になるとか普通ありえないぞ!?でも今回はそれしか手は無いか。


「分かった。じゃあ今度は俺が敵を引きつけるよ」


「お願いします」


俺はトカゲと正面から向かい合う。出血は収まり、憎しみの籠った表情を浮かべている。視線だけで人を殺せそうだ。


「今、俺の仲間がお前を倒すための力を溜めてる。少しだけ俺に付き合ってくれよ」


そう言うと、トカゲは大気を震わせる様な雄叫びを上げて俺に斬りかかってきた。それを俺は肘や膝などで衝撃を吸収しながら剣でいなしていく。

鳴神流『流水の型りゅうすいのかた』。体全体を使って衝撃を吸収し重い一撃を受ける、俺が得意な型だ。ティアを助けた時、馬車に乗ってた男たちの攻撃を受けたのもこの型だ。

しかしトカゲの一撃は、流水の型で受け止めていても手に衝撃が残っていた。こいつどんだけ馬鹿力なんだよ!?普通に受け止めたら腕が折れるわ!

そして5回ほど攻撃を受け止めた頃、上段から振り下ろされるはずだった曲刀が急に軌道を変化させ、俺の右脇腹めがけて迫ってきた!


「やべっ!フェイント–––」


攻撃をいなす事ばかり考えていた俺はまんまとフェイントに引っかかってしまった。慌てて後方に飛ぶが避けきれず、俺は背後の壁まで吹き飛ばされた。


「ガハッ!」


斬られた腹から血が溢れる。壁に叩きつけられた衝撃で意識が飛んでしまいそうだ。


その時、一筋の光がトカゲの腹を貫いた。光が通った先には、短剣を振り抜いた体勢で固まっているティアがいた。

腹を貫かれたトカゲは膝から崩れ落ち、黒い霧となって消滅した。


「やった……のか………」


「ユウトさん!!」


慌ててティアが俺の元へ駆け寄ってくる。そして俺はティアに支えられた。

ティアに支えられた瞬間、ティアの体から緑色の光が溢れる。その光は俺を包み込み、光が晴れると俺の傷は塞がっていた。


「傷が治った?」


「大丈夫ですか!?ユウトさん!」


「ティアのお陰で何とかな。ありがとう」


傷が治った事が分かっていないのか慌てているティアに、安心されるよう頭を撫でながらできるだけ優しく応えた。

あの光はティアのスキルか?確か【回復の誓い】とかいうパッシブスキルがあったからそれのおかげかもしれない。


完全に傷口が塞がったのを確認し立ち上がる。すると、壁際で固まっていた冒険者達が一斉にティアの元へと殺到した。


「君凄く強いな!」

「見惚れちゃったわ」

「あの一瞬で魔物を貫いた攻撃は何なんだ?」

「よく見たらこの子めちゃくちゃ可愛いな!」

「あんた名前は?」

「俺たちのパーティーに入ってくれよ!」


そんな称賛の声が上がる。いきなり詰め寄られたティアはどうしていいか分からず戸惑っている。


「み、みなさん、落ち着いて!」


ティアの声は周囲の耳には入らず、周りはティアの話で盛り上がる。それを外から眺める俺。一応俺も活躍してたと思うんだが……


次の瞬間、辺りが殺気に包まれた。


「ティア!!」


俺と同時に気づいた様で、ティアも警戒モードに入る。すると洞窟の奥から一人の男が歩いてきた。身長は俺と同じくらいで、中肉中背。髪の色は黄色に染まっている。中性的な顔立ちはまさしく美少年と呼ばれるものだ。


「お楽しみの最中に申し訳ございません。私の可愛い可愛いペットを殺してくれちゃった人は誰か教えて頂けませんか?」


そう言うと、男は冒険者達を見渡す。そして視線がティアの位置で止まった。


「あぁ。貴女でしたか」


そう呟いた瞬間、紫色の一筋の細い光がティアの右肩を貫いた。


「ティア!!」


俺は慌ててティアの元へ駆け寄る。肩から血が流れ、苦しそうに押さえている。ティアを支えようと触れた瞬間、またしてもティアから緑色の光が溢れ傷が塞がっていた。


「大丈夫か、ティア!」


「ユウト…さん……」


「その獣人には私と共に来ていただきたいので、少しの間動かない様にしたはずなんですが……回復しましたか。厄介ですね……」


「誰だよ、お前」


「私はバティンと申します。これでも一応魔族ですので、どうぞお見知りおきを」


バティンと名乗る魔族は、笑みを浮かべながら優雅に一礼した。


いよいよ魔族の登場です

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