緊急クエスト
9/26 グリードの容姿の設定を追加しました
緊急クエスト
懐が温まってきた俺たちを待っていたのは、『緊急クエスト発生!冒険者求む!』と書かれたデカイ張り紙と、必死に冒険者に呼びかけを行っている受付の人たちだった。その中にはセラさんもいる。
「緊急クエストが発生しました!協力してくださる冒険者の方は至急こちらに集まってください!」
「セラさん、どうかしたんですか?」
状況が飲み込めず、セラさんに問いかける。
「あ、ユウトさん!ティアさん!」
「どうしたんですか?」
「先日、クエストの為に北西の洞窟に潜った2組のパーティーが戻ってこないんです」
「戻ってこない?」
「原則として、一週間が経過しても冒険者の無事が確認されない場合、緊急クエストとして冒険者達を現場に向かわせ、対処する事になっているんです」
そうなのか。でも、パーティーが戻ってこないだけにしてはやけに慌ててる様な気がするんだが……
「問題なのが、戻ってこないパーティーのランクが皆Dランクだという事です」
「Dランク!?」
って事は、俺たちよりも更に2つ上のランクのパーティーが戻って来れてないって事か!?
「この町に今いる冒険者は、最大でもDランクが数名しかいません。Sランク冒険者の人もいるのですが、今は別件でここを離れているみたいで」
マジか!?確かにそれはヤバイな。だからこうして冒険者をできるだけ多く募って向かわせようって訳か。
「それで今はどの位集まってるんですか?」
「Dランクのパーティーが1組、Eランクパーティーが2組です」
Dランクが1組にEランクが2組か。不安だな。
「そこで、ユウトさんとティアさんのパーティーにも参加して貰いたいんです」
「俺たちに?でも俺たちはFランクですが……」
「ティアさんのステータスは既にDランクに相当します。いてくれたらかなりの戦力になるはずです」
あ、ティア目当てなのね。確かに俺のステータスは一般市民(笑)レベルだが、ちょっとくらい戦力になるかもよ?まぁセラさんは俺たちを誘う時、ティアの方しか見てなかったからな……少し傷ついた。
それにしてもティアはDランクに相当するのか。やっぱ俺のパッシブスキルの影響もあるのかな?俺のパッシブスキルって成長促進系ばっかりだし。もしそうなら俺も鍛錬を続けてればいつかは強くなれるはずだ!
「ティアはどうだ?俺は参加してもいいと思うが」
「私はユウトさんに従います」
「じゃあ俺たちも参加させてもらいます」
「お二人ともありがとうございます!」
そう言うと、セラさんは呼びかけを再開した。
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数分後、ギルドには俺たちを含め4つのパーティーが集まっていた。
「んで、俺たちは何をすりゃいいんだ?」
そう問いかけたのは、唯一のDランクパーティーのリーダーだ。背は俺よりも一回り高く、ガタイもしっかりしている。分厚い鎧を見に纏い、金髪碧眼の甘いマスクは自信に満ち溢れている。名前は知らないが……
その問いかけにセラさんが答えた。
「では、説明を開始します。ここから北西の洞窟に向かっていたDランクパーティー2組が、一週間前から戻ってきていません。貴方達には2パーティーの安否の確認、それから原因の調査をして貰いたいのです」
安否の確認と原因の調査か。それだけなら大した危険はないかもな。
「安全が確認できれば救出を、確認できなければその原因の調査を行い、情報をギルドに持ち帰ってください。報酬は、それぞれの功績によって相応の物を用意させてもらいます」
その説明を聞いた瞬間、周りの目が変わった様な気がした。なんというか、水を得た魚の様な感じだ。
「分かった。報酬はたんまり用意しとけよ?このグリード様が全部頂いてやるからよ!」
あいつグリードって言うのか。Dランクっていう位だから強いんだろうが、あの報酬の事しか考えてない様な態度は好きになれないな。他の奴らも似た様なもんだし、ここの冒険者って言うのはこんな奴らばっかりなのか?
まぁそれはいいとして、俺も聞きたい事があったんだった。
「すみません。質問いいですか?」
「どうぞ」
「各冒険者が行った功績というのはどうやって判断するんでしょうか?」
「その人が行った功績に関しては全て冒険者カードに記録されます。なので、不正などを行った場合はすぐに分かるので気をつけて下さいね」
「分かりました」
個人が行った功績も冒険者カードに記録されるのか。クエスト終了はいつも口頭で報告してて、こんなに信用してていいのかとも思ったけど、冒険者カードを見て判断してたのか。なんでも冒険者カードがあれば解決する気がするのは俺だけか?凄すぎだろ冒険者カード。
「なんだ?お前見ない顔だと思ったら、そんなことも知らない新人だったのかよ。そんな奴が参加してていいのかぁ?」
周りがドッと笑いに包まれる。何が面白いのか理解出来ない。今はそんな笑っていられる状況じゃないはずなんだが……
「悪かったな、知らなくて」
「なんだ?随分舐めた態度取ってくれるじゃねぇか。グリード様が一から正しい接し方を教えてやろうか?」
なにかほざいているが無視する。それよりも今警戒するのは洞窟の存在だ。Dランクパーティーが2組も戻ってこれないんだ。何かがある。そこにこの面子で向かうんだ。不安しか感じられない。
「ケッ、無視かよ。まぁいいか。俺の実力を見せつければ、少しはお前も態度を改めるだろ。新人はここで待ってろよ。俺達がサクッと行って終わらせてきてやるからよ」
そう言うと、グリードのパーティーは先に洞窟へと向かった。
彼らがギルドから去った後、ティアが話しかけてきた。
「嫌な奴らでしたね」
「ああ言うのは気にしたら負けだ。それより気をつけろよ、ティア。今回のクエストは一筋縄ではいかないはずだ」
「はい!」
そうして俺たちはEランクパーティー2組に続いて洞窟へと向かった。
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道中魔物の群れが現れたが、さすがEランクと言うべきか、ダメージも受けずほぼ1撃で倒していた。
パーティーは最大6人まで組む事ができ、基本は近接武器を操る前衛を前に、弓などの遠距離武器や魔法を操る後衛が後ろに立ち、戦闘を行う。今戦っているEランクパーティーは、それを忠実に真似ていて、前衛3人、後衛3人の6人でバランス良く立ち回っていた。装備の様子から、別のEランクパーティーも同様の戦闘スタイルだと推測できる。
というか、俺この世界で初めて魔法を見た気がする。ティアも魔法は使えない様だし、俺ももちろん使えない。なんか少し感激してしまった。
俺たちのパーティーも戦い方とか考えたほうが良いんだろうか?俺たちはどっちも前衛型だし、お互いが1人で戦うことに慣れてるから、今は別に良いと思ったんだが……まぁ、今即興で考えた戦術なんて今回は通用しないだろうし、このままでいいか。
そんなことを考えていたら、ついに北西の洞窟に辿り着いた。すると–––––
ヴォォオオォォォォォ!!!!
洞窟の中から人のものではない雄叫びが聞こえてきた。
「な、なんだ!?今の」
「分からないけど、とにかくいくしかないでしょ?」
Eランクパーティーの誰かが震えながら声を上げ、そのパーティーのリーダーである女性が答える。
先の見えない不安に襲われながら、俺たちは洞窟の中へと足を踏み入れた。
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洞窟の中は静まり返っていた。時々咆哮が聞こえるが、それだけだ。魔物の気配すらない。
そのまま進んで行き4回ほど階段を降りると、その瞬間––––
ギャァァアァァアァァ!!!
ギルドで会ったグリードの悲鳴が響いた。
「あっちか!」
声の方向に走り出すと、目の前に階段が現れる。そこを降りると––––
武装した巨大な魔物に踏まれているグリードと、辺りに散乱した複数の死体があった。
次回、本格的な戦闘に入るかと