新たな仲間
まだ勇人の強さの底は見えていません。これからどんどんバトルシーンを増やしていけたらなと思います。
9/23 ティアの種族が『狼人種』であるという説明を追加しました。
9/28 誤字を修正しました。
布をめくるとそこにはケモミミ美少女がいた。何を言ってるのかわからないと思うが大丈夫。俺自身もよくわかってない。というか、ここ人族の領土だよな?なのに獣人族と思われる女の子がどうしている?そんな事を思いながら改めて見てみると、首にチョーカーのような物が付けられているのを発見した。何だあれ?
「……あの」
「はいっ!?」
「あなたは奴隷商の方ですか?」
「奴隷商?いえ、違いますが。もし馬車を操縦してた人たちの事を言ってるんでしたら、あなたを置いて引き返して行きましたが?」
「そうなんですか。では、貴方が?何とお礼を言ったら良いか」
「クエストの帰りに偶々この馬車と遭遇して、何か良くないものを運んでいると分かったから止めただけです。ですからお礼なんて要りませんよ」
「ですがそれでは気が治りません!何か私にお礼をさせて貰えませんか?」
そう言われても……何も思いつかないな。見たところ持ち物は何も無いようだし、どうしろって言うんだ…
「じゃあ、先ほどから気になってるんですが、その首に付けている物は何か教えて貰ってもよろしいですか?」
「その前に、その畏まった話し方はやめて貰えませんか?何だか距離を取られているみたいで落ち着きません…」
「分かった。これで良いか?」
「はい。ではこの首輪ですが、これは"隷属の首輪"と言います。奴隷である証のような物です」
「奴隷……」
何となく想像はしていた。この世界にもやはり裏の世界は存在しているのか。
「貴方があったという馬を操作していた男が奴隷商で、今の私の御主人という事になっています」
「何でお前は奴隷になっているんだ?」
「簡単に言うと、私、家族に売られたんです」
「売られた?」
「獣人族は力があり、珍しい容姿もあって人族の奴隷として重宝されているらしいです。特に女性の獣人族はかなりの値段で売られると聞きます」
「…………」
「村の中で年頃の女は私しか居ませんでしたし、うちの家族は裕福ではありませんでしたから、売られたのはしょうがないと割り切っていたつもりでしたが……」
家族に売られたと言ったこの子の笑顔はどこか悲しさを漂わせ、見ている者の心を締め付けた。俺はこの子に何かしてやれないのか?自然とそんな事を思っていた。そしてふと、自分のスキルの事を思い出す。
「ちょっと待っててくれ」
「はい?」
俺の推測が正しければ………!
叢雨 勇人 男 17歳
『異世界に召喚されし者』
【HP】123/147
【MP】24/24
【STR】15 → 74
【VIT】17 → 82
【INT】10 → 34
【MIN】9 → 33
【AGI】12 → 84
【DEX】13 → 68
固有スキル
【模倣】→[隷属術]
パッシブスキル
【限界突破】【向上心】【女神の加護】※①
※① : 女神の加護によって–––以下略
お?ステータスが全体的に上がってる!ここまでの戦闘で結構経験値溜まったからか?っと今見るのはそこじゃ無い!模倣の欄は––––あった!やっぱりあの奴隷商のスキルをコピー出来てる!
というか、奴隷商の男も結構スキル持ってた筈なのにピンポイントで欲しいスキルを手に入れられるとは、もしかしてこれが女神様の加護から来る幸運のお陰か!?ありがとう、神様!
「お待たせ。突然で悪いんだけど、君に聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「俺のスキルで、もしかしたら君を奴隷から解放することが出来るかもしれない。そしたら、君は奴隷を辞めたいか?」
奴隷は立場こそ悪いが、最低限の食事や寝床は用意されている。突然奴隷から解放されても、食事や寝床は自分で用意しなくてはいけない。もし自分で用意するのが厳しいのなら、無理に奴隷から解放するのは良くないと思ったんだが。
「……お願いします。私はもう、あんな生活はしたくない。ちゃんと自分の人生を生きていきたい!!」
「分かった。じゃあ、今から君を奴隷から解放する」
俺は頭の中に浮かぶイメージに従って、彼女の前に手をかざす。彼女を縛っている鎖を断ち切るのをイメージしながら強く念じる。すると、体が強い倦怠感に包まれたが、彼女の首輪が綺麗に外れた。
この倦怠感は何だ?何か良くない状態異常にでも掛かったかと半ば焦りながら自分のステータス画面を確認する。
叢雨 勇人 男 17歳
『異世界に召喚されし者』
【HP】123/147
【MP】4/24
【STR】 74
【VIT】 82
【INT】 34
【MIN】 33
【AGI】 84
【DEX】 68
固有スキル
【模倣】→[隷属術]
パッシブスキル
【限界突破】【向上心】【女神の加護】※①
※① : 女神の加護によって–––以下略
MPが減ってる?強い倦怠感はこれが原因か。というか多分だけどこれも異世界では常識なんじゃ無いのか?おのれクソガキ!こんな重要な事も教えないとは、どうしてくれよう……!
とりあえずあの子に異常が無いか確かめよう。
「どこか異常は無いか?」
「あ、あれ?首輪が外れて……。あ、はい。特に異常は見られません。大丈夫です」
「そうか。よかった。とりあえず成功したみたいだな」
「あ、あの!ありがとうございます!」
その子は目に涙を溜めながらお礼を言ってきた。不覚にも可愛いと思ってしまった。心臓の音がやけに大きく聞こえる。
「あ、いや、これは俺の気まぐれだから!奴隷って制度が俺は気に食わないし、救う手段があるのに見捨てたくは無いからな。だからお礼なんて言わなくていいよ!」
あー!だから俺の心臓うるさい!さっさと静まれよ!?
「とりあえず、これでもう大丈夫だろう。じゃあ俺は帰るから」
いや〜人助けをした後はなんか清々しいな。今日は気分良く眠れそうだ。そうだ!どうせなら今日は少し豪華な宿を取って–––––
「え?あの!」
「あ、大丈夫大丈夫!ここの魔物弱いから。一般市民レベルの俺でさえ無傷で歩いてこれたんだから、帰るのだって余裕だろ。獣人族なら尚更だ。じゃあまたな。縁があったらまた何処かで会えるだろ」
そう言うと、俺はクエストの報告をするため、帰路に着いた。
「私の話を聞いてくださいってば〜!!!」
獣人族の女の子の叫びは、残念ながらヒーローの余韻に浸っている勇人には届かないのだった。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
その後、クエストの終了の報告を行った勇人は、ギルドから報酬(2000アル)を貰い、宿で休んでいた。ちなみにこの宿は町で1番安く食事もかなり上手いと話題の宿屋だ(結局1番安い宿を取る辺り、完全に貧乏性が身についてしまっている)。いつもは満室らしいのだが、今日はついてた。この幸運を女神様に感謝してると、外が騒がしいことに気づいた。
「ん?なんだ?」
気になったので外に出てみる。すると–––––
「あ〜!!やっと見つけました!"御主人様"!」
「「「「「「「御主人様〜!?」」」」」」」
なんて呼び方してんだ!?このケモミミ少女は!変な呼び方したせいで周りからの視線がとんでもないことになってるぞ!ここで周りの奴らに絡まれると面倒だ、とりあえず––––
「ちょっとこっちに来い!」
強引にケモミミ少女の腕を掴み、その場から全力で逃走。宿に戻ってくると、俺の泊まってる部屋に駆け込んだ。
「で、あれはどういう事だ?」
「どういう事とは?」
「あんな公衆の面前で俺の事を"御主人様"って呼んでた事だよ!!」
「お好みではありませんでしたか?」
「………黙秘権を行使する」
ケモミミ少女が俺に温かい眼差しを向ける。だってしょうがないじゃない。男の子だもの。
「ゴホン!で、どういう事だ?」
「だって御主人様が私の話を聞かずに置いて行ったからここまで追いかけてきたんじゃないですか!」
「話?」
「いいですか?よく聞いてください」
そう言うとケモミミ少女は深呼吸をする。そんなに大事な話なのか?
「私をあなたと一緒に居させてください!」
「ごめんなさい」
「即答!?しかも丁寧に断られた……どうしてですか!?私じゃ足手まといですか?」
こいつは俺の事を過大評価し過ぎてるな……ここらで俺のダメっぷりを教えておくか。
「逆だ。もし君が付いてきたとしたら俺が君の足手まといになるんだよ。いいか?俺のステータスは一般市民レベルっていう皇女様からのお済み付きなんだ。獣人族で身体能力の高い君が一般市民のステータスで冒険者やってる俺について来てみろ。それこそ君の為にならない」
「そんな事……」
「それに俺は冒険者になりたてのFランクだ。そんな奴について来たってなんの利益も得られない」
「私は、そんなものの為にあなたと一緒に居たいんじゃない!!」
突然、ケモミミ少女は俺に対して怒りを露わにした。そんな怒るような事したか?
「私はただ、私を救ってくれた貴方と一緒に居たい。見ず知らずの私に優しくしてくれた貴方の役に立ちたい。私をあの辛い奴隷生活から解放してくれた貴方と共に歩んでいきたい。ただそれだけなんです!!貴方がどんな人間だろうとそのことだけは決して変わりません」
こんなに真剣に俺と一緒に居たいと考えてるのか。なんだこれ?凄く嬉しい。やばいドキドキしてきた。
「な、なんでそこまで俺と居たいんだ?」
「自分でも分かりません。でも貴方と一緒に居たいと思っているのは本当です。お願いします!一緒に居させてください!」
やばい、ここでその上目遣いは反則だ!………はい。俺の負けです。ここまで言われたら断れねーだろ……
「……分かった。多分かなり迷惑をかけると思うが、これからよろしく」
「あ、はい!よろしくお願いします!御主人様」
「ちょっと待て!その御主人様は禁止だ!これから共に行動する以上、俺と君は対等な関係で居たい。呼ぶならもっと別の呼び方にしてくれ」
「そう言われても、私は御主じ–––貴方の名前を知らないんですが」
そういや、自己紹介してなかったな。忘れてた。
「俺は叢雨 勇人だ。君の名前も教えてもらっていいか?」
「ムラサメ ユウトさん……あ、はい!私は『ティア』と言います。狼人種の獣人です」
「ろうじんしゅ?っていうのが何かは分からないが、これからよろしく頼む。ティア」
「はい!よろしくお願いします、ユウトさん!」
自己紹介を終えた後、俺は部屋を出ようと立ち上がる。
「あれ?どこかに行かれるんですか?」
「あぁ。ティアの部屋も借りないといけないだろ?だから宿屋の主人に頼みに行こうと思って」
「え?ここで一緒に寝るんじゃないんですか?」
「な訳あるか!?とりあえず、ティアは風呂に入って早く寝たほうがいい。疲れただろ?やらなくちゃいけない事は明日やろうぜ」
「そうですね。それなら私が話をしてきます。ユウトさんは早めに休んでください」
「そうか?分かった。それじゃあお休み」
「はい。お休みなさい、ユウトさん」
そう言い残して、ティアは部屋から出て行った。そのままベッドに倒れ込む。
「俺にも仲間が出来たか。なんか嬉しいな。よし!足手まといにならない様に鍛錬頑張るぞ!」
そうして新しい仲間を迎えた俺は、どこか晴れやかな気持ちで眠りにつくのだった。
今後もティアはどんどん活躍していく予定です