初クエストがまさかの……
9/21 【模倣】の説明を追加しました
「ムラサメさん。ふざけてるんですか?」
唐突にそんな訳のわからないことを言われた。ん?俺の耳がおかしいのか?なんか俺ふざけたことしたか?
「ええっと……すみません。もう一度仰ってもらってもいいですか?」
「ですから、ふざけているんですかと聞いているのです」
「いえ、俺はふざけてなんていませんが……」
「ではこのステータスはなんなのですか!?」
そう言って皇女様は俺に1枚の薄い板を渡してきた。そこには––––
叢雨 勇人 男 17歳
『異世界に召喚されし者』
【HP】32/32
【MP】5/5
【STR】 15
【VIT】 17
【INT】 10
【MIN】 9
【AGI】 12
【DEX】 13
固有スキル
【模倣】→[ーーー]
パッシブスキル
【限界突破】【向上心】【女神の加護】※①
※① : 女神の加護によって、パッシブスキルは貴方以外には見えていません。パッシブスキルは持ってるだけで凄い力を発揮したりする物もあるので気軽にバラしてはいけないのです。なので簡単に見られないように気を回しておきました!私って出来る女ですね!あ、貴方が気を許した相手には自然と見えるようになるので心配しないでください。それでは異世界での生活をどうか楽しんでください!ファイト!
by 貴方のことが大好きな女神より
と書かれていた。というか、神様なんかキャラ変わってません?あ、こっちが素の性格なのか。あっちでも最後の方キャラ崩れかけてたしな。
でも俺にこのステータスを見せられても何が問題なのかがわからないんだが……
「このステータスがどうかしたのか?」
「このふざけたステータスは何ですか!?スキルはこのよくわからない固有スキルのみ。挙げ句の果てに低すぎるステータス。召喚された人間とは思えません!」
「いや、それは当然だと思うぞ?俺は女神様から力は貰えなかったからな」
「……………」
皇女様は固まったままだ。あれ?バグったのか?
「ムラサメさん。貴方に用は無くなりました。初めての異世界で何かと大変かと思いますが、お金は用意するので頑張ってください」
あ、あれ?急に扱いがぞんざいになったな。こっちがあの皇女様の本性か……なんかムカついてきたが、ここでなんの情報も無しに外に追い出されるのはマズイ。なんとかこっちの世界の情報を何か引き出さないと……!
「あ、あの、ちょっと!?」
「どうぞ。出て行ってください。一般市民のムラサメさん」
くそっ!こっちの話を聞こうともしないか!って、あ!ちょっと!どこから出てきたか分かんないけど脇に手を入れておれのこともちはこばないで!?全身鎧の騎士さん達。俺はあのムカつくガキから見知らぬ土地では必須とも言われる情報収集をしなきゃいけないんだから!だから痛いって!?横腹の辺りに鎧のゴツゴツしたところ当たってるから!
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
その後お金を貰い、それでもなんとか情報が貰えないかと足掻いてみたが、抵抗虚しく簡単に城から放り出されてしまった……
ていうかあの騎士達力強すぎだろ!?割と本気で暴れたのに微動だにしなかったからな。きっとあの人達のステータスはかなり高いんだろうな……とりあえずあのガキから俺のステータス貰ったままだったから、もう一度確認しておくか。
叢雨 勇人 男 17歳
『異世界に召喚されし者』
【HP】32/32
【MP】5/5
【STR】 15
【VIT】 17
【INT】 10
【MIN】 9
【AGI】 12
【DEX】 13
固有スキル
【模倣】→[情報閲覧]
パッシブスキル
【限界突破】【向上心】【女神の加護】※①
※① : 女神の加護によって–––以下略
ん?なんか変わってるところがある。これって情報閲覧スキル?でも他のスキルと表記のされ方が違うからな……まぁ仮に持ってたとしても使い方が分からないから意味な–––––あれ?分かるぞ?なんとなく使い方のイメージが頭の中に流れ込んでくる。
とりあえずそれに従い自分の胸に手を当て軽く念じてみる。
【模倣】:自分以外の相手のスキルをコピーし使うことが出来る。ただし使用制限は3回。ストックは1つまで。使用するためには以下の3つの条件を全て満たす必要がある。ストックは自由に変更可能。しかし、ストックから外したスキルはもう一度コピーしないと使うことができない。また、同じスキルは連続でコピーすることが出来ない。
発動条件
①そのスキルを一度見たことがある
②そのスキルの効果を把握する
③自分の実力が相手より上回っている
うお!?本当に出来た!結構気になってた模倣ってスキルを調べたんだが上手くいったみたいだ。なんか使いどころの難しいスキルみたいだ。でも使い方によってはかなり強いスキルだなこれ。この説明を信用すると、この情報閲覧を使えるのはあと2回か。とりあえず女神の加護以外の2つのスキルについて聞いてみるか。女神の加護については本人から説明されたしな。
【限界突破】:ステータスの制限が無くなる。ようは鍛えれば鍛えるほど強くなる。
【向上心】:自分が経験した全てのことから得られる経験値の量が多くなる。ようは物覚えが良い。
前の世界の俺とは真逆のスキルだなこれ……でも、とりあえず【模倣】を使ってコピーしたスキルの使い方は分かったな。今回のスキルは、あの皇女様からコピーしたみたいだな。あいつがスキルを発動した所しか見てないし。
しっかしこれからどうしたもんかな?本当は城で皇女様から話を聞かせて貰えるんだろうけど。中々のハードモードだな……
「とりあえず、町の方に行ってみるか」
まずはそこで今後の方針を決めよう。
–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
人族領土の中央に位置し、人族の最高戦力である王宮騎士が集中する王都アルトニカ。その町中は活気に満ち溢れ、年中露店が賑わっている。
その町の名物と言われているのが、町の中で一際大きな存在感を放っている"冒険者ギルド"
だろう。ここでは、一般市民から"クエスト"と呼ばれる依頼を受け、それを達成することでお金を貰い生活をしている"冒険者"の登録ができる場所だ。それにここの受付には––––––––
「あの〜。どうかされました?」
「いや!どうもしてませんよ!?」
このように美人の女性が多くいるのだ!危ない危ない。君たちに説明している間ぼーっとしてたのを心配されたみたいだ。やっぱ天使だな!それに比べてあのクソガキは–––以下略
「それで、説明の続きを始めたんですけどいいですか?」
「はい。お願いします」
「冒険者の登録に関してなんですが、ユウトさんは今日冒険者登録されていきますか?」
「あ、はい。登録していく予定です」
「では実際にやりながら説明しましょうか」
「よろしくお願いします。セラさん」
ちなみに今俺と話しているセラさんは、赤みがかった長髪を編みサイドから前におろしている、いわば某芸能事務所の事務員のような髪型が特徴的の女性だ。アルトニカの冒険者ギルドで、1位2位を争う人気なんだとか。
「冒険者登録の際、行う手続きは3つ。
①名前を書く
②血判を押す
③お金を払う
の3つです。簡単でしょう?」
「えぇ。簡単ですね」
セラさんに説明されながら、渡された紙に名前を書き同時に渡されたナイフを指先に当てて血を出し、紙に押し付ける。
手順がこれだけなら確かに簡単だな。
「後はお金ですね。100アルですね」
この世界では、どんな国や町でもお金の単位は"アル"で統一されている。
実際のお金は、銅貨、銀貨、金貨の3枚で、銅貨100枚で銀貨1枚分、銀貨100枚で金貨1枚分に相当し、銅貨1枚で1アルだ。
ちなみに俺が城から渡されたお金は金貨1枚と、銀貨50枚。1アルを1円とすると15000円だ。所持金15000円で生活……この世界の相場が分からないからなんとも言えないが、元の世界で考えればかなりきつい。これでいかにあのクソガキが鬼畜かわかっただろう。だいたい––––以下略
「あ、あの……顔が怖いんですが、大丈夫ですか?」
「えぇ。とあるクソガキにどうやって仕返ししてやるか考えていたもので」
「は、はぁ
危ない危ない、顔に出てたか。とりあえずお金は渡しておかないとな。
城で渡された袋から銀貨を1枚取りセラさんに渡す。
「はい、ちょうどですね。では、これがユウトさんの冒険者カードになります。念じると自分のステータスを見ることができる仕様になっています。町に入る際はこれが自分の身分を証明するものになりますから、くれぐれも無くさないようにしてください」
ふむふむ、なるほど。ようはこれが身分証になるわけだ。しかも自分のステータスまで見れると。凄いな冒険者カード。
「わかりました。ありがとうございます」
「冒険者のランクはFから上がっていき、最高でSランクとなります。頑張ってくださいね」
よし、これでこの世界での仕事は手に入れることができた。とりあえずFランクのクエストを受けてみるか!
今回受けたのは魔物討伐クエスト。町の外にいる、フラフラビットを3体討伐して欲しいというものだ。名前の通り、足取りがおぼつかない兎のようだが、それが厄介らしくこっちの攻撃を上手くかわしてしまうのだとか。フラフラビットを討伐すれば自然と冒険者カードに記録されるらしいので、魔物の部位などは持ってこなくていいらしい。マジ冒険者カード有能。
とりあえず武器が無くては魔物を討伐出来ないので武器屋に行き、店で一番安い片手剣を購入する。これが結構高く、3000アルした。銀貨を30枚渡し、残りは金貨1枚に銀貨19枚(11900アル)となった。やばい、どんどん所持金が無くなっていく………
町の外にやってきた、のは良いんだが肝心のフラフラビットがいない……
「まぁもう少し町から離れれば見つかるだろ」
そう考え、道なりに進んだ先の森を目指す。
道中魔物に襲われそうになったが、全て切り捨てた。まだ町に近いからなのか、そんなに強い魔物はいなかった。というか弱かった。
そうして適当に相手しながら進んで行くと、ようやく森に着いた。
「じゃあ張り切って魔物討伐いってみよう!」
道中魔物との戦いで多少自信が付いたのか、声が自然と明るくなる。
そして俺はその森の中に足を踏み入れた。
森の中はシンと静まり返っていた。風で葉が揺れ擦れる音が心地良い。その音を聞きながら探索していると–––––––
「お?あれかな」
目の前にやたら足取りがおぼつかない兎を発見した。幸先良く見つけられたことに喜びながら飛びつこうとするが、ここで冷静になる。
「そういや、フラフラビットは相手の攻撃をかわすのが上手いんだったな」
それなら俺の攻撃もかわされてしまうかもしれない。そう思い、剣を上段から振り下ろすと見せかけるフェイントを入れてから中段から横に剣を振り抜く。
フラフラビットは、上段の振り下ろしにすら反応できず、綺麗に真っ二つに斬られてしまった。
「あ、あれ?あっさり終わったな。しかもこいつ上段のフェイントにも反応しなかったし……」
不意を突いたことで反応できなかったのかとも思ったが、続く2、3匹目も同じように反応しなかったことから、そんなに強い魔物では無いと結論付けた。
目標の魔物を倒したので、町に戻ろうとすると、森の奥から何かを乗せた馬車がやってきた。
「おい、あんた!アルトニカの城下町はどっちだ?」
「あ、あぁ。城下町ならこのまま真っ直ぐ進んで森を出たところを左だ」
「ありがとな!」
そのまま俺の横を通り過ぎようとする。馬車の荷台が俺の横を通った瞬間––––
バチッ!!!
よくわからないが、何故かこの馬車をこのまま行かせてはいけないと頭の中が危険を訴える。気がつくと俺はその警告に従うように馬車の前に立ち塞がっていた。
「ちょっと待ってくれ。その馬車の荷台には何を乗せてるんだ?」
「何って、そんなの何でも良いだろ」
「果物を運ぶにしては、荷台が大きすぎないか?しかも、荷台自体に揺れが全く見られない」
「何が言いたい?」
「何か見られると困るものを乗せてるんじゃないのか?」
そう言うと、馬車を操縦していた男は肩を竦めた。
「ご名答。あんた見た目によらず鋭いんだな。まぁ確かに俺はそう言った物を運んでる。が、それはお前とは何の関係もないだろ?俺を見逃しちゃくれないか?」
「それは出来ない。そういった物を運んでると分かった時点でお前は見逃せない。それにお前の馬車の中身をこのまま通しちゃいけないって俺の直感が言ってるんだ」
「ハハハッ!!直感か!通りで一歩も引かないわけだ。それならしょうがねぇな。悪く思うなよ」
そう言うと、馬車の中から二人の男が降りてきた。身のこなしからして、王宮騎士ほど化け物って感じでは無さそうだが、今の俺で勝てるか?
「悪りぃなガキ」
「ちょっと大人しく死んでくれ」
左の男が手に持っていた片手斧で俺の頭を狙ってくる。それを冷静に左に避け、相手の首元に剣の刃を添える。
「あんたら、相手に刃を向ける事がどういう事が分かってるのか?わからないんだったら大人しく馬車を置いて帰れ。今ならまだ見逃してやる。それでもまだやるってんなら––––」
「このガキャ!!」
自分が殺されそうになって焦ったのか、大声をあげながら俺に斬りかかってくる。しかし動きは単調になっているため、相手の攻撃の軌道が手に取るように分かる。大振りになった瞬間を狙って相手の懐に入り込む。
「大人しく俺に斬られろ」
そのまま片手剣を横に一閃。相手の横腹に一撃を叩き込んだ。
「ギャァァァ!!!」
腹に深い傷を負った男は、痛みにもがき苦しんでいる。その男に言い聞かせるように俺は言う。
「刃っていうのは、相手を傷つけてしまうものだ。それを相手に向けるってことは、自分もそれを向けられることを覚悟しなくちゃいけない。ようは、『殺すつもりなら殺されても文句は言えないよな?』ってことだ。覚悟も出来てないようなやつが–––––」
「死ねぇ!!!」
その途中で、もう一人の男が背後から俺に斬りかかってきた。咄嗟に片手剣で受け止めるが、1番の安物だからか、一合合わせただけでヒビが入ってしまった。距離を取り剣を構え直す。
「背後に回って不意打ちか、考えたな。しかも完全に気配が消えてたし。どういう事だ?」
「冥土の土産に教えてやるよ。俺は【気配遮断】っていうスキルを持ってるんだ。視界から外れた瞬間、お前は俺を認識できなくなる。しかも今の攻撃でお前の武器はもう壊れる寸前のはずだ。武器と一緒にあの世に送ってやるよ」
「鍛錬不足か?気配を察知する訓練とかやった事ないからな……集中すれば出来るのか?あ、目を瞑って生活してみるのも良いかもしれない!流石に最初からやると周りの迷惑になるからやらないが–––––」
「って俺の話聞けや!!!」
「ん?あぁ悪い、聞いてなかった。で、何だっけ?」
あと1回あの攻撃を受ければ、剣は必ず折れる。かと言って避けられるほどこいつの攻撃は生温くない事は最初の攻撃を見れば分かる。さて、どうするか。
「まぁ良い。そのまま死ね!!」
相手の片手斧が俺に振り下ろされる。それを迎え撃つように剣を構え、ぶつかる瞬間に肘や膝を曲げ衝撃を吸収し、剣の破壊を免れる。そのまま相手を押し返し距離を取る。
「な、何で折れねぇ!?」
「俺こういうの得意なんだ。昔凄い強い子と何回も竹刀を打ち合ってたんだが、その時相手の子の打ち込みが強すぎて俺の竹刀が折れちまったんだよ。竹刀って高いだろ?だから二度と壊さないように自然と覚えていったんだ」
「お前の思い出話なんか聞いてねーよ!」
「それに俺はどちらかと言うと"後の先"を取る方が得意なんだ」
もう一度相手が攻撃を仕掛けてくる。相手の動きに慣れたのか、先ほどよりも遅く感じる斬撃をもう一度受け流して背後に回り込み、そのまま背中を斬りつけた。
「ングァァァ!!?」
悲鳴をあげながらその男は地面をのたうち回っている。その様子を見向きもせず、俺は馬車を操縦していた男に話しかける。
「おい、次はあんたか?」
「いや!俺が悪かった!馬車の中の奴はお前にやる。だから見逃してくれ!!」
「そうか。ならさっさと行け。そいつらはまだ生きてるからちゃんと治療すれば助かるぞ」
「分かった!」
そう言うと男は馬車の中から布のかかった大きな箱のようなものを取り出し地面に置くと、怪我をした男たちを荷台に乗せ、一目散に引き返していった。
「ったく、何なんだあいつらは。でもおかげで対人戦の経験は結構詰めたな。あっちの世界でし忘れた朝の鍛錬分位にはなっただろ。さて、あいつらは何を運ぼうとしてたんだろうな?」
そう言いながら大きな布を取っていく。するとその中には–––––
「…………」
「………え?」
獣の耳を生やした女の子がいた。