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トレース・ファンタジー  作者: 青の剣士
第2章 エルフの国がピンチみたいです
39/40

危機的状況

やばい、やばいやばいやばいやばい!!

どうすんだよこれ!今俺の目の前には妖艶な雰囲気を纏った大人の女性もといオセットと名乗る魔族軍幹部。そんな女性から熱烈なアタック(命を狙われるレベル)を仕掛けられ、絶体絶命のピンチだ。

なのに俺の身体はピクリとも動きはしない。まるで身体が石にでもなったかのようだ。

せめて身体が動けば(まぁ身体が動いたところでどうしようもないかもしれないが)と思わずにはいられない。


「まだそんな顔ができるのね?四肢の動きを封じられている今の状態で何ができるって言うんだか」


「ある人が言ってたんだけどな、『諦めたらそこで試合終了』らしいぞ?」


とりあえず軽口を叩いて時間を稼ぐ。今の俺にはこれしか出来ない。


「ふぅん、そう。じゃあ、最後に言い残すことはある?」


出ました、俺的死ぬ前に一度は行ってみたいセリフベスト10。『最後に言い残すことはある?』。よりによって言われる側になってしまった。だが、俺はまだ死ぬつもりなんて毛頭ない。生存の確立を1%でも上げるために、全力を尽くす。


「言っておくけど、まだ終わってない。以前の俺なら諦めてる所だが、この世界に来てから考えが変わったみたいでな。勝負はこれからだ」


「変な事を言うのね?まるで自分が別の世界から来たみたいな言い方。まぁいいわ。それじゃ、また来世で会いましょう?出来れば今度は良い出会い方なら嬉しいわ」


そうして彼女は俺に爪を振り下ろす。

俺の言葉に少しでも興味を持ってもらおうと言葉を選んでみたつもりだったが、やっぱ駄目か。てか本当に終わり?the end?


「待て!早まるな!考え直せ!」




「やめるのじゃ〜!!!」




1秒後に訪れる痛みに耐えるために目を閉じるが、一向に切断される気配がない。目を開けると俺を中心にドーム型の膜が貼られていた。


「………あら?ずっとそこでじっとしてるのかと思っていたけど、何?貴女も私の邪魔をするの?」


オセットは、俺の後方に目を向けている。

そこには、手を前にかざし彼女を睨むピンク髪の少女がいた。


「こ、これ以上、ユウトに手を出すな!」



シグレが張った障壁のお陰で何とか助かったが、俺を取り巻く環境変わったわけではない。絶体絶命の状況である事には変わりないのだ。

一発逆転の手がない訳ではないが、俺自身まだこの力を信用しきれてない。だが今は頼るしかない!!


「確かにとんでもない強度の壁ね?こんな魔法見た事もない。これも『賢者』のスキルで作り出した新しい魔法なのかしら?」


「お、おい!聞いてるのか!?それ以上ユウトに手を出すなと––––––」


「まぁ、この位なら問題ないわ」


そう言うとオネットは、何故か俺を指差した。


「な、何を––––––」












「ライト二ングショット」








その瞬間、彼女の指から一筋の光が発射された。それはシグレが作った膜をたやすく突き破り、俺の胸を貫いて後方へと抜ける。遅れて胸に焼けるような痛みを感じ、その場にうずくまった。


「ごほぁっ………」


痛みに悲鳴をあげる暇もなく、意識が遠くなっていく。急激に身体が冷えていき、手足の感覚も無くなっていく。


(駄目だ、ここで……俺が、倒れたら、誰……が……あいつらを……守る…………)


意識を失う直前、ティアとシグレの俺を呼ぶ声が聞こえた。


(またか、またなのか俺は。何度自分の力不足を悔やめば済む?)


ティアを、シグレを、鳴神を、そして–––––––


もうあんな思いはしたくない。大切な人を守れるようになりたい。そう思ったから強くなろうとしたんじゃないのか!?


(動け、動けよ!俺の身体!1秒で良い、1秒あれば、今の油断しているあいつを仕留められる!頼む!動いてくれ!!)


俺の意思とは裏腹に、意識は徐々に遠のいていく。意識が途切れる直前、俺の心は、自分の力では誰も救うことなど出来ない、なぜ俺はこんなにも弱いのか、といった自責と絶望の感情に支配されていた。


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


「あ………ああ…………」


目の前の光景が信じられない。

シグレが強固なドーム状の障壁を放ったことも、それを指先から放った一筋の光で貫通させたことも、そして、その光に貫かれ、崩れ落ちるように倒れたユウトの姿も……。


これはただの悪夢で目が覚めたら宿屋のベットで目が覚めるのではないか?部屋から出たら偶然鉢合わせたユウトがまた笑いかけてくれるのではないか?そう信じたいが、後頭部に感じる痛みがそれを否定する。


溢れる出る涙が止まらない。なぜ、どうして彼が死ななくちゃいけないのか?

彼のいない世界なんて–––––––––––––






「………………殺す………」


殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺スコロスコロスコロスコロス–––––––


見えない力による拘束から解放され、自由になった身体は、私の意思とは関係なく立ち上がる。その身体に宿るのは、ただ目の前の敵を殺すという意思のみ。


いつの間にか彼女の毛並みは白銀に輝き、見るもの全てを圧倒する覇気を纏っていた。


–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



「ユウト、ユウト!!しっかりするのじゃ!!目を開けんか!」


心臓を貫かれ倒れたユウトに駆け寄り、シグレは声を荒げていた。

その光景を冷ややかな目でオセットは見下ろしている。


「さて、邪魔者はいなくなったし、あとは貴女を連れて行くだけね。まったく、黙ってついて来ればこんな事にはならなかったのに……」


「ユウト!!ユウトッ!!」


「ったく、うるさいわね……もう殺しちゃおうかしら?手間は増えるけど、あいつ(・・・)なら何とかするでしょ」


「!!」


そうしてようやくシグレは自分が命の危機にさらされている事に気づく。

初めて向けられた魔族による殺意は、シグレの身体の自由を奪うには十分過ぎた。


「そうと決まったら貴女、さっさと死んで頂戴」


先ほどと同じ様に振り上げられた右腕を見つめながらシグレは祈る事しか出来なかった。


(お願いじゃ!この世に神がいると言うのなら、妾達を助けてくれ––––––!!)


右腕が振り下ろされる直前、シグレは死への恐怖から思わず目を瞑ってしまう。

しかし、いくら待てども痛みは襲ってこなかった。直後、頬を冷たい風が撫でる。

目を開けると、シグレではなく別の方を見つめるオセットの姿がある。


「……へぇ、まだそんな力があったのね?それとも愛する人の死で眠っていた力が目覚めたとか?」


言葉の意味が分からず、つられてオセットの見つめる方へ目を向ける。













「………グルルルル…………」




そこには、殺気と冷気を身に纏い、獣と化した1人の少女がいた。

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