新たな刺客
ひっさびさ過ぎて……
「これは、シグレがやったのか………?」
真っ黒い炭と化したトレントを見下ろしながら、俺はシグレに問いかけた。
「まぁ妾にかかればこんなもんじゃ。お主らも妾をもっと敬っても良いのじゃぞ?」
「確かに凄かったね。あんなに大きな魔法初めて見たよ」
確かに、今までに聞いたことのない様な音に、見たことも無い位大きな炎だった。前に一度、シグレと一緒にクエストを受けた事があったが、こんな魔法を使う所は一度も見ていない。
「お前、あんな魔法使えたんだな。マジで凄えよ!!」
「ま、まぁ、この位どうって事ないのじゃ。あれ位の魔法ならポンポン撃てるし?あんな魔物お茶の子さいさいだし?」
「どうして顔を逸らしてるんだ?」
「べ、別に逸らしてないのじゃ!」
シグレの魔法には確かに驚いた。けど、今後あのトレントが現れた度にシグレに頼っていたら、シグレに負担がかかってしまう。それは避けたい。
「シグレの魔法には驚いたが、それでも俺達とトレントは相性が悪い事には変わりない。トレントが現れたら相手せず、出来るだけ逃げる様にしよう」
「そうだね」
「妾も賛成なのじゃ」
どこかホッとした様子でシグレは頷いていた。
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辺りを警戒しながら先を進む2人の後ろで、妾は緊張の糸が緩むのを感じていた。
(無我夢中で分からなかったが、今妾は魔法を使ったのか……)
何とかしないといけない、このままではユウトが、ティアが死んでしまう。恐怖心にかられて手をかざすと、妾の願いに応えるように見たこともない巨大な炎が飛び出していた。
何度か魔法は使ったことがあるけど、今まで発動していた魔法とは桁違いの威力を持つ魔法。そんな力がある事に恐怖を感じながらも、どこか喜んでいる自分がいる。
(この力があれば、妾も戦える!やっと二人の役に立てるのじゃ!!)
正体不明の力に感謝しながら、妾は二人の後を追いかけた。
"全く、あんな雑に使ってくれちゃって………それでも僕の力を受け継いだ存在なのかい?"
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出来るだけ戦闘を避けつつ進んでいく。
しっかし進んでも進んでも辺り一面木のオンパレード。おまけに木の形をした魔物まで現れるわで軽い木恐怖症になるレベルだ。
「のう、これは本当に西へ真っ直ぐ進んでおるのか?」
「言うな。俺も怪しいと思ってたところだから」
「これってもしかしなくても迷子………」
「あーあ!行っちゃいましたよこの子!人が折角言わないでおいた言葉を!」
「そ、そうだったの?ごめんね、ユウト」
「あー、いや、別に本気で起こったわけじゃないからそんなに落ち込まないで?というか泣いてる!?あれ、ティアちゃんってそんなに涙もろかったっけ!?あーっと、その––––」
「全く、この調子で大丈夫なのかのぉ?」
そんな事をしていると、ふと辺りがおかしい事に気付く。
「なぁ、そういやここら辺に来てから、魔物を一切見かけない気がするんだが」
「確かに。言われてみればそんな気がする」
俺達が苦戦したトレンドや、小柄で攻撃的ではなかったので無視して来た『ウィードモピット』の姿が見られない。さらに、空気がとてつもなく重く感じられるのだ。そう、先日洞窟内で魔族の幹部を名乗る男『バティン』と対峙した時の様な感覚。
「やばいな。この先は」
「うん。今までとは桁違いの嫌な感じがする」
よく見てみると、奥の方には台座の様な物が存在している。リトラさんの話しだと、西の方には長年使われてなかった転移門があるのだとか。
とすると、あれが転移門か。よかった、道は間違ってなかったみたいだ。
「とりあえず、あの転移門を調べてみるか」
とりあえず転移門に近づいてみる。すると、重い空気の正体はすぐに分かった。
「なんだ?あの剣……」
転移門のすぐ横に一本の剣が地面に突き刺さっていた。漆黒で広めの刀身が特徴的で、柄と一体の構造となっている。長さは俺の持つ『ダーク=ブレイブ』と同等。バスタードソードと呼ばれる部類だろう。グリップには刀身と同じ漆黒の細い皮が密に巻かれている。鍔は、触れれば切れてしまうのではないかと思うほど鋭く、美しい。
その剣に意識が吸い寄せられていく。深くてとても暗い闇の中に飲み込まれていくように感じる。どこまでも、どこまでもフカク、すべテのみコンデ––––––
「「ユウト!!」」
「ッッ!!」
ティアとシグレの声で一気に現実に引き戻される。気づけば俺は無意識のうちにその剣を引き抜こうとしていたようだ。
「わ、悪い。ちょっとぼーっとしてたわ」
「びっくりしたよ。この剣を見た瞬間に、ブツブツ呟きながら進んでいくんだもん」
「挙げ句の果てに、見るからに危険なそれに触ろうとしてるんじゃからのぉ」
「俺にも良く分からないんだよ。気づいたらこうなってて……」
正体不明の出来事に頭を悩ませていると、突然女性の声が聞こえて来た。
「魔王様〜!!!」
転移門から出てきたらしいその女性は、あろうことか俺めがけて全力疾走。そのまま俺に抱きついてきた。
「魔王様魔王様魔王様魔王様魔王様〜!!!」
「ちょっ!?誰!?」
慌てて引き剥がそうとするが、その女性は、女とは思えない力で引っ付き、離れようとしない。
「まさか魔王様自らエルフ領に行かれるとは、私惚れ直してしまいましたわ!逞しい–––––一歩手前の腕!厚い–––––とまではいかない胸板!そして圧倒的なオーラを––––––纏ってない?あれ、おかしいわね?」
「「「…………」」」
この人、頭大丈夫か?あまりにも早口でまくしたてるから突っ込みたくても突っ込めなかったんだが………
ティアとシグレも同じ感想を持ったのか、口を開けてポカーンとしている。
「って、よく見たら別人じゃない!?魔王様の魔力を真似するなんて、なんて小賢しい」
あ、ようやく気づいたのか。
「あ〜あ、危なく敵の罠にはまる所だったわ。貴方達中々やるわね」
いや、貴女が勝手にやって来て勝手に抱きついて来たんですが……
それに罠なんてかけた覚えは一度もない。
「まぁいいわ。貴方達、『賢者』って言葉聞いたことない?」
なんだこの図々しさ。人様に迷惑かけて、挙げ句の果てに上から目線。この人絶対にモテないな。
「ある」「あります」
あれ、口が勝手に動いた!?なんで!?
他の二人も同じようで口を押さえて驚いている。
「………おかしいわね。3人全員に対して聞いたはずなんだけど。まぁいいわ、じゃあそっちの失礼な小僧と獣人の女の子、賢者は何処にいるの?」
「誰が–––––」
失礼な小僧だ!と抗議しようとしたが、口が思うように動かない。しかし、俺の意思とは関係なく口は勝手に動く。
「「分かりません」」
「そう……何処で聞いたのかは聞かないでおいてあげるわ、時間の無駄だし。じゃあそっちのおチビちゃん、貴女は聞いた事ない?」
「誰がチビじゃ!?妾は立派なれでぃじゃぞ!」
「「「………」」」
「なぜお主らまで黙るのじゃ!?哀れむような目で見るでない!!」
ま、まぁそういう事にしておくか。将来の事は誰にもわからないし。たとえ70歳でその体だとしても、希望は捨てちゃダメだ。
「………んふふふ。そういう事。これは手間が省けたわ」
どういう事だ?手間が省けたって––––––
「一緒に来てもらうわよ、賢者さん?」
これからものんびり投稿していきます。
気長にお待ちください。




