閑話 ある女の子の話1
短いです。
倒れながら目にした光景は、
私達めがけて迫るトラック、私を突き飛ばす彼の手、そしてトラックに押し潰され、血が飛び散る瞬間––––––
目が覚めた時、私の目の前に広がったのは見慣れない白い天井だった。
状態を起こして周りを観察すると、白いカーテンに白いベッド、窓から見える景色にも見覚えがない。
どうやらここは病院らしい。
暫くぼーっとしていると廊下から、カツ、カツと音が聞こえてくる。
廊下から聞こえる足音が次第に大きくなり、私の病室の扉の前で止まるのが分かった。数回のノックと共に扉が開かれ、一人の女性が入ってくる。私のお母さんだ。
お母さんは、私が起きているのを確認すると涙を流し、急いでベッド脇のナースコールを押した。その後私を抱きしめて、「よかった、本当に良かった」と何度も呟く。
それから父が来るまで、私は静かに母の頭を撫で続けた。
暫くして、白衣を着た医者が一人入ってきた。
どうやら、あの事故から1日が経過しているらしい。丸一日眠っていた事になる。
私の症状としては、軽い脳震盪で命に別状は無いらしく、明日には退院が出来るそうだ。
ホッとすると同時に胸の奥に僅かに痛みを覚えたけど、すぐに消えてしまったので気にしない事にした。
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事故に遭ってから一週間が経過した。幸い後遺症などもなく、今まで通り学園に通っている。
「あ、宿題やるの忘れた……」
教室でカバンを下ろしてから呟く。今まではこんな事一度も無かったはずなのに。
『そういえば–––––君。今日で冬休み終わるけど、ちゃんと宿題やったの?』
『あぁ、ちゃんとやったよ。答えが合ってるかは知らないけど』
ふと頭をある光景がよぎる。私が誰かと話してる?そんな記憶無いはずなのに。
楽しい、もっと話していたい、一緒にいたい、そんな気持ちがこみ上げてくる。なのに、相手の顔は靄がかかっているかの様に思い出せない。同時に、今までに感じたことのない頭痛が襲ってくる。
「うっぐッッ…………!!」
「鳴神さん?大丈夫?」
「どうしたんだ、鳴神?」
クラスメイト達が私の様子を心配して声をかけてくれた。心配しないで、と返事をしようとするが、頭痛が酷くなり言葉にするのも困難になる。
そのまま私はまるで糸が切れた人形の様に床に倒れてしまった。
頭痛と戦っていた間、頭の中で響いていた声はどこか懐かしくて、優しくて、逞しくて、そして–––––––––
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気がつくと、少し大きめのベッドに横になっていた。なんか私、こういうのばっかりな気がする………
どうやらまたしても気を失って倒れてしまったみたいだ。
「気分はどう?」
白衣を着た女性が声をかけてくる。保健室の先生だ。だとすると、ここは学園の保健室か。
「少し頭痛がしますが、それ以外は問題ありません」
「そう。まだ頭痛がするなら、暫く横になってなさい。もしくは早退する?」
「………今日は早退してもいいでしょうか?」
「分かったわ。じゃあクラスの子に伝えて荷物持って来てもらうから、それまでは横になってなさい」
「分かりました」
そう言うと、先生は保健室から出て行った。
多少治まって来たが、先程から頭痛が止む気配がない。まるで何かを伝えようとしているみたいに。
私は何かを忘れている。それを思い出さなきゃいけない。そんな使命感を覚えながら一方で、それ以上は思い出してはいけないと本能が警告してくる。
でも––––––
『ありがとな。お前のお陰で毎日が楽しいよ』
『お前は俺の母親か………』
『俺は、誰かを守るために強くなりたい。困ってる人全員を助けることは出来なくても、手の届く所にいる人は守りたいって思うようになったんだ』
『おまえを守ってやる。約束だ!!』
『鳴神っ!!』
「やっぱり、思い出したい……」
頭の中で響いていた声は、不思議と私に力を与えてくれる。
あの人の事を絶対に思い出す。私は決意を新たにした。
この子、誰って思った方は1、2話を読み直して見てください。




