捜査開始 その2
「こらこらこら、自然に妾を置いて行く流れにするでない!」
族長の家を後にしようとした俺達を、若干涙目になりながらシグレが止めに入った。
「久しぶりの親子の再開に口を挟むのもどうかと思って、気を利かせたつもりだったんだが」
「余計なお世話じゃ!!」
本当の理由はまだ戦闘に慣れていないシグレを連れて行ったとして、俺が彼女を魔物から守る程の余裕が無くなるだろうと思ったからなのだが、正直に話せば彼女は傷つく。
まぁ半分くらいは親子の再開を邪魔したく無いって言う気持ちもあるが。
「妾も連れてってくれ!お願いじゃ!」
「そうだそうだ!ターニャたんの言うことを聞け!この馬の骨!」
「あんたまで何言ってんだ!?」
さっきまでシグレの動向を反対していたリトラさんまで声を荒げている。と言うか馬の骨って………
とにかくリトラさんに問いたださないと。
「リトラさん、さっきまで娘は置いていけとか言って–––––」
ガクン––––
そうして近づこうとした時、何故か盛大にこけていた。
「ユウト、大丈夫?怪我はない?」
「あぁ悪い……自分の足に躓いたみたいだ。心配ない」
何もない所でこけるとかツイてないな……
「それよりどう言うことですか?リトラさんはシグレの留守番には賛成だったんじゃないんですか?」
「まぁ確かに?お前みたいな何処の馬の骨ともしれない奴にシグレを任せるなんて事は死んでもごめんだが、それ以上にターニャたんに嫌われる事の方がもっと嫌なんでな」
「おい、ユウトは馬の骨ではない。訂正するのじゃ」
「申し訳ありません」
父親なのに娘に指図されると言うのはどうなんだろう……もう少し親としての威厳とかあった方が良いんじゃないのか?
「まぁそういう訳だ。私の気が変わらないうちに行け」
「えっちょっ待っ」
「さぁ出発なのじゃ〜!!」
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
場の雰囲気に流されて3人で来てしまった訳だが……
「なぁシグレ、今からでも遅くない。リトラさんの所に戻らないか?」
「ダメじゃ。そもそも妾もお主らの仲間じゃろ?危険な所へ行くというなら尚更一緒でないとダメじゃろ」
「正確には、パーティーに入ってないからまだ仲間じゃないよ?私達がシグレの面倒を見てる形かな」
あぁ、確かにコガラシさんに『シグレの面倒を見てやってほしい』とか言われてたな。一緒にクエストとか行ったりしてたから、てっきり仲間だと思ってた。
「…………まぁそこのところは今はどうでもよいのじゃ。とにかく、妾も行くと行ったら行くのじゃ!」
「まぁ、そこまで言うなら止めないけど、危なくなったらすぐに逃げろよ?」
「任せるのじゃ!こう見えても妾は逃げるのは得意なのじゃ」
まぁ、何とかなるだろ。いや、俺が何とかするしかない。
「…………アルトニカの城下町に行ったら妾もパーティーに入れて欲しいのじゃ」
「はいはい………」
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「セァッ!」
ハーネライムを出発して約10分程、俺達は一体の魔物と対峙していた。全長3メートルは超える巨体に鞭のようにしなる長い手。エルフ領で頻繁に出現するとされている『トレント』だ。
トレントは大木の形をした魔物で、頭に無数についている葉は、薬草として重宝されている。普段はおとなしいらしいのだが、こいつは俺達が横を通りかかった瞬間に襲いかかって来た。
止む終えず応戦して今に至っている。
「シグレは下がっててくれ!ティア、俺があいつの注意を引くから、横から攻撃してくれ!」
「分かった!」
指示を飛ばすと同時に、俺はトレントへと斬りかかる。
しかし、その攻撃は手のように動く枝によって防がれる。
「か、硬ぇ………!」
しかも俺の相手をしながら、もう1つの枝でティアを攻撃している。俺の事など眼中にないみたいだ。
「なんか、腹が立つな……」
こうなったら枝の1つや2つ切り落とさないと怒りが収まらない。
俺は、一度トレントと距離を取り、態勢を整える。
「『神速』!!」
一瞬でトレントの懐に潜り込み、勢いのままに目の前の枝へと一太刀入れる。
ズドン!と大きな音を立てて枝が地面へと落ちる。
「斬れた………!」
「ユウト!!」
枝を斬り落として油断していた俺は、横から襲いかかるトレントの攻撃への反応が遅れてしまった。
「しまっ–––––」
ドガッ!!
盛大に攻撃を喰らい、大きく飛ばされてしまう。
「カハッ––––」
肺にあった空気が強制的に外に吐き出され、一瞬の呼吸困難に陥る。頭が正常に働かない。体が言うことを聞かない。
半ば無意識で視線を前に向けると、俺を殴り飛ばしたトレントが無傷で立っている。
斬り落とした枝は………?
確かに斬り落とした筈の枝は、地面に転がっている。まさかこいつ、あの一瞬のうちに再生したのか!?
だとしたら、こいつは俺達とは相性が悪い。
「みんな……逃げ………」
2人に逃げるように叫ぼうとしたが、腹部に受けたダメージで、思うように声が出ない。
目の前のトレントは、俺に目掛けて枝を振り下ろし–––––
「ファイアショット!!!」
ドゴォン!!!
大音量の衝撃とともに、目の前のトレントが火に包まれる。散々俺達を苦しめたその巨体は、一撃で葬り去られた。
「これは………?」
辺りを見渡すと、そこには–––––––
「ど、どうじゃ!妾だって、こ、これくらいは出来るのじゃ!………はぁ、はぁ」
足を震わせ、涙目になっているシグレがいた。




