八英雄
更新だいぶ遅れてしまって申し訳ありません。青の剣士です。
只今絶賛スランプ中……
色々書きたい話はあるのに、それが繋がらないのがもどかしいと感じてしまいます。
そんなスランプにもめげずに頑張っていきたいと思います。
––––––ティア視点––––––
「ここだ」
城の中に通された私は、とある大きな扉の前まで連れてこられた。
「私は中に入る事は許されていない、よってここからはティア殿一人でお入りください」
「分かりました」
言われた通りに扉を開けて部屋へと入る。
視界に入ってきたのは、広大な空間、一つの道の様に部屋の奥へと続く赤いカーペット。その先には横に長い階段があり、その上に一人の女性が座っていた。
肩の辺りまで伸ばしているブロンドの髪と、白いドレスが気品を感じさせる。
唐突にその女性が口を開いた。
「貴女がティアですか?」
「は、はい、そうですが……」
「私はアルトニカ王国第二皇女、"ルデア=フェイル=アルトニカ"と申します。貴女の噂をお聞きしてからぜひ会いたいと思っていました」
「はぁ……」
穏やかな笑顔を浮かべながら彼女は私にそう言った。ユウトから聞いていた印象とはかなり違う。陰口の一つでも言われる覚悟はしてたんだけど……
それに噂と言われてもピンと来ない。どんな噂をされてるんだろう?
「ギルドマスターの娘を救って、更に森のヌシを単独で撃破したとか」
「それをやったのは私じゃなくてユウトなんですけど」
「………え?」
私が真実を言った瞬間、明らかに皇女様が動揺したのが分かった。
そんなに驚く様なことを言ったかな?
「………コホン。えー、今回貴女を呼んだのは、この世界に訪れているであろう危険について説明するためでして––––––」
「あ、誤魔化した」
「誤魔化してません〜、あの方が生きてると知って安心なんてしていません〜」
分かりやすっ!?というかこの人、本当は良い人なんじゃないだろうか。
「いや、でも–––––」
「今の事は忘れてください」
物凄い勢いで睨んできた。有無を言わせない必死さに思わず頷いてしまう。
「了承してもらえた様なので話を続けたいと思います。貴女を呼んだのは、この世界の平和を脅かす危険について話しておこうと思ったからです」
「危険?」
それって、魔物とかってことじゃないよね?魔物なら今もいるし、わざわざここに呼んでまで話すことじゃない。
「貴女も見て、そして実際に体験したはずです。"魔族"の恐ろしさを……」
「ッ!!」
魔族、緊急クエストの時に現れたのはまだ記憶に新しい。あの時私は手も足も出なかった。結果的にはユウトが追い払った形にはなったけど、確かにとてつもない強さだった。
「私の所に届いた情報によると、魔族は何かの命令に従う形で撤退したとの事です。つまり、彼らに指揮官の様な存在が出来たという事です」
「それが意味するのは………」
「えぇ、魔王が誕生したと見て良いでしょう」
かつて世界を絶望の渦に巻き込んだ『魔王』。そんな存在がまた復活しようとしている。
にわかには信じられないが、実際に魔族が現れ、目的を持って行動していた事がほぼ確定している以上、信じるしかない。
「かつて魔王を倒した者達には、それぞれ強力な固有スキルを持っていたそうなのです」
「固有スキル?」
「【勇者】【創造者】【能力増強】【白銀ノ狼】【賢者】【龍王】【万能】、これらのスキルを持つ者達は、『八英雄』と呼ばれ魔王から世界を救うと言い伝えられているのです」
そんな話聞いたこともなかった。
ってちょっと待って?今【白銀ノ狼】って言った気がするんだけど……
「どうして私にそんな話をするんですか?」
「私は貴女が先程言った八つの固有スキルの内、どれか一つを所持しているのでは無いかと考えています。恐らくは【白銀ノ狼】だと思いますが」
言い当てられた事に内心驚いてしまう。
「なぜそう思うんですか?」
「森での一件、森のヌシを倒したのは氷結系の魔法でした。しかも森一帯を凍らせ、環境すら変えてしまう程の威力を持つ。そんな魔法を使う事が出来る者は、『八英雄』の固有スキルを持つ存在しか思い付きません」
迷いなく喋る姿を見る限り、彼女はほぼ私が固有スキルを持っているという事を確信してるみたいだ。
「もし、私が固有スキルを持っていたとして、私に何をさせたいんですか?」
「私からの願いはただ一つ、この世界を貴女の手で救ってほしいのです」
「……私がですか?」
「えぇ」
いきなり呼ばれてなんの話かと思えば世界を救ってほしいとか、なんの冗談だろうか。
「他の人では駄目なんですか?ほら、他にも『八英雄』の固有スキルを持ってる人がいるはずですし」
「それが、私が見つける事が出来たのは貴女だけなんです。『八英雄』の固有スキル保持者が現れるのは極めて珍しいので……貴女を見つけたのも本当に偶然なんです」
「ですが、私には出来ません。世界を救う程の力なんて持ってませんし、私には荷が重すぎます」
「そうですか……それでは仕方ありません。まだ焦る時期でも有りませんし、今回は説得は諦めましょう」
随分とあっさり引いてくれた。"今回は"の部分が少し引っかかるけど。
「ですが、その内貴女は必ず世界を救う為に動く事になります。その事は忘れないで下さい 。大切な人を守りたいのならね」
「分かりました」
ついでに気になる事を聞いておこうかな。
「二つほど質問があるんですがよろしいですか?」
「どうぞ」
「『八英雄』についてなんですけど、先程の話だとスキルが7つしか無いんですが……」
「えぇ、本当はスキルは8つ存在していたはずなんです。そしてその最も世界の平和に貢献した者でもありました。ですが、その人に関する記録だけが一切残っていないのです。スキルはおろか、名前等の情報も全て」
「そうなんですか」
その人がいたという事実はあるのに記録だけが残されていないなんて、なんか不思議だなぁ。
「二つ目なんですが、貴女方はここで"勇者"を召喚していると聞いた事があります。それはつまり、先程の話しに出てきた【勇者】の固有スキルを持っている人物を召喚しているという事ですよね?」
「えぇ、そうですが」
「じゃあ、既に【勇者】の固有スキルを持っている人がいるはずでは?」
「そうだったらどれ程良かったか……」
「???」
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「くしゅん!!」
「どうしたのじゃ?ユウト」
「風邪気味なのかなぁ……」
「なんじゃ?だらしないのぅ。体調管理はキチンとせんといかんぞ?」
見た目中◯生の女の子に説教される俺、なんか情けないな……
ギルドの中に入った俺達は、近くのテーブル席に腰掛けていた。勿論、シグレに色々説明する為だ。
「それより、何故あの時強く主張せんかったのか白状するのじゃ!」
「はいはい、ちょっと待ってろ」
あの、ルナさん?少し良いですか?
"どうしたの?"
今からシグレにルナさんの事を説明しようと思うんですけど、俺に乗り移ってくれませんか?
"あぁ……それは無理ね"
どうしてですか?
"いい?私は【白銀ノ狼】を通して貴方に乗り移ったの。取り付くだけならまだしも、体を乗っ取るにはそれなりに力が必要なのよ"
ふむふむ。それで?
"今の私には貴方の体を操る力は無いってこと。あの子がいれば、あの子の中に眠ってるスキルの力を借りて乗っ取る事も出来るんだけどね"
成る程、要はティアが近くにいないと十分な力が出せないし、俺の体を乗っ取る事も出来ないと。分かりました。
"あと、出来るだけ私の事は周りに言わない方が良いわよ?"
どうしてですか?
"もし私の––––【白銀ノ狼】の力を使えるなんて知られたら面倒でしょ?力目当てに付け回されたり、危険な力を排除する為に命を危険に晒したくは無いわよね?"
了解しました。まぁ、ルナさんの事を説明する人は俺が信用している人だけにするつもりなんで、あまり心配しなくても大丈夫だと思います。
"そう、ならいいわ。あと、私と話す時も別に畏まらなくたって良いわよ?"
分かりま––––分かった。じゃあ今度からはそうするよ。
"それじゃあね?"
あぁ。
「何ボーッとしてたのじゃ?」
「あぁ、何でもないよ。それより説明だったよな」
「変な奴じゃのぅ……まぁよい。さっさと話さんか」
どんだけ気になってんだよ……これ以上待たせると面倒臭そうだし、さっさと説明しちまうか。
そうして俺はシグレに、ティアが持つ【白銀ノ狼】の事、それを俺がコピーした事、その際に先代の【白銀ノ狼】が俺に取り憑いた事を大まかに伝えた。
「話は分かった。じゃが、森のヌシを倒したのはお主に変わりはないはずじゃろ?何故訂正しなかったのじゃ?」
「店で言っただろ?あれは俺であって俺じゃない。要はあれは俺じゃなく、ルナ–––先代の【白銀ノ狼】が俺の体を乗っ取って力を行使した結果なんだよ」
だからあの結果を素直に喜ぶ事は出来ない。みんなが無事だった事は嬉しいが。
だから今度は俺の意思で守らなくちゃいけない。他の誰でもない、俺の意思で。
「成る程のぅ……まぁ、最終的にはそうだったとしても、結局はユウトのお陰ということじゃな」
「は?」
「確かに森のヌシを倒したのは先代の【白銀ノ狼】だったかもしれん。じゃが、妾を助けようと奮闘し、ボロボロになりながらも力を振るったのは紛れもなくお主じゃ。じゃから、妾はお主に助けられたと思っておるぞ?」
この子はこんな風に思ってたのか……嬉しすぎてなんか泣きそうだ。
この子の前で泣くのは御免だったので、誤魔化す為に頭を撫でておく。
「あ、おい!勝手に撫でるでない!やめるのじゃ!」
抗議してはいるが、その顔には笑みが浮かんでいた。
この笑顔を守れてよかった。
俺は初めて心の底からそう思うことが出来た。
『八英雄』の固有スキル、一体どんな力を秘めているんでしょうか?
そして、そのスキルを使う事になる人とは一体……




