パートナー
今度、ツタヤリング大賞に応募する事にしました。受賞とかは考えてないけど、応募する事で知名度が上がってくれると嬉しいです。
この作品を読んでくださっている読者の方々、いつも読んでくださって有難うございます。
これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。
「さて、私の邪魔をするのは誰かしら?」
巨大な魔物を吹き飛ばしたのは、今まで重症を負って倒れていたユウトだった。
しかし、その動きや言動はいつも私が見てきたものとは明らかに違う。まるで別人みたいだ。
ユサムは信じられない物を見るかの様に固まっている。無理も無い。先程まで大量に血を流し、死ぬ直前だった人間がいきなり起き上がり、今まで手も足も出なかった魔物を一撃で吹き飛ばしたのだから。
しかも先程の傷は、まるで何もなかったかの様に塞がっている。
「……貴方は、誰……?」
「本当は色々と話したい事があるのだけれど、時間が無いの。それはまたの機会に。それよりもまずは、あの子を倒す方が先だわ」
身体はユウトの物なのに、そこから発せられる女性の様な話し方という事に凄い違和感を覚えてしまう。
「とりあえず貴女は、彼とそこで木に縛られてる子を連れて離れてなさい。あの子は私が片づけるから」
「え?は、はい……」
言われるままに私はシグレさんを解放し、ユサムさんとこの場を離れる。
その後ろでは魔物の咆哮が盛大に聞こえた。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
「……行ったわね」
私の目の前には、先程まで暴れ回っていた魔物が私を威嚇する様に咆哮していた。
「低俗な獣の分際で私に楯突くとは、身の程知らずもいい所だわ」
それに自分の力も制御出来ていない。振り下ろした足は地面を深く抉り、爪は木々を切り倒している。
「格の違いを教える必要がありそうね……」
私は手を前にかざす。それにしてもこの身体、本当に動きやすいわね。まるで本当の自分の身体の様に動いてくれる。
「山奥より吹き荒れる吹雪・彼の者は一人佇む––––––」
詠唱を開始する。唱えるのは【白銀ノ狼】保持者の私だけが使えるオリジナルの魔法。
何人たりともこの束縛から逃れることはできない。四肢が凍り、動かせなくなるほどの凍てつく冷たさ–––––
「全てを憎み、全てを妬み–––––」
軽く地面を蹴り私は魔物に接近した後、その体に触れる。
魔物は、触られた事に気付いていない。
「何もかもを、拒絶する––––"エターナル=アイソレーション"」
その瞬間、魔物がまるで石像の様に動きを止めた。身体中から冷気の様なものを発し、微動だにしていない。
私は動かなくなった魔物を突き飛ばす。
すると魔物は粉々になってしまった。
「あ……殺しちゃった……まぁいいわ。最終的には殺す予定だったし。私的にはいいパートナーも見つかったし、上出来よね」
そう言って自分の身体を見下ろす。
見た目はどこにでもいそうな体格。でも、適応率が異常に高い。こんなに高い適応率を見せたのは、歴代の【白銀ノ狼】保持者の中でもいなかったわ。
あ、彼は【白銀ノ狼】保持者では無かったわね。
「少し無理をし過ぎたかしら……身体が重い……」
そのまま地面に倒れてしまう。
「ムラサメユウト……か……」
彼の名前を呟きながら、私の意識は沈んでいった。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––
目が覚めると、見慣れた天井が見えた。
俺、いつの間に宿に戻ってきたんだ……?
「やっと起きた」
「うおっ!?」
俺の独り言に反応したティアに驚いてしまった。と言うかティアいたのかよ……全然気づかなかった。
「もしかして、ティアがここまで運んできてくれたのか?」
「シグレさんを送り届けてから見に来てみたら、粉々になった魔物の横で倒れてるんだもん!びっくりしたよ」
魔物?それに粉々?どういう事だ?
「すまんティア、俺あの時の事覚えてないんだ……何があったか教えてくれるか?」
それからティアは、俺が気を失った後の事を教えてくれた。
巨大な魔物が現れた事、一時的にユサムと共闘をした事、そしてその魔物を一撃で吹き飛ばし、氷漬けにした後、粉々にした俺であって俺でない存在……
と言うか、俺が気を失ってる間にそんな事になってたのか。知らなかった。
「それであれはどういう事なの?ユウト」
「あぁ、あれは……まぁ、俺の別人格みたいな物だ。俺の身体が危険に陥った時に出てくるみたいだな」
「ユウトの別人格って、あんな女性みたいな喋り方なの?」
「ルナの奴……素のままで喋ってたのかよ……」
おいルナさん!俺の身体で喋ってんだからもうちょっと配慮してくださいよ!俺の身体で女口調で喋るとか誰得ですか!?
「ねぇ、ルナって誰?」
「え?」
「だから、ルナって誰?」
あの、ティアさん?鳴神の時といい、今といい、的確に女性の名前が出てきた時に過剰に反応するの止めませんか?
貴方の後ろから出ている黒いモヤが不気味で怖いし、何より俺の心臓に良くないから……
「ルナさんは、俺の身体に一時的に取り憑いている人で、幽霊みたいなもんだ。先代の【白銀ノ狼】らしくて、一度俺が【白銀ノ狼】を発動したからその時に取り憑いたらしい」
「それって女の人?」
「そうだけど……」
「その人がユウトと身体を共有してるって事……?よし、殺そう」
「いやもう死んでるし、しかも命の恩人だぞ?そんな人に殺すなんて使っちゃダメだ」
「ユウトがそう言うなら……」
ティアは急に暴走するからな……
"何その子?凄い怖いのだけれど"
ん?この声はルナさんか?
"えぇ。貴方の身体も安定してきたみたいだから、少し話しかけてみたの。血を共有した今なら、こんな感じで意思の疎通も可能になるのよ"
へぇ、そうなのか。まぁ、一度ゆっくり話してみたかったからそれは有難いな。
"やだ何?私を口説くつもり?"
違ぇよ!!どこの世界に死人を口説く奴がいるんだよ……
"まぁそれは置いといて、私に用がある時はこうして念じてくれれば何時でも答えてあげるから"
了解しました。まだこの世界に詳しいわけじゃないから、そっち関連でも何か聞くかもしれないですけど、その時はよろしくお願いします。
"任せておいて!それよりその子よ、その子!"
ティアがどうかしたんですか?
"なんで私に敵意剥き出しなのよ!?私悪い事したかしら?"
俺にも分からないです……彼女は偶にこうして怒り出す時があるんですよ。
"そうなの?とにかく何とかしてあの子の私に対する敵意を消して頂戴"
そんな無茶な……だってなんで敵意を向けられてるのかも分からないんですよ?それなのにいきなりそれを消せだなんて……
"とにかく消して頂戴!じゃないと私があの子と話す時、ややこしくなるから"
人使い荒すぎだろ……とにかく、今日はネフトさんに依頼の終了報告をしなくちゃいけないので、この位で勘弁して下さい。
"いいけど……絶対なんとかしなさいよ?いいわね?"
分かりましたから!ちゃんとやりますから、心配しないで下さい!
"それじゃ、また逢いましょう?"
えぇ、また次の機会に。
「ユウト?どうしたの?突然黙ったりして……」
「え!?あ、あぁ何でもないよ」
これからは余り人前ではルナさんとは話さないようにしよう……
「それよりティア、"ユウト"って……」
「あぁ、うん。駄目かな?」
「いや、やっと呼んでくれたと思って」
今まで頑なに俺を呼び捨てでは呼ばなかったからな……距離を取られてる気がしてちょっと悲しかったんだ。
「前は命の恩人を呼び捨てなんて出来ないと思ってたけど、ユウトは私のパートナーだから、このままじゃいけないと思って直してみたんだ。どうかな?」
「あぁ、嬉しいよ」
「そう?良かった!」
ティアが満面の笑みを俺に向ける。うん、やっぱりティアは笑ってる方がいいな。
"ちょっと!貴方のパートナーは私でしょ!?ちゃんと否定しなさいよ!"
だから貴女はいきなり出て来るなよ!?それと何勝手にパートナーって事にしてるんですか!?
こうして、騒がしかった1日が終わった。
とりあえず、ギルマス失踪事件は解決です。
次回、勇人、家を買う。




