表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トレース・ファンタジー  作者: 青の剣士
第0章 導入部
2/40

閑話 過去の約束

勇人の過去の話です。


9/21 指摘貰ったので、叢雨 勇人(主人公)の容姿を追加で書きます。


叢雨 勇人:黒髪黒目。髪は少し長めで、前髪が少し

目にかかる程度。身長は172cmで中肉中背。顔は良くもなく悪くも無い感じ。

俺が剣道を習い始めたのは小学校二年の頃だった。きっかけは親に近くの道場に連れて行かれたからだったけど、それだけなら俺はすぐに剣道を止めていたかも知れない。


一目惚れだった。あ、いや別に彼女の容姿に見惚れてたわけじゃないよ?腰の辺りまで伸びた艶やかな黒髪が素振りをする度にフワってなって綺麗だとか、歩く仕草が魅力的だとか、そんなことは一切考えてなかった。

彼女の振る剣には意志のようなものが感じられて、綺麗だと思った。俺もあんな風になりたい。あの子のようになりたいと思って夢中になって見ていた。突然こっちを見たときはビックリして逃げちゃったけど…。


最初は道着の着方や畳み方や正座など、イメージしていた剣道とは違うことばかりを教わった。退屈だと思ったけど、あの子のような剣を振るのに必要なんだと思ったら不思議と苦じゃ無くなっていた。礼儀作法を覚えないと竹刀が持てないらしい。それはもう全力で覚えさせてもらいましたとも。


しばらくすると、ようやく竹刀を持つことが許され、摺り足と竹刀の振り方を教わった。あの子の動きを頭が覚えてたからかすんなり竹刀を振ることができた。教えてくれたおじいさんから「君本当に教わるの初めて?」と言われ、みんなから凄い凄いと褒めて貰ったけど、その時は適当に聞き流してたっけ。あの子の剣はこんなもんじゃ無いと自分に言い聞かせ、必死で自分の動きをあの時の彼女に近づけるように繰り返し練習した。


ある日、初めてあの子から声をかけてくれた。緊張しまくって素っ気ない態度で返事してしまった。あの子はなんか不機嫌だったけど、初めて会話できて凄く嬉しかった。


道場に入って二年位たった頃、初めて俺からあの子に声をかけた。


「あの!」


「?」


「きょ、今日はいい天気ですね?」


「今日は曇りだけど…」


「そ、そうだね。空一面が灰色で疑いようがない位曇りだね…アハハハ…」


その時俺は同年代の子とどう話していいのか分からなかったから、両親から聞いて何回も挨拶を練習してた記憶があるんだが…これは無いな。

結局その日の会話はそれだけだった。

それでも諦めきれなかった俺は何度も何度もあの子に話しかけた。全く相手にしてくれなかったけど…


そんなことが一週間続いた。そういえば、俺はあの子の名前も知らないことに気づいた。今度会ったらその時は名前を聞こうと誓った。

そうしてその日も俺はあの子に話しかけようとしたんだが、鍛錬が終わった頃にはあの子の姿は無かった。


自主練の為に道場の裏庭に行ってみたら、あの子が同級生の門下生数人に話しかけられていた。俺は建物の影に隠れて様子を伺う。


「おい!じいちゃんの家の子でちょっと強いからって調子に乗ってんじゃねぇ!」


「そんなつもりはないんだけど」


ちなみに師範のおじいさんのことをみんな"じいちゃん"と呼んでいる。その呼べとじいちゃんが道場に入った初日に言っていたからだ。あの人達が何に怒ってるのかよく分からなかったけど、なんか嫌な感じがした。そのまま何かを言い合っていると


「もう怒った!俺たちの強さを証明して、調子に乗れなくしてやる!」


門下生の一人が手にしていた竹刀を振りかぶった。それを見た瞬間、俺の体は無意識のうちに動いていた。


パンッ!!

俺の手にしていた竹刀と門下生の竹刀が交錯し、派手な音が鳴る。


「お前!邪魔してんじゃねーよ!」


「暴力の為に竹刀を使うのはダメだった気がするけど?」


「うるさいっ!」


手にした竹刀に力を込めて相手を押し返す。

相手もその勢いを利用して距離を取り竹刀を両手で握りなおした。対人戦は初めてだけど、鍛錬の時とは違った緊張感があるな。


「君は逃げて」


「えっと……」


とりあえず、地べたに座り込んでる彼女を起き上がらせ、逃げるように促す。後ろに人がいたんじゃ戦いにくいったらありゃしないし。


改めて門下生の子と対峙する。あいつは俺よりも一年早くこの道場に入門したらしいから、対人戦とかやったことがあるんだろうな。なんか勝てる気がしないんだが…

とりあえず、相手の動きを観察する。まだこちらの様子を伺ってるのか未だ仕掛けてくる気配は無い。それなら、こちらから仕掛け–––––


「ゴラァ!!なぁにしとるんじゃ!」


「あいたっ!」 「いてっ!」


–––––ようとした瞬間に頭に強い衝撃が–––ってこれゲンコツだ!めっちゃ痛ぇー!!でも相手の子は竹刀で叩かれてるからもっと痛そう…

痛みが引かないまま俺たちはじいちゃんに連れ戻され、そのまま一時間説教をくらった。まだ頭痛いし…


––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––


説教の後家に帰ろうとすると、門下生と話してた彼女が門の前で待っていた。


「あ、あの!」


「な、なに?」


やばい、なに言われるんだろう。あれか?余計なことするんじゃないとか言われるのかな?まぁ彼女の動きはずっと見て手本にしてたから、強いんじゃないかとは思ってたけど…


「今日は助けてくれてありがとう」


「え?あ、あぁあれは偶々通りかかって勝手に体が動いただけだから気にしないでいいよ」


「どうしてあそこに居たの?」


やっぱり気になるよな…なんで俺があそこに居たか。適当に誤魔化してもいずれ気づかれるだろうし、言った方がいいか。


「…誰にも言わないでくれよ?」


「うん」


「俺いつも鍛錬が終わった後、あそこに行って自主練してるんだ」


「自主練!?あの鍛錬の後に?」


「あ、あぁ…」


俺はまだこの道場に入ったばかりだから他の門下生達とは比べ物にならない位に弱い。それでも強くなるためには他の人よりももっと鍛錬をしないといけない。でも他の人には余り知られたくなかったから、こっそり裏庭で鍛錬してたんだが…やっぱ知られると恥ずかしいな


「そっか…自主練…」


俺の説明を聞いた彼女はそのまま何かを考えているらしい。やがて思いついたのか、明るい顔で俺に言った。


「そうだ!その自主練、私も参加していい?」


「…え?」


今なんて言った?参加?ってことはあの剣を間近で見られるのか?


「…マジで?」


「ダメ?」


「全っ然!むしろこっちからお願いしたいくらいだから!」


「本当!?」


「あぁ」


これは願ってもないチャンスだ!意図せずに一緒に鍛錬出来るようになった!


「じゃあ決まり!あぁ、あと今日のことでお礼がしたいんだけど、何かない?」


「いや、だからあれは偶々通りかかっただけだから気にしなくても–––––」


「それじゃ私の気が済まないの!」


そう言われてもな…う〜ん………あっ!そうだ!


「じゃあ、君の名前を教えてよ?俺まだ君の名前知らないんだ」


「あ…そういえばそうだね。私は"鳴神 光里"です。宜しくね!」


ナルカミ…ナルカミ…ん?鳴神って–––––


「鳴神って、この道場の–––」


「そう。私のおじいちゃんは、ここの師範をやってるの」


「マジか」


「マジよ。じゃあ貴方の名前も教えて?私も知らないから」


そういや俺も名乗ってなかったか。


「俺は"叢雨 勇人"だ。宜しく」


「じゃあ明日から宜しくね、叢雨君!」


「あぁ。宜しく、鳴神」


こうして俺たちは通常の鍛錬が終わった後、二人で自主練をするようになった。

そうしてしばらくした頃、鳴神からこんな質問をされた。


「ねぇ、叢雨君は何のために剣道を習ってるの?」


「何のために?」


「私はおじいちゃんが道場の師範で、才能があるからって理由だけで続けてるけど、他の人はどうなんだろうなって気になって」


「俺は……」


何のためにか…確かに少し前の俺は何となくでやってたけど、今はちゃんとした目的がある。


「俺は、誰かを守るために強くなりたい。困ってる人全員を助けることは出来なくても、手の届く所にいる人は守りたいって思うようになったんだ」


そう、鳴神が門下生に竹刀で叩かれそうになったあの時、もし俺があそこにいなかったら、もしあの門下生が大人だったらと思うと怖かった。俺が弱いままだといずれ大切なものを失ってしまう。だから–––––


「………」


「ん?どうした?」


「ううん!何でもない!!」


「そうか?」


「じゃあ、もし私に何かあった時は守ってくれる?」


「あぁ、今はまだ鳴神や他の門下生よりも弱いけど、いずれ誰よりも強くなって–––––」


"お前を守ってやる。約束だ!"

次回異世界に行きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ