ネフトの謎
次の日の朝、俺はいつもの様にティアと鍛錬を行っていた。
しかし、頭では昨日の洞窟での出来事ばかり考えてしまい、全く集中出来ていなかった。
「……ユウトさん、どうかしたの?」
見かねてティアが声をかけてくる。ティアに打ち明けるのは簡単だ。「昨日、Eランクのパーティーが難なく勝てる魔物に苦戦しちゃってさ、俺って弱いよな〜」と、ただ言えば良い。
でもそうする事は出来なかった。緊急クエスト以来、ティアは俺にとって守るべき存在となっている。そんな子に、自分の弱さを見せる事を無意識で躊躇ってしまう。それに、ただでさえティアは俺よりも遥かに高いステータスを持っている。
たとえ相手が俺の弱さを知っていても、それを自分から見せる様な事はしたくなかった。
「いや、何でも無いよ」
だから俺は、何も無い風に装い返事をする。ティアに余計な心配をかけるわけには行かないからな。
「今日はここまでにしよう。ネフトさんの店にも顔を出さないといけないし」
「う、うん……」
各々の感情に陰りを残したまま、その日の鍛錬は終了した。
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宿で朝食をとった後、俺達はネフトさんの店に向かった。朝食を食べてる最中何度かティアの視線を感じた気がするが、気のせいだろう。
「来たか、ユウト。今詳しい情報が入った所だ」
「こんにちは、ネフトさん」「こんにちは」
「ん?そっちの嬢ちゃんは?」
「初めまして。私はユウトさんとパーティーを組ませて貰ってる、ティアと言います。よろしくお願いします」
「そうか。俺はネフトだ。よろしく頼む」
そういや、ネフトさんとティアは初対面だったか。そんな当たり前の事まで忘れてるなんて、大分堪えてるな……気にしない様には努めてるつもりなんだけど……
「それでネフトさん、詳しい情報と言うのは?」
「あぁ、どうやら奴隷商の男は用心棒を雇ってるらしくてな。一筋縄では行かないみたいだ」
「その用心棒と言うのはどんな人なんですか?」
「姿は分からない。とにかく相当腕が立つのは確かだな」
そんな用心棒まで雇ってるなんて……それだけ今回の仕事は重要なのか?
「分かりました。では、俺達はそいつを突破して奴隷商の男に、他種族を捕まえるのを辞めさせれば良いんですね?」
「あぁ。用心棒の男を何とかしてくれりゃ、後は俺が何とかする。頼んだぞ?」
「出来る限りの事はしてみます」「分かりました」
俺達は揃って返事をする。用心棒として雇われてる人は一体どんな奴なんだ?
「それと、ちょっと待て。お前らそんな装備で依頼受けるつもりか?」
唐突にそんなことを言われた。
「と言われましても、俺達にはこれしかありませんし。自由にできるお金もそんなに無いので……」
「あぁもう分かった!!俺が見繕ってやる。そんな装備でやられちゃ、こっちが不安だ!」
そう言うと、ネフトさんはカウンターの奥に入ってしまった。
暫くすると、ネフトさんが戻ってくる。その手には、大量の武器が入った箱を持っていた。
「これらは色んなツテから手に入れた掘り出し物だ。ホントは良い値で売りつける予定だったんだが、依頼の前払いだ。好きなのを選べ」
「え、タダでこの中から選んで良いんですか!?」
「あぁ、特にお前のその剣。それもう壊れる寸前だろ?良い機会だから他のに替えとけ。それと嬢ちゃんも、そんな安物の短剣なんか使わずにこん中から好きなの選んでそれを使ってくれ」
「私も良いんですか?」
「遠慮すんなよ。依頼の報酬の前払いだ」
そう言うとネフトさんは俺達に箱を手渡す。
「済まないが、防具は置いてねぇんだ。出来れば防具も新調してやりてぇが……」
「いえ!武器だけでも十分有難いです!ありがとうございます!」
そう言うと、俺達は早速武器を選び始めた。
俺達のために予め絞って来てくれたのか、箱の中には片手剣や短剣しか無かった。
色んな武器を手に取ってみる。すると一つの武器が俺の目に止まった。
それは武器としては珍しく、水色の刀身を持つ片手剣だった。両刃で刀身は広く、そこそこ長い。重さは少し重いと感じる程度。しかし、どこかしっくりくる様なそんな感じがした。
その剣を手に取って見ていると、ネフトさんが声をかけてきた。
「そいつは、"ダーク=ブレイブ"だな。その昔、勇者が魔王を倒す旅の最中に愛用していた剣らしい。切れ味も耐久力も中々の優れものだ。名前の由来は、『人々を導く勇者』から取っているらしいな」
"ダーク=ブレイブ"、『人々を導く勇者』か。
凄い名前だな、流石勇者愛用の武器。
「よくそんなこと知ってますね?」
「まぁこの剣作ったの俺だしな」
「ヘぇ〜そうなんですか…………ええッ!?」
マジか!?この人武器まで作れるのか!というか勇者の武器を作るって……
「ネフトさん、貴方何者なんですか……」
「まぁ細かい事は気にすんな」
さっぱり細かく無いと思うんだがな……まぁ一々気にしてても仕方が無いのも事実だ。
「じゃあ、俺これにします」
「分かった。大事に使ってくれよな?」
「はい」
折角ネフトさんがくれたんだ。大事に使うに決まってる。それにもう武器を砕くのは嫌だしな……
「あの、ユウトさん」
武器選びを行っていたティアがこっちにやってきた。
「どうかした?」
「その武器、特殊な効果があるみたいです。パッシブスキルが共有化されてるはずですから、私の【鑑定】を使ってみてください」
あぁ、そうだった。【回復の誓い】にばっかり気を取られてて忘れてたけど、ティアの【鑑定】も使えるんだったよな。
「あぁ、分かった」
とりあえず言われた通り【鑑定】を使ってみる。
すると、剣のステータスの様な物が見えてきた。
ダーク=ブレイブ
レアリティ:A
【耐久力】A
【切れ味】A
【使いやすさ】B
[魔法無効][ーーー]
これが【鑑定】の効果か。武器のステータスはランクで表されるのか。でも一つ気になる物があるんだが……
「スペルブレイク?」
「どうやら魔法による効果を打ち消すことが出来るようです。また、実体の無い物にも攻撃を当てる事が出来ると書かれています」
ティアが補足してくれた。俺には見えないが、ティアの【鑑定】は、武器に付いている効果の詳細も分かるようだ。
ようやく理解した。パーティーメンバーに共有化されているパッシブスキルは、少し効果が落ちる様だ。
「ありがとな、ティア。まぁ俺は魔法を見た事が無いからどの位凄いのか分からないが、結構凄いものなのは分かった」
「魔剣クラスです!こんな剣今までに見た事もありません!!」
そうなのか。まぁ武器は、使い手によって業物にもなるしナマクラにもなる。こいつの力を引き出せる様に俺も頑張るか。
「そういうティアの短剣もかなりの業物じゃ無いのか?」
魔双剣 疾風・迅雷
レアリティ:A
【耐久力】A
【切れ味】A
【使いやすさ】A
[素早さUP・中][麻痺付与・小]
「そう見たいですね。装備している人の素早さを上げ、偶に敵を麻痺させる効果があるようです」
そっちも負けず劣らずの魔剣だ……何で自分の武器になるとそんな冷静になるんだよ……戦闘では断然そっちの効果の方が有利じゃん!
「お前ら中々良い武器を選ぶじゃねぇか!そいつらは俺が作った中でも1、2位を争うものだぜ?」
と言うかマジでネフトさん何者だよ……もう突っ込んだら負けな気がしてきた……
「こんな良い武器、本当に貰って良いんですか?」
「あぁ。その代わり何度も言うが、大事に使ってくれよ?」
「「分かりました」」
俺とティアはお礼を言う。これは何が何でも奴隷商を捕まえないといけなくなったな。
「–––た、大変だ!!」
やる気をみなぎらせていると、突然店のドアが開いた。
そこから入ってきたのは、先日俺にここを教えてくれた、グリードだった。
「どうした?」
ネフトさんがグリードに聞く。
「ギルドマスターが、何者かに攫われたみたいなんだ!!」
––––––また、事件が起こる………




